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2019年10月には「設計・施工ガイドライン」〔改訂版〕を発刊

高速道路の大規模更新等に使われる「DAK式プレキャスト壁高欄」の技術変遷

DAK式プレキャスト壁高欄工法研究会
DAK式プレキャスト壁高欄「設計・施工ガイドライン」(改訂版)
作成GW委員長

上平 謙二

公開日:2020.01.31

2011年に開発に着手
 ループ継手構造を標準として採用

 DAK式プレキャスト壁高欄(以下、DAK式壁高欄という)は、2011年頃から、今後の高速道路橋の老朽化に対する更新事業を見据え、NEXCOの橋梁用剛性壁高欄をターゲットとして、NEXCO総研・橋梁研究室と連携して開発に着手しました。
 勿論、プレキャスト壁高欄ですので、床版との接合構造及び橋軸方向の壁高欄同士の接合構造をどのようにするかが課題でしたが、開発のコンセプトとして、基本的に、通常施工されている場所打ちの連続壁高欄のような衝突荷重に対して、特に、鉄筋応力度の安全率を確保できるような構造にすることを考えました。そのため、鉄筋配置も場所打ち壁高欄と同様な鉄筋配置とする事が必要だと考えました。
 また、橋梁の平面線形に伴うプレキャスト壁高欄の橋軸方向の角折れや、縦断線形に伴う、床版の勾配等に柔軟に対応でき、更に、プレキャスト壁高欄の建込時の調整に、橋軸方向の移動や高さ調整ができ、構造的な安全性に影響を与えない接合構造にする必要がありました。
 そこで、床版との接合構造については、場所打ち壁高欄の鉄筋配置を変えない接合構造として、床版側に配置される壁高欄主鉄筋とプレキャスト壁高欄側に配置される主鉄筋を接合部でループ継手にする方法を採用しました。しかしながら、通常の実績のあるループ鉄筋継手では、接合部の継手長が長くなり、現場施工となる充填モルタルの施工として、現場施工の省力化に繋がらない結果となります。そのため、継手長を小さくする必要があり、図-1に示すループ継手構造を標準として採用し、衝突試験を実施して、その継手構造での安全性を確認しました。



写真-1 橋面上仮置き状況/写真-2 建込状況

橋軸方向の接合構造には孔明き鋼板ジベル
 面外曲げモーメント及び面外せん断力に十分抵抗

 一方、橋軸方向の接合構造ですが、こちらは、壁高欄天端で250mmという比較的狭い範囲で、しかも、場所打ちの連続壁高欄と同様な橋軸方向の構造特性を有する事を目的とし、また、平面線形や縦断線形への対応をも考慮して、複合構造で実績のある孔あき鋼板ジベルを採用しました。つまり、プレキャスト壁高欄の一方の端部に配置した孔あき鋼板ジベルを、逆台形型の縞鋼板を配置した溝を設けたプレキャスト壁高欄側に差し込み、この溝に高性能なモルタルを充填して一体化する構造です。これにより、衝突荷重によって壁高欄同士の接合部に生じる橋軸方向引張力、面外曲げモーメント及び面外せん断力に十分抵抗できる継手構造にすることができ、場所打ち壁高欄で施工される収縮目地部の構造に近い力学的特性を有する継手構造ができました。勿論、この構造についても、衝突試験により、安全性を確認しています。
 これらの継手構造がDAK式プレキャスト壁高欄の基本構造です。その標準的な詳細図を図-2に示します。



写真-3 建込後の仮固定状況/写真-4 モルタル充填用型枠設置状況

塩害に対する抵抗性が従来比約4倍に向上
 新たな標準化方法を考案

 更に、DAK式プレキャスト壁高欄の場合、構造特性の他に、耐久性の観点からも新しい試みをしています。これは、プレキャスト壁高欄本体については、標準的に、早強ポルトランドセメントをベースに、高炉スラグ微粉末を30%以上混合しているという事です。これにより、塩害に対する耐久性は、解析的な検討ではありますが、塩化物イオン濃度として、鉄筋が鋼材腐食発生限界濃度に達するには約80年の経過が必要であることが分かっており、一方、接合モルタルにも高炉スラグ微粉末を混合しており、壁高欄以上の耐久性があることが分かっています。これにより、DAK式壁高欄は、一般的な場所打ち壁高欄よりも約4倍程度塩害に対する耐久性が向上すると思われます。
 DAK式壁高欄は、特に、現場の省力化を目指し、最初の実績からの反省を踏まえ、改良を加え現在に至っています。そのため、2017年(平成29年)にDAK式プレキャスト壁高欄「設計・施工ガイドライン」(初版)を発刊しましたが、それから、2年経過した2019年10月に「設計・施工ガイドライン」〔改訂版〕を発刊しました。これは、実績が増えたことによる内容のブラッシュアップとDAK式壁高欄の標準化構造を纏めた事、更に、NEXCOの衝突安全性に関する「試験法441」に準じた試験を実施して安全性を確認した内容を盛り込んだ事によります。
 ここで、標準化構造は、現場施工の工期短縮を目的として、図-3に示すように以下の特徴を有する構造としました。

① プレキャスト壁高欄の下端前面に袴を設けた構造にしました。
② 接合部のモルタル充填は、プレキャスト壁高欄同士の接合部の上からとしました。
 上記①の主な目的は、接合部の充填モルタル量を削減する事、前面型枠の設置範囲を小さくする事、そして、接合部上方の壁高欄との界面を下方に下げる事によって、接合部を含め防水工を施工出来、接合部の上方の界面が壁高欄表面に出てこなくなることです。これによって、接合部の充填モルタル量については、接合部断面積が当初の断面積に比べ80%程度に削減できる事、耐久性の向上が図れる事、そして、ドライバーからの景観が向上する事が上げられます。
 一方、上記②の主な目的は、充填用及びエア抜きホースを設置する必要が無くなり、型枠脱型後の処理等が無くなり、工期短縮に繋がる事が上げられます。

 この標準化構造の採用により、壁高欄施工延長150mの橋梁では、壁高欄片側で、昼間作業1班体制で、壁高欄搬入、建込から片付けまで、概ね8日(設計・施工ガイドライン「改訂版」より)の工期に短縮できており、当初の接合構造から工期短縮に貢献できていると思っています。


写真-5 接合モルタル充填状況/写真-6 型枠脱型後の完成状況

 お陰様で、DAK式プレキャスト壁高欄工法研究会の会員会社(製作会社)も、現時点で(株)IHIインフラ建設、(株)愛橋、(株)安部日鋼工業、オリエンタル白石(株)、川田建設(株)、極東興和(株)、昭和コンクリート工業(株)、ドーピー建設工業(株)及び(株)富士ピーエスと9社となっており、NEXCOの実績では、2019年9月現在、17橋の実績を頂いており、現在計画・設計頂いている橋梁が数橋あります。
 DAK式プレキャスト壁高欄工法研究会では、今後、更に現場での工期短縮を睨んだ改良を検討していきたいと思っています。工法研究会のホームページもリニューアルしていますので、今後の計画に是非、ご活用頂ければと思います。(2020年1月29日掲載)

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