道路構造物ジャーナルNET

コンクリート構造物の耐久性向上を定量的に確認

シラン系表面含浸材の含浸深さの非破壊管理を目指して

国立研究開発法人土木研究所 
寒地土木研究所 耐寒材料チーム
主任研究員

遠藤 裕丈

公開日:2018.03.26

■はじめに

 シラン系表面含浸材(以下、シランと記します)は、水や塩化物イオンの侵入を抑制する機能をコンクリート表層に付与する浸透性のコンクリート保護材です(シランの特徴については既稿(1で紹介しておりますので、本稿では割愛させていただきます)。施工性、経済性、安全性に優れ、施工実績も増えております。
 その一方で、施工を通じて、これまで見えていなかった色々な課題も明らかになってきました。著者は北海道開発局の協力を得ながら、シランを塗布したコンクリート部材の追跡調査を行うとともに、新たに明らかになった課題の解決に向けて、様々な取り組みを進めています。
 本稿では、その一つとして、シラン系表面含浸材の含浸深さの非破壊管理技術の確立に向けての取り組みについて、ご紹介します。

 シランの塗布によりコンクリートの耐久性向上を図るには、適切なシラン製品を選定し、表面から深く含浸させ、厚い吸水防止層を形成させることが大切です。ところが、シランの施工において管理されるのは主に塗布量であり、実際の部材において含浸深さ(吸水防止層の厚さ)が直接、管理・確認されることはほとんどありません。
 含浸深さは施工後、部材からコアを採取して確認することはできます。しかし、シランの塗布を終えた新設の部材からその都度、コアを採取する管理方法は、必ずしも効率的とは言えません。部材の損傷や作業性の課題もあります。中にはPC桁のように、コア採取が困難なケースもあります。
 そこで、こうした問題に対応するため、シランの施工時に、大凡の含浸深さを非破壊で簡易に管理できる技術の開発に取り組むこととしたものです。

■着想

 図-1は、コンクリート表面にシランを塗布する範囲と無塗布の範囲を設けて、塗布した後のシランの含浸状況を調べた一例です。シラン塗布範囲と無塗布範囲の境目付近の割裂断面をみると、シランはコンクリートの深さ方向に加えて、無塗布範囲においても境目付近から表面に沿った方向(以下、表面方向と記す)へ含浸していることがわかります。境目付近から無塗布範囲の表層への含浸形態は、完全な同心円ではありませんが、ほぼ同心円に近い形を呈しています。

 
図-1 シランの含浸状況の一例(割裂断面に水を噴霧したときの状態)

 こうした含浸現象の特徴をもとに、この取り組みでは、図-2 に示す概念のように、コンクリート表面の一部に無塗布範囲を設け、塗布範囲の端部から無塗布範囲へ表面水平方向に含浸したシランの含浸距離を外観で把握することにより、シランの含浸深さを非破壊で簡易に管理する技術の開発を目指しています。
 この方法を確立・実用化できれば、コンクリート部材を壊すことなくシランの含浸深さを管理することができます。また、管理終了後は無塗布範囲にシランを塗布することで、シランが含浸された状態の完成した部材を、ほぼ無傷の状態で発注者に引き渡すこともできます。


 図-2 確立を目指している評価方法の概念

■実験内容の紹介

 この取り組みは現在も進行中で、途中経過ではありますが、課題を共有するみなさんに広く知っていただくため、これまでの実験内容について紹介します(失敗例も述べていますが、ご容赦下さい)[1]、[2]。

(1) 実験室での検討

 図-3に示すように、無塗布範囲とするコンクリート面に養生テープを貼り、テープを貼った状態でシランを下向きに塗布しました。塗布面は打設面です。翌日以降にテープを剥がし、無塗布範囲の表面をディスクサンダーで約1mm削って表層を露出させ、図-4に示すように水を噴霧して表面方向へのシランの含浸距離(L2)を求めました。その後、供試体を割裂して、割裂断面に水を噴霧して実際の含浸深さ(L1)を測定し、L2との相関を調べました。シランは、北海道開発局道路設計要領[3]の仕様を満たす市販の製品を使用しました。


 図-3 塗布状況の一例

図-4 測定状況の一例

 図-5は含浸しにくいコンクリート部材での施工を想定し、水セメント比25%のコンクリートを使用したときの実験の結果です。コンクリートが緻密なため、表面水平方向への含浸距離と実際の含浸深さがともにゼロの結果が多かったのですが、表面水平方向への含浸距離が実際の含浸深さよりも明らかに大きい結果も得られました。この点について以下に説明します。
 
図-5 水セメント比25%のコンクリートを使用した実験の結果

 図-6はシランを塗布してから2 時間後に撮影した水セメント比25%のコンクリート表面の様子です。コンクリートが緻密で含浸せず、表面に溜まったシランの一部が塗布範囲に留まらず、無塗布範囲に貼ったテープとコンクリート表面の隙間に侵入する等、無塗布範囲へ流出している様子がわかります。これが結果に影響したように考えられます。このことから、この評価方法を成立させるためには、シランを確実に塗布範囲に留まらせる、もしくは流出したとしても、無塗布範囲の表面にシランを付着させない工夫が必要であることがわかりました。

 
図-6 水セメント比25%のコンクリートを使用した実験状況の一例

 図-7は含浸しやすいコンクリート部材での施工を想定し、水セメント比65%のコンクリートを使用したときの実験の結果です。y=xの直線近傍にプロットされた結果も多かったのですが、中には表面水平方向への含浸距離が実際の含浸深さよりも大きい結果も得られました。
 テープとコンクリートの隙間にシランが侵入して無塗布範囲の表面を伝ったことや、ブリーディングによって表面に形成された脆弱層に起因して表面水平方向へ大きく含浸したこと等が理由として考えられます。

 
図-7 水セメント比65%のコンクリートを使用した実験の結果

 図-5、7のデータから、①コンクリートが緻密で含浸せず、塗布範囲の表面に溜まったシランの一部が無塗布範囲の表面を伝ったデータ(塗布後の状況写真(図-6)をもとに抽出)、②ブリーディングによって表面に形成された脆弱層に起因して表面水平方向へ大きく含浸したデータ(シラン塗布前にディスクサンダーで表面処理を行わなかったものを抽出)を除外すると、図-8のようになります。
 このように、改良すべき余地はまだ残りますが、塗布したシランは確実に塗布範囲に留まらせる、測定前に表面薄層をディスクサンダー等で除去する等、①、②の防止に配慮することで、この方法は部材におけるシランの含浸状況を非破壊で大凡把握・管理できる実用的な管理手法となり得ると考えています。


図-8 表面水平方向への含浸距離と実際の含浸深さ(コンクリートの高緻密性および脆弱層の存在に起因して無塗布範囲の表面をシランが伝ったデータを除外したもの)

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