道路構造物ジャーナルNET

-分かっていますか?何が問題なのか- ㉛真の『安全・安心』と温かい血の通う技術者

これでよいのか専門技術者

(一般財団法人)首都高速道路技術センター
上席研究員

髙木 千太郎

公開日:2017.11.01

3.安心とはどういうことか分かっていますか?

 さて、読者が聞きたくない、何時もの『お小言』をここで言おう。
 安全で安心して暮らせる社会の実現が行政の目標である。安心という言葉は、社会的にもその概念は注目されているが、あまりにも日常的な言葉であるためか曖昧に理解され、使われている事例が多々ある。我々が関係する社会基盤施設、道路橋においても、技術的な安全基準を達成しても、人々の安心が得られていないことが、問題をより難しくしている。それは、多くの技術者が口にする「どの程度安全ならば十分安全といえるのか?」という問いかけが技術者の安全に対する疑心暗鬼状態を表している。高い技術力と想像力を駆使しても、完璧な構造物を造り出すことは出来ない。先にも話したように、安心となるとより難しくなる。安全であっても安心とならないのは、重要な問題として、我々が造った構造物を利用する人々に対して技術者の行った行為が、配慮に欠けると感じる場面が多々ある。技術に関する知識や情報を持たない一般の人にとって、担当する技術者が常識と判断したのか、倫理観に欠く行為が全てを無にする。ここで具体的な事例を持って説明しよう。
 ある幹線道路に架かる、どこにでもあるようなコンクリート道路橋がその事例である。この道路橋は、2000年に供用開始した写真‐15に示す取付け階段のある跨線橋だが、当然法制度で決められた点検を行っていた。

 私が問題としたいのは、定期点検における点検結果の現地表示についてだ。写真‐16を見てほしい。点検を請け負った調査会社が、コンクリート桁に発生しているひび割れをチョーキングして残した。請負業者の気持ちは痛いほど分かる。しかし、取付け階段を登る途中で否が応でも目線の高さにあるチョーキングが目に入る。0.1㎜の長さ50㎝のクラックがここにあるとマーキング、その写真を撮り、管理者に報告したのであろう。

 しかし、この橋を渡る利用者の目にはどう映ったのであろうか? 技術的な知識が無い利用者や住民にとって、赤色のチョーキングは危険な状態と目に映るのではないのか? 『安全・安心』で渡れるはずの道路橋に、配慮が全く感じられないマーキング、技術者の考えとしては安全確保のための法定点検を行った結果であるとの意思表示であるかもしれない。しかし、渡る人にとっては不安を掻き立てられるマーキングとなることが分かっていない。そもそも住民が、施工中の現場を見たことも無い、見ようと思っても囲われていて見られないコンクリート構造物が、使い始めて十数年でクラックだらけ、不安を抱くでしょう住民や利用者は。どうしてもマーキングが必要であるならば、せめて白色のチョーク表示で十分であるはずだ。それはそれとして、鉄筋コンクリート桁側面に発生している0.1㎜のひび割れですが、これは直ぐに重大損傷に繋がりますか? マーキングした技術者は、曲げひび割れとでも考えたのでしょうか? 本当にこの鉄筋コンクリート橋に曲げひび割れが発生していると判断したのであれば、それはそれとして問題ではあるが。点検作業の結果を残したい気持ちは分かりますが、貴方の技術力と倫理観を疑いますよ。

 我々技術者は、常に国民や施設利用者の『安全・安心』との評価を得ることが最大の成果だ。それには、優れた技術者と評価されるような環境づくりが必要である。その環境づくりの一つが先に示した工事の『見える化』であると考える。多くの人々に見てもらいましょう、知ってもらいましょうよ、我々の優れた技術と判断力を。多くの人が評価するのは、冷たい機械人間ではなく、温かい血の通った人間(技術者)であることを忘れずに。今回私が今回示した望ましい技術者のあり方の先には、国民の社会基盤施設に関係する技術者の評価があがるだけではなく、作業員、監督員そして関連技術者がプライドを持って業務にあたることで、その後から我々が待望する社会基盤施設の『安全・安心』が必ず付いてくることを私は最後に強く言いたい。(次回は12月1日に掲載予定です)

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