道路構造物ジャーナルNET

⑲インフラ・メンテナンスの地方の状況~点検は誰がやるべきか~

民間と行政、双方の間から見えるもの

富山市
建設技術統括監

植野 芳彦

公開日:2017.06.16

3.技術力考

 こういう仕事をしていると、良く「技術力」と言う言葉を聞く。自分自身さほど技術力が高いわけではないので、この言葉が嫌いである。田舎の中小企業の社長さんが自社の宣伝のために、「わが社の技術力は・・・・・」と、一生懸命言っているのを見ると「カワイイナ」と感じるが、ある程度以上の規模の企業の方が言うと馬鹿に見える。「技術、技術、技術力、技術力・・・・」と言われると、うんざりする。そもそも、そこに「技術力」があるかないか? という評価は第三者が行う物であり、自ら言うものではない。


インフラメンテナンスの本質的課題

 よく言うのだが「維持管理はリアリズムである、設計のようなフィクションではない。」。最近、このフィクションも、他人の書いた筋書き(市販のソフト)で流すだけで、何も考えていない技術者が多い。「復元設計」をしました。という事で中身を見ると、設計ソフトを流し直しているだけ。現行の設計思想で安全性の照査をしたというのならわかるが、復元設計と言うからにはもっと解析技術も駆使し、現在の構造物の状況がどうなっているのか? というのを検討してくるような会社は無いものかと思っている。(お金が出ていないと、言われるかもしれないが)最近の技術者は、「解析」ということに対する認識がない者が多い。
 「技術力」とは、自分もしくは自分の会社が思っていることを、やることではない。クライアント(役所)の要望を如何に実行するか? 解決できるか? なのであるが、そこがわかっていないコンサルが多い。自己満足やPRをしたいのならば、自社のお金で実行すればよい。他人のふんどしで、やるべき物ではない。打合わせもろくにせず、協議も出来ていないのに勝手にやってしまう企業が見受けられる。こちら(役所)側の事情や考えを無視して、思いを通そうとするのは、技術力があるからではなく、逆に無い証拠である。企業のプライドが異常に高いのである。企業方針が間違っている。そういう企業は、どうぞ自分のお金で研究でも何でもして、勝手に自己満足して欲しい。
 地方に来て、何より感じるのは情報を得るのが東京に居た時と違い、難しいと言うことである。首都圏の方々は地の利がある。先日、久しぶりに土木学会の委員会に参加したが、ここ数年間サボっていたので、なんとなく居心地が悪かった。私がここに赴任する前の約束では、土木学会等の委員会には、どんどん出席してかまわない。という事であったが、イザ赴任すると予算を取ってなく「交通費が無い」と言う理由から出席できなかった。
 しかし、それでは情報は集まらない。情報を集めるのに一番大事なのは人脈であるが、技術、技術と言っている人たちには理解できない。本当は、若い職員に積極的に外部の委員会などに参加し人脈と情報を得て欲しいのだが、本人達も周囲もそういう思想はあまり無い。出来れば、30代にそういう経験が出来ればと思う。今後、若手を自分の代わりに学会の委員会などに出すことも考えたい。幸い、私は一時期上司に恵まれて(メーカー時代)外部で勉強させてもらった。しかし、コンサル時代は余計なことをするなという風潮が見え見えで、それでも、活動していたら疎まれ、結局、辞める結果となった。しかし、人脈と情報は財産である。これが、今でも活きている。

4.今回のまとめ

 多くの企業は生き残り策の1つとして、地方展開を考えていることが良く話に出るが、意外と地方のほうが、頑なな守りの体制であり、その危機感が無い。しかし不思議と海外に出て行こうとはする。おかしな現象である。海外は国内以上に厳しい世界である。
 最近、この連載のせいで、私のファンになったと言う方が居る一方、私の発言は「コンサル批判」だと言われる。また、今回も書いてしまった。しかし、ただ批判しているわけではない、事実を言っているのだ。仲良く仕事をするのは良いが甘えるのは良くないと、ある意味エールを送っているのであるが、真意は伝わらないようである。それよりも、本当にコンサルに維持管理の問題をやらせていてよいのか?と言う疑問である。だから皆に考えてほしい。基本は、「本当に出来るところがやればよい」である。(自己満足ではなく)
 6月2日には、福島県郡山市で開催された「インフラメンテナンス国民会議 自治体支援フォーラム~インフラ老朽化時代におけるレジリエントな郡山を目指して~」に参加してきた。全国初の取り組みであった。郡山市長様、国土交通省総合政策局公共事業企画調整課の皆様、郡山市、東北整備局、福島県の皆様、さらには全国から参加された皆様に敬意を表します。最後まで、真摯に取り組まれ、参加者の意識の高さに感激した。少しでもこのように全体の気運を高めることは重要であり、産官学民がそれぞれの立場で、総力戦としてインフラのメンテナンスに取り組むことが重要であると考えている。「インフラメンテナンス共同体」を構築し取り組むことも重要だと感じた。今後、そのような流れが必要になってくるであろう。共通の悩みを持つ自治体が連携し課題解決に向えば無駄も少なくなる。ただし、「はたして、これが富山で出来るか?」という疑問と、「郡山市さんは、今後どう取り組むのか?」と言う疑問が芽生えた。
 最初に書いた「議会」同様、最近は皆さん、よいことばかり言う。耳障りは良く、前向きですばらしいが、実行力が伴わない。このようなことを動かすのに、壁が邪魔をする。壁とは結局は「思い込みとプライド」の問題なのだが、なかなかそれが壊せない。県民性によって、プライドが非常に高い地域もある(富山などはそうだと感じている)ので、それが捨てられるかどうかである。私は、先祖代々関東人で坂東武者の流れを汲む東夷。学生時代は体育会に所属、そして武道家なので、少々気が短く、攻撃的で単純で楽天的性格である。時々感じるのは富山をはじめ、世の中の多くの方々との気質の違いである。皆さん優しい。私には到底まねができない。しかし、それが現代なのかもしれないが、物事の実行者は、そうではないと思う。嫌われても悪口を言われても良い。疎まれても仕方が無い。そんなことを気にしていたら何もできない。
 最近インフラの問題は、明治維新に似ていると思う。後の世から視れば世の中は確実に動いているのだが、旧態依然、昔のまま居たい人たちは、いつの時代も実態や世の中の動きが見えないのであろう。意識改革を実行できるかどうか?イノベーションが必要である。私は、いろいろ、うるさいことを言っているが、そうしながら同志を募り、このインフラ維新、新しいインフラの時代を開く「雑用係、調整役的役割」を果たしたいと考えている。


今後取り組むべきこと

 自分の人生のマネジメントでは両親や祖父母の亡くなった年を考えると、せいぜい、75歳くらいまでだと推定している。残された時間は短いので、もっとやりたいことをやってみたいものだ。それには少し、窮屈に感じてきた。申し訳ないと感じている。

ご広告掲載についてはこちら

お問い合わせ
当サイト・弊社に関するお問い合わせ、
また更新メール登録会員のお申し込みも下記フォームよりお願い致します
お問い合わせフォーム