道路構造物ジャーナルNET

シリーズ「コンクリート構造物の品質確保物語」㉕

群馬県編① 品質確保の取組みはモノに魂を込める「モノづくり」に通じる

横浜国立大学
大学院 都市イノベーション研究院
准教授

細田 暁

公開日:2018.05.31

群馬県版施工状況把握チェックシートを作成
 平成28年度には試行工事を62現場に拡大

 細田 山口県の場合、ひび割れ問題で施工業者が非常に苦労していたという切羽詰まった状況から、取組みがやむを得ず始まったという見方もできます。動機がないと行政では始めることが難しく、品質確保の取組みは考え方によってはやらなくてもよい、従来のままで何が悪い、という考え方になりがちです。県が積極的に関わるのはかなり大変だと思うのですが、群馬県の場合はなぜ関わるようになったのでしょうか。
 三田 私がいた契約検査課では工事の表彰審査もしていました。表彰審査で現場に行くと、完成時には発生していなかったクラックがたくさん出ているケースがあり、それだけで表彰の対象から外れてしまいます。そういうことが以前からあり、施工業者からは県が対応してくれない、設計に問題がある、何かあればすべて現場のせいにするということを聞いていて、これはやはり県として関わるべき必要があると思いました。
 細田 平成27年度から3年間の試行期間を経て、ガイドラインやデータベース構築の総仕上げに入っていると思います。平成30年度からいよいよ山口県に続いてシステムの本格運用となります。難しい取組みを順調に進展するために、三田さんはじめ県の方々はこれまでどのような手を打ってきたのでしょうか。
 三田 平成25年度からの研究会幹事に山田真次氏(当時建設企画課)がいます。彼は共同研究の成果を活かし、山口県の取組みを群馬県で導入するために具体化させようと考え、「コンクリート品質確保WG」を平成27年1月に設立しました。WGの座長は下田剛久氏(当時建設企画課)が務め、県内関係者の合意の下で作業を進めるため、群馬会のコンクリート研究会の関係者に加えて、県内の土木事務所や県建設業協会の技術部会からも委員を選出してもらうなど、取組みについての理解と協力を得ることに成功しました。
 山田氏は350委員会とともに平成27年1月に山口県を訪問して、山口システムに対してさらに衝撃を受けるとともに理解を深めました。また、群馬県では建設と維持管理を同一組織で行っているため、他県よりはシステムの実現可能性が高いと考えました。2月の第2回コンクリート品質確保WGで、群馬県版施工状況把握チェックシートを作成するなど、平成27年度からの試行実施に向けて準備を進めています。
 平成26年度の県の定期人事異動で、試行工事を指揮する建設企画課の担当に山田氏の後任として鹿沼大成氏が着任しました。彼は試行工事を始めるにあたり、対象となる工事現場や担当職員を慎重に選定してくれました。意義や目的をしっかり把握したうえで、周囲に配慮しながら思慮深く物事を進める鹿沼氏のスタイルと、それらをしっかりバックアップする所属長をはじめとする関係者の深い理解があったことも、取組みが順調に進展したひとつだと考えています。
 平成27年5月には、関係者を対象とした群馬県職員研修「コンクリート品質確保研修」が2日間の日程で開催されました。この研修では、半井先生、細田先生、二宮氏(山口県)などが講師を務め、試行現場の監督員、研修担当職員(次長等)、試行工事の施工者(現場代理人や主任技術者)など約50名が参加しています。



2日間にわたり開催された「コンクリート品質確保研修」

 平成27年9月には、鹿沼氏のほか、試行現場を担当していた鳥塚靖典氏(当時安中土木事務所)と下山秀男氏(当時八ッ場ダム水源地域対策事務所)の二人が、半井先生や私と一緒に山口県の技術講習会に出席しています。二人は、山口県のシステム導入後の構造物を見て、「こんなに良いものができるのか」と、取組みへの重要性を体感したと言っていました。これは、その後の群馬県での取組みに非常に良い影響をおよぼしています。
 私は、平成27年度は群馬県建設技術センターに出向して事務局長をしていました。県における品質確保の取組みと連動する形で、新しいデータベースの構築を建設技術センターでスタートさせました。
 平成28年度にはコンクリートの品質確保の試行対象現場を、前年度の23現場から62現場に拡大しています。施工状況把握チェックシートを用いた施工の総再点検の実施に加え、目視評価法なども活用しつつ、発注者と施工者の対話の深化とコンクリートの品質確保に努めてきました。平成29年度は、人事異動で県(建設企画課)の担当者が鹿沼氏から神尾崇氏に交代し、新体制の中で平成30年度からの本格運用に向けてガイドラインの策定が進められました。



平成29年7月に開催された研究会と講演をする舌間孝一郎先生

群馬オリジナルの設計状況把握チェックシートを策定
 取組みの意義はより良いモノを、より安全に構築するため

 細田 半井先生は群馬県の取組みに不可欠な人だと思いますが、平成24年度の途中に広島大学に異動になりました。その後はどのような関わり方をされているのでしょうか。
 三田 異動されてしばらくは研究会に残っていただきましたが、現在は離れて、舌間先生が一緒に活動をしてくれています。ただ、品質確保WGのなかのガイドライン作成は重要なことですので、引き続き半井先生に委員長をお願いしています。
 細田 コンクリートの品質確保を県のシステムとしてきちんと構築して運用するのは難しいことなので、群馬県が取り組んでいることに山口県も期待していると思います。また、山口システムひとつだったものに群馬システムが加わり、ふたつになることで刺激しあい、さまざまなことが出てくると思います。そこでですが、群馬システムのオリジナリティを教えてください。
 三田 設計状況把握チェックシートの策定があります。現場で施工しやすい形を設計者がチェックシートを作成することにより考えてくれるのではないかという狙いで策定しました。また、表層品質を把握するための散水試験があります。ガイドライン本体ではなく参考資料のなかに入れて、簡易的に表層品質を把握できるツールとして紹介しています。
 システムのベースは山口県なので、山口県も非常に群馬県の動きを注目していると思います。山口県と群馬県の両輪というと大げさかもしれませんが、お互いに切磋琢磨し、意見交換をしながら、継続的に行っていければいいと考えています。
 細田 システムを運用していくとさまざまな取組みを行うので、多くのチャンスが生まれます。例えば、山口県の講習会は関係団体がすべて協賛になっていて、ほぼすべての団体から発表があります。それは情報交換の場であり、約500人の参加者の前で発表することは成功体験になります。他県の人をふくめてつながりができ、成長していく場を提供していくことにもなるのです。山口県はそれを継続してきましたが、関東にも同じ場ができ、新潟県も取組みを始めています。それぞれがつながり、世の中を良くしていこうという品質確保の取組みの意義をどのようにお考えでしょうか。
 三田 ひと言でいえば、より良いモノを、より安全に構築することになります。「より良いモノ」には、耐久性や利便性、美観、環境への配慮、維持修繕のしやすさなど、さまざまな視点があると思います。「より安全に」には、工事という行為そのものの品質、いわゆる出来型の確保から施工状況や施工体制、工程管理、安全管理などが適切であるか、さらに第三者への工事の影響の軽減など現場管理が適切であるかなど、これもさまざまな視点があると思います。
 究極的には、大和言葉のなかに「モノづくり」という言葉がありますが、品質確保はここに通じているのではないかと考えています。単につくればいいというものではなく、モノをつくるなかで魂を入れることが大切だと考えています。


より良いモノを、より安全に。試行現場(金井南牧跨道橋下部工)での取組み例

 細田 心や魂を込めるモノづくりは大切だと思います。さらに、モノづくりにおいては良い方向を目指して議論をすることも重要です。適切に議論をすれば基本的にはどのような懸案事項も解決します。
 三田 私は数年、民間の会社に勤めた後に県庁に入庁しました。民間にいた時に、いいものをつくることを教わりました。「とにかくいいものをつくれ、儲けるのはそのあとだ」という方がいて、私はそれをずっと肝に銘じてきました。
 役所では、発注者権限が強くて上から目線の人が多すぎると感じていましたが、私は現場で作業員の方々との対話、現場代理人や主任技術者の方々との議論などを、同じ目線でするように心がけてきました。そういうことをすると、業者に甘いと言われたこともあります。しかし、私は良いものを残したいですし、業者の人たちも不完全なものは残したくないわけです。彼らには職人魂もあります。それらを私はずっと大事にしてきましたし、今でも変わりません。上から言われたことを機械的に行い、それで出世できる、そのような姿勢と考え方は論外だと思っています。

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