道路構造物ジャーナルNET

第87回 管理物を「群」としてとらえ、マネジメントしていくためには②

民間と行政、双方の間から見えるもの

植野インフラマネジメントオフィス 代表
一般社団法人国際建造物保全技術協会 理事長

植野 芳彦

公開日:2023.04.16

1.はじめに

いよいよ、また新年度が巡ってきました。新たな気持ちで、インフラの老朽化に取り組んでまいりましょう。WBCで日本が優勝し、日本人選手の活躍が目立ちました。素晴らしいですね。野球と言えば春の高校選抜野球大会に私の母校が栃木から21世紀枠で出場しました。「栃木県立石橋高校の健闘に敬意を示したいと思います。在学中の50年ほど前では考えられないことです。
 「石橋高校」は栃木の石橋町というところにあります。今は下野市、JRの石橋駅が最寄です。栃木県立校では珍しく、男女共学で、普通科と家政科があります。生徒の成績としては、進学校ではありましたが、普通の大学に進学する、特に、男も女も教師になりたい人が多かった印象です。旧制の師範学校でした。しかし、やはり昔から“橋”には縁が有ったのだと思います。
 インフラ・メンテナンスにおいて、現在、地方自治体には「新技術導入」「包括管理」や「群での管理」が求められています。しかしながら、なかなか理解が進まず、何をどうしたらよいのか?悩み事も多いかと感じますので、前回と似たような内容になってますが、改めて考えてほしいと思います。

2.新技術の導入

 「新技術導入」に関しては当たり前の話ですぎて、わざわざ言っている意味が分からない。世の中には皆さんの知らない本当の意味での新技術が多数存在する。例えば「電磁波レーダー」や「衝撃弾性波」「グリーンレーザー」、最先端では「中性子を活用した透過技術」など。これは、勉強していくしかない。本気でやっていれば向こうからやってくるし、自分のアンテナを高くすることである。一般的には、ドローンに偏りすぎている。しかし、ドローンさえ使えば解決できるという思考は危険なことで、有効性の確認と把握を十分に行い、それがどのような場面に有効か判断できる技術者の存在が必要だ。ドローンを使っただけでは解決はしない。他の技術との組み合わせも必要だ。
 世の中の多くの方々は「新技術、新技術」と騒いでいるが、新技術と言われるものは、単なる道具にすぎない。使って実証が必要だし、新技術よりもそれを使いこなし、結果を判断できる人間が重要。AIも期待が大きいが、それも同様だ。しかし、かつてから存在する「非破壊検査技術」に関してはなかなか使おうとはされていないが使い方によっては、重要な技術である。かつて、レーダーが革新的技術として戦局を変えたように電子技術の活用は大いに期待できる。しかし、それが適材適所で理解できる技術者がいない。

 我が国には電子技術やシステムを理解できている人間が非常に少なく特に土木の世界では少ないのが現状だ。道具をどう使い、その結果をどう解析分析し判断するかと言うところが重要なのだが、それをとばして考えがちで、ドローン最強神話のような話は、判断を誤りうる。
 そういう、判断ができ考えられる人間を育てることこそ重きを置くべきで、新技術は黙っていても、出てくる。単体の技術に過信してしまうのが日本人の悪いところで、第二次世界大戦の時の日本と同じ轍を踏みそうで怖い。新技術は単体で考えるのではなく適材適所、最適使用法など複合的に組み立てて最も有効である結果が生み出せるように使用しなければならない。
 そもそもが、インフラメンテナンスに、わざわざ「新技術導入」と言うこと自体が本末転倒で、目的と手段を、はき違えていると考える。新技術の導入もどうするか?それが、マネジメントの一つである。

 4月8日のNスぺに登場させた、高速道路上のオーバーブリッジだが、コンサル診断結果はASRであったが、私の見立てでは、ASRだけではないとの疑いから、可能な限り設計当初の資料を集めるとともに、3次元FEM解析を実施した。結果はあまり芳しくない状況だった。このような解析手法も新技術の一員であると思う。ひび割れを見つけて喜んでいるのではなく、そのひび割れが構造系に影響するものなのか? が重要なのである。もしそうである疑いがあれば、ここで新技術を駆使し、原因の確認と補修方法はあるのか? 補修は可能なのか? もう手遅れなのか? の判断をしていかなければ、意味がない。点検結果、詳細点検結果と解析技術を駆使し、構造物劣化の要因や、現在の状況を探る必要がある。維持管理も重要だがその前に、構造物の状態を把握し、使用に耐えるのかどうかを判断することが重要である。


3次元FEM解析を実施

高速道路上のオーバーブリッジの損傷状況

 見ていると、今やられている点検・診断は中途半端で怖い。本質ができていなく、そのような議論もない。これはやはり、点検者の能力が不十分だからであろう。

3.マネジメント思考の重要性

 次に、「包括管理」と「群での管理」であるが、双方とも、マネジメント思考である。ここで、昨年12月2日に、「総力戦で取り組むべき次世代の「地域インフラ群再生戦略マネジメント (仮称)」~インフラメンテナンス第2フェーズへ~ 社会資本メンテナンス戦略小委員会 提言書(案)」と、令和5年3月に「インフラメンテナンスにおける包括民間委託導入の手引き」が出された。
 これらの中で、まず、群での管理を、していかなければならないと言われているが、これらに関しては富山市においては私が10年前に提示している。インフラマネジメントを考えれば当たり前のことである。インフラ自体の群(橋梁、トンネル、擁壁・・・・)と自治体の群である。これをどうまとめるかが問題である。「総力戦」と言うことがどういうことなのかを考える必要がある。

 みんなで取り組もうということであるが、総力戦と言う言葉の中には、様々な工夫や人(産官学民)や多くの技術、考えを使ってやるべきで、場合によれば自治体の壁も壊さなければならないということである。これは結構難しい。私も、取り組もうと考えていたが、結局できていない。受け入れる側が障壁を作ってしまっている。
 最近、「マネジメント」と言うが中途半端である。「アセットマネジメント」「リスクマネジメント」「ファシリティマネジメント」・・・・という物が存在し「コンストラクションマネジメント」「バリューマネジメント」などという物もある。ではマネジメント能力とは何か?と言うことであるが、私は「考える力」だと思う。賢い方々は難しい理論で語るが、それでは、まず普及しない。かえって遠ざける。そもそもが、マネジメントは昔からやられてきた。これらはすべて、運用にかかわってくる。日本人の苦手な部分である。「ヒト・モノ・カネ」の有効な運用ができるかどうかということが試される。これらをやらなければならないのは、官庁、役所である。役所は、これまでもマネジメントをしてきたわけである。そして、ゼネコン。


様々な「マネジメント」

 しかし、中小ゼネコンやコンサル、メーカーなどは、一品勝負であった。受注したもの1品で考えてきたということである。なので、中々思考を変えることは難しいであろう。コンサルもそうである。「1件設計」などと言っているのはまさにそれである。どうしても1品1品、1橋1橋の話をしてマネジメントしていると思い込んでいる。しかし、世の中は変革している。まとめて発注し、まとめて管理していくということになるわけである。これは維持管理をやっていれば当然のことであり、すでに多くのインフラを持ってしまっているので、インフラ“群”の管理をしなければならないわけである。それなのに、1橋1橋の点検結果に踊らされていたのでは長期的マネジメントは無理である。考え方を根本的に変えなければならない。

 私は、いろいろ世の中には、難しいことを言う方がいるが、マネジメントとは当事者が考えることであると思っている。これを止めれば、もう先はない。さらに、商売として難しくものをいう方々も多い。これは、仕方がないが、、「じゃあ実戦でどうするのか?」と言うことである。理論と実践は違う。

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