道路構造物ジャーナルNET

第50回 「人」「人財」「技術者教育」

民間と行政、双方の間から見えるもの

富山市
建設技術統括監

植野 芳彦

公開日:2020.01.16

1.はじめに 

 新年あけましておめでとうございます。本年もよろしくお願い申し上げます。
 さて、最近、講演を頼れるとテーマに「人」「人財」「技術者教育」ということが言われる。そういうことが、よく言われるということは、そこに課題が有るということであるが、かなり、難しいと考えている。

2.どのような人材が必要なのか?

 富山市に赴任して6年目である。私の役割は富山市のインフラ全般を見ることと、職員教育を依頼されている。待遇等は人事院で定められている、「特定任期付職員」の規定に基づく。富山市以外の自治体を見ると15市程度の自治体において、同制度を利用しているようであるが、富山市と長崎市以外は弁護士である。(富山市には弁護士も在席)長崎市では、「景観専門監」という形で、街づくりの景観担当として九州大学の高尾先生を採用しているが常駐ではない。この高尾先生とは、インハウスにも確固たる技術者が必要だということで、「インハウス・スーパーバイザー制度」を推奨しているが他の自治体では、いまのところ採用されていない。ということは、技術は必要がないと判断している自治体がほとんどであるということである。
 富山に来るにあたっては、自分で、さまざまな事前調査をおこなった。結果的に何度か、お断りしている。待遇面や様々な状況に鑑みるに自分自身へのリスクが大きいからである。何よりも、経済面で相当に大きいものが想定され現実そうであった。さらに、人の問題である。地元の技術力やその仕事ぶり、地域性など・・・・。これはマネジメントの基本である。しかし、当時の副市長の神田さん(現・オリンピック組織委員会)の三顧の礼に答えたかっただけである。
 話がそれたのでもどるが、結局結論は「技術」「技術力」と言っている割には技術力は要らないということである。20代からシステム開発も、橋梁設計などの通常の業務の合間にやってきた。システムは「どこまで機械にやらせるか?」ということが開発コストにも時間にもかかわってくる。今、AIが脚光を浴びているが、これもそうである。かつて、20数年前に「橋梁形式選定のAIシステム」というものを開発したが、これは、現在のAIとは違い、エキスパートシステムであったが、結局は「ifとthen」の繰り返しであった。つまり仮定と判断の繰り返しであった。これはまさに技術の世界と一緒である。技術はどう判断していくかが重要なのである。

 今見ていると、判断をつけられない者が多い。または、良くない判断をして行ってしまう者が多い。これはひとえに知見の無さ。技術者としての経験不足である。中にはどうしても判断が苦手であるという者もいるが、そういう方は、技術者にも向かないし、判断をする仕事をしてはいけない。
 最近の若手の技術者が、不幸なのは大規模プロジェクトが無いことである。これで、経験値が大きく変わってしまう。ちょうど私の世代が、本州四国連絡橋最後の世代。手計算、手で図面を描いた最後の世代と言われている。さらには、現場の経験はもちろんであり、基準類をどう作成するか?非破壊検査は?補修材料や補修工法は?と維持管理における分野は広く深い。経験すべきことが山ほどあるわけだが、これに、どうかかわるか?これも、判断である。
 現在はセカンドステージに向かい活動するかという議論であるが、「新技術の採用」ということが、盛んに言われる。しかし新技術を採用していくことは結構労力がかかる。これを打開する方策もよく話題に上るわけである。新技術を大学やコンサルと組んで開発し、コンサルに売り込む。ここまでは良い。しかし、それでは採用されないということを理解されているだろうか?決定権は官にある。官が使おうと思わなければ使われない。だから、官が偉いのだというのではない。売り込み方が違っている。ただ、コンサルの知見に基づいた提案というのも重要である。何も提案できないコンサルというのも問題である。それぞれの立場で、もっと、どん欲に情報を収集し、一方的に話を聞くのではなく、公正公平な評価をする覚悟で、判断するということが必要である。


橋梁の調査状況

 人間とは難しいもので、様々な生い立ちや、経験が基になり、判断をしていくことになる。AI以上の機能が人間には備わっているのである。その判断力に責任や覚悟といった要素も十分に備わった者が必要なのだ。

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