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④“マッチ・ポンプ”からの脱却!≪名港西大橋Ⅱ期線の無人ケーソン≫

高速道路の橋とともに40年

中日本ハイウェイ・エンジニアリング東京株式会社
チーフエンジニア(橋梁担当)
宮内 秀敏 氏

 今回は私が携わった事業から、名港西大橋Ⅱ期線を取り上げたい。1998年3月に供用を開始した伊勢湾岸道路東海IC~飛島IC間6.1㎞には、名港東大橋、名港中央大橋および名港西大橋からなる長大斜張橋群“名港トリトン”が建設されている。このうち名港西大橋は、諸般の事情から上下線分離構造となっており、Ⅰ期線は一般有料道路名港西大橋として、1985年3月に供用した。これら長大斜張橋の塔基礎は、すべてニューマチックケーソンを採用しているが、なかでも名港西大橋Ⅱ期線は、世界初となるヘリウム混合ガスシステムを併用した無人掘削工法により施工されている。本稿では、名港西大橋Ⅱ期線の基礎工事について、その概要と無人掘削システムの開発経緯等を、工事長として携わった当時を振り返りながら紹介したい。



【名港西大橋の塔基礎の特徴】

 図-3をご覧いただければ分かるように、名港西大橋付近では良好な支持地盤となる東海層が確認されておらず、TP-80m付近まで砂質土と粘性土で構成されている。砂礫層も-70~80m以深である。このため、名港西大橋では、TP-40m~45mの中間砂層に支持層を求めている。ところがこの下層には粘性土層があり、この圧密降伏応力の評価がケーソン寸法の決定要因となっていることから、Ⅰ期線、Ⅱ期線とも、およそ1,000㎡の底面積を有する大規模ケーソン基礎となった。このため、名港西大橋は3車線の橋梁であるが、6車線の名港中央大橋や名港東大橋とほぼ同規模のケーソン底面積となっている。


【無人掘削工法開発の目的】

超近接施工対策として

 名港西大橋のⅠ期線とⅡ期線基礎の純間隔は、13m余りしかない。これはⅡ期線ケーソンの構造幅(40m)の3分の1に相当する超近接施工である。また、ケーソン深度は、P2=TP-45m、P3=TP-40mである。調査の結果、支持層の間隙水圧は、ほぼ理論静水圧に近い値を示したことから、それぞれ0.45Mpa、0.40MPaという高気圧下での作業となり、著しく非効率となることが予想されたため、その対策としてディープウェルにより揚水し、作業気圧を0.3MPa程度に抑えることとしていた。

 しかし、この方法だとⅠ期線を支えている地盤が乱され、支持力が低下する懸念があるため、Ⅱ期線ケーソンを囲むように薬液注入による遮水壁を構築する計画であった。(図-4)解析上はⅠ期線への影響を回避することは可能としていた。 しかし、当時工事長として赴任したばかりの私としては、この解決方法に少なからず疑問を感じていた。そもそも、この方法はいわゆる“マッチ・ポンプ(自作自演)”ではないのか。つまり、揚水で原因を作っておいて、遮水壁でそれを打ち消す・・・。よくよく原点に返って考えてみると、ニューマチックケーソンの作業気圧を下げずに施工できれば、揚水が要らなくなり、原因を“もとから断つ”ことができると、設計施工委員会の現場視察中の船上でふと思いついた。しかし、作業気圧を下げなければ、最大0.45MPaとなり、有人掘削は現実的でない。それなら、函内に人が入らず無人で掘削できないか。これが無人掘削工法への変更を決断した瞬間であった。

 当時いわゆる無人掘削工法自体はすでに開発されており、施工例も報告されていた。しかしながら、完全な無人化には至っておらず、掘削機の点検などの作業は有人で行うこととなる。この問題を解決すべく、海難救助や軍事目的等で用いられていたヘリウム混合ガスを呼気として用いる深海潜水技術に着目し、情報収集を行った。この技術のニューマチックケーソン工事への適用については、産・学・官で研究がすでに進められており、0.7MPaまでのシミュレーションがされている状況であった。そこでこの技術をベースに、東京医科歯科大学、埼玉医科大学、オランダ・ライデン大学のご指導の下、本橋での適用可能性を綿密に検討し、「ヘリウム混合ガス併用無人掘削工法」として開発したのである。


②工期短縮と作業環境の改善策として
 ニューマチックケーソン基礎の場合、全体工期を決める要因は「掘削」と「躯体の構築」のバランスである。ケーソン掘削深度が浅い時点では効率的に掘削できるため、躯体構築(鉄筋、型枠、コンクリート工事)が工程を支配する。ところが、掘削が進むに連れて作業員のケーソン内での作業可能時間が短くなり、一人当たりの日作業量が低下する。作業量の低下を補うために作業員の数を増やすのは、ロックの数などから限界があることから、ある深度からは掘削で工程が決まることとなり、だいたい0.2MPaを超えると無人掘削工法が有人工法より有利となる。
 また、ケーソン掘削は、高気圧で多湿という苛酷な環境下での作業となる。作業後には、ホスピタルロックと呼ばれるカプセルに入り、徐々に1気圧に戻していくが、この減圧がうまくいかないと減圧症(高気圧下で身体に溶け込んだ呼気中の窒素が、減圧とともに血管の中で気泡となることによる重篤な障害)を発症することになる。図-5に例を示したように、作業気圧の上昇とともに発症率も高くなってくるが、無人掘削工法ではこの心配がない。このように、無人掘削工法は、近接施工対策としてだけでなく、工期短縮と作業環境の改善および安全性の向上も目指して開発したものである。

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