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㊸維持管理の重み(その4)  

現場力=技術力(技術者とは何だ!)

株式会社日本インシーク
技術本部 技師長

角 和夫

公開日:2023.04.10

(1)はじめに~最近の話題~

①WBCの持つ意味と意義
 2023年3月22日(水)、WBC決勝が行われ日本がアメリカを倒して3度目の優勝を果たした。グループリーグから決勝トーナメントまで世界中が大いに盛り上がった。「世界各国の次世代の子供達が野球というスポーツに興味を抱いてくれたら」と某氏がコメントする。東京オリンピックで金儲けに走った日本オリンピック委員会の理事やスポンサーと全く別次元の話をしている。

②ルーマニアで吊橋建設~ブレイラ橋~
 ヨーロッパ第2の河川、ドナウ川(ドイツ~ルーマニア~黒海に注ぐ総延長2,800㎞)に吊橋を建設中である。全長1,974m、中央支間長1,120m 、3径間2ヒンジ補剛箱桁吊橋である。デザインビルドでイタリア企業と日本企業が受注し施工中である。
 ドナウ川に架かる橋を調べてみると以下の通り。

 吊橋(ケーブル):エルジェベト橋(ハンガリー)、全長378.6m(中央径間長290m)
 〃 (アイバーチェーン) :セーチェーニ橋(ハンガリー) 、全長380m
 桁橋 アールパード橋(ハンガリー)
 エクストラドーズド橋:新欧州橋(ルーマニア・ハンガリー国境)
 鋼斜張橋:メジェリ橋(ハンガリー)

  ドナウ川の橋と言えば古典的な橋が多い。また、最大支間長でも近代吊橋であるエルジェベト橋の290m程度である。ドナウ川の河口に近い川幅が広がったルーマニアにヨーロッパ第4位の吊橋を架けたというのは興味深い(理解できない)。まさか、トルコが世界最大(チャナッカレ1915橋)を含め数橋の吊橋を架けているのを意識したのか。
 この橋の技術的な特色を挙げるとすれば以下の2点(東京製綱㈱様よりの情報)。
 ★ケーブル架設は鋼線を引き出すエアスピニング工法。亜鉛メッキ鋼線の引張強度は、これまで明石海峡大橋で使用した引張強度1,770Mpaを上回る1,860MPa。
 ★吊橋ハンガーは、明石海峡大橋・来島海峡大橋と同様にNEW-PWSを使用。NEW-PWSはこれまで主に鋼斜張橋の斜材で使われており、完全防食型のケーブルである。引張強度は、ケーブル同様1,860MPaに引き上げている。

③ポーランドが何故ODA対象国
 アメリカのバイデン大統領がウクライナを電撃訪問した。同じように3月21日岸田首相がポーランド経由でウクライナを電撃訪問した。戦闘中で大変な時期に警備はウクライナ軍に任せて。訪問理由は、広島サミットの議長国としてゼレンスキー大統領の参加要請を行うこと、ウクライナへの支援を約束すること、の様である。もう一つ、隣国ポーランドをODAの対象国にするという。何故? と思ったのは私だけか。国が表明した海外展開戦略(道路)(平成31年2月18日)によれば所得階層別にODA対象国やプロジェクトの仕組みが決められている。

 ①LDC(後発開発途上国)(アンタイドかPPP)、②貧困国~中所得国(タイド、アンタイド、PPP)、③中進国以上(PPP)、の3つの区分である。タイドはひも付き(STEP案件-本邦技術活用を条件とする)、アンタイドは国際競争、PPPは官民連携。どうみてもポーランドは中進国ではない。穿った目で中進国とすればPPPか? 今後の外務省の動きを注視する必要がある。
 こういうODA事業のやり方を国民は納得するのか。丁寧な説明をすべきではないのか。新型コロナの影響で大きなダメージを被った海外を主戦場とする大手ゼネコンやマリコン、コンサルタント(特に、国やJICAのOBを迎えている)にとっては岸田特需でうれしい限りであろうが違う。

④不必要な公共事業(その2)
  4月3日(月)夜、たまたま参議院決算委員会を興味深く拝見した。インフラの更新や修繕、公共事業の見直し、等について立憲民主党の野田理事が国交大臣や首相に詰め寄っていた。「糠に釘」、「豆腐にかすがい」、「暖簾に腕押し」状態。公共事業に関しては、ご自身の地元である八女市に絡む不必要なバイパス事業を取り上げられていた。大臣や首相の答弁は相も変わらず官僚の作文を棒読み。何の説得力も感じなかったのは私だけとは思わない。バイパスの盛土により町が真っ二つに分断される計画なのに、役人は一切地元に説明に行かない、という。こんな無責任なやり方は昔は無かったと思う。これは国政選挙・地方選挙で勝っているが故の傲慢ではなかろうか。こういう公共事業には地元選出の元幹事長等の影が見え隠れする(と表現していた)。決算委員会でも「朧大橋」(※1)参照)の話が出ていた。前後のアプローチも未完成でクネクネ道の先には殆ど誰も使わない素晴らしいRC固定アーチ橋が架かっている。当時の「道路特定財源」を使い、市道でありながら市は一切の負担無し。道路特定財源は、受益者負担の原則に則り、道路の整備費を自動車利用者に負担して頂く制度である。予測交通量は2,000台/日。ところが実交通量は200台/日と約1/10である。半沢直樹のドラマで話題になった「伊勢志摩空港」もそうである。「伊勢志摩空港」は、実際は「南紀白浜空港」の様であるが。
 最後に野田理事が公共放送の画面に向かって言った言葉。「総理、もうこういう公共事業はやめましょうよ」。
 首相、大臣、各閣僚には全然届かなかったようであるが。
  ※1)朧大橋
          所在地;福岡県八女市上陽町
          路線名;八女市道下横山東西線
          着工  ;1997年3月
          開通  ;2002年3月
          構造形式;RC固定アーチ橋
          諸元  ;アーチ支間長 172m  、橋長293m
          工費  ;約40億円  ⇒4,000百万円/(11m×293m)=1,240千円/m2
          (これまでの経験上から、工費は倍以上)

(2)維持管理の重み(その3)

 今回は日本国内で技術支援をした、あるいは支援継続中の4橋について簡単に紹介する。管理者に迷惑を掛けない様になるべくオブラートに包んで紹介する。

①PC斜張橋に発生した不具合
 昔、PC斜張橋について勉強していたことをジャーナルに書かせて頂いた。日本が地震国でなければ長大橋に十分に活用できると思っている。それ以上にメタル業界、政治の世界から総スカンを食うことも皆さんご想像承知のとおりである。

 若かりし頃には日本一、二のPC斜張橋の建設現場をスーパーゼネコンの名物所長に案内して頂いた。いずれの橋においても支間長が長いこと、ケーブルの分担張力が大きいことから並列ケーブルが採用されている。並列ケーブルの振動問題ではウエークギャロッピング(以下、「WG」という)が問題となる。本四橋瀬戸大橋の櫃石島橋・岩黒島橋でもWGの制振対策として「ケーブル相互連結」ケーブルが採用された。しかし、完成後においてもサブスパン振動等の発生により連結ケーブルの破断や損傷が相次いだ。完成当時日本一のPC斜張橋では新たな対策としてケーブル中心間隔を狭める中間クランプが設置された。このクランプ効果が大きく、今回検討のPC斜張橋の対策として採用された。

 本題はここからである。対策を講じたもののクランプの損傷や新たな他の部位の損傷が発生したのである。
 現地で対策後から継続実施している動態観測結果やこれまでの知見等を基に対策を検討中である。今迄は、限られた条件での風洞試験や他橋での施工試験での結果などを踏まえて対策検討が為されてきた。今回はある意味現場において色々な検証が出来るのが強みである。

②鋼斜張橋に発生した不具合
 東の方の港湾道路の中に2径間の鋼斜張橋がある。周辺が東京湾に近接した工業地帯の埋立地であり、開通当初から地盤の沈下や側方流動により主塔基礎や端橋脚基礎が鉛直方向や橋軸方向に移動していた。この影響により、斜張橋の端支点のピンローラー支沓は、ローラーが脱落寸前であった。斜ケーブルは、大阪市の豊里大橋や阪神高速道路4号湾岸線の大和川橋梁と同様なPWSケーブルである。桁内のケーブル定着部には幸い漏水等の腐食は発生していなかった。しかし、豊里大橋同様、ケーブル一般部、バンド部は損傷が発生しており、より詳しい調査が必須となった(前年度、損傷調査や損傷バンド交換等を実施して頂いた)。
 何が悪かったのか。港湾道路の主要区間の橋梁なので役所の意識上は最高レベルである。しかし、これまでが行き当たりばったりの対応で補修はするが何年後かに再補修に迫られる。
 「原点に立ち返って考えましょう」と提案しているところである。

③吊橋主塔の塗替塗装
 ロケーションに優れた場所に架かっている吊橋の話である。この吊橋主塔の塗替工法を検討している中で私にアドバイスの依頼が来たのである。施工法の検討を行っているのは阪神高速時代から疲労関係の仕事でお世話になったある会社の社長である。私が行った鳴門海峡に架かる大鳴門橋の塗替塗装に関する技術論文や本ジャーナル連載記事(第2号;吊橋主塔の塗替工法について)を参考にして、主塔柱間を結ぶ「路面防護工」(図‐1参照)を設置する計画が作られていたようである。

 連載記事にも示したとおり、現地工事をするまでに構想1年、警察協議から内部調整まで1年と非常に時間を要したもので、涙なくしては語れない工事であった。大鳴門橋では工事の通行止めは基本的に許されない(代替え路線が無いから)。最大の壁である兵庫県警の規制課は、最大30分の通行止めを2回までは許してくれた。また、大鳴門橋では年間を通して強風が吹く。先行調査した関門橋の様に片側3車線の内2車線を規制してその上空の水平材・斜材を塗り替えるというわけにはいかなかった。何故か。同じことをやれば気象条件による稼働率が低く、数年の長期間の工事が続くのである。では、この橋はどうか。主塔も低いし、ラーメン塔だから路面上の塗替部材である塔頂水平材の塗装面積は小さい。2車線の内、1車線を規制しても特に問題はないのではないか、とズーム会議で説明した。その後、依頼者や管理者から音沙汰がないのはきつく言い過ぎたことが原因なのか、誰かに説明するヒントを得たからなのか、それ以上は深く詮索しなかった。

 大鳴門橋では、架設ゴンドラの作業(係留)基地を確保することで毎日朝晩の規制作業を伴うゴンドラの搬入・搬出が不要になったこと、労働安全衛生法の「作業下には何人も立ち入らせないこと」、がクリアでき、また磁石車輪ゴンドラを採用することで水平材・斜材を縦横無尽にゴンドラが動き回ることができた。薄ら覚えではあるが路面防護工の設置・撤去で約3千万円(リース料込)。塗装費用が数百万円。こういう要らないお金を別のメンテナンスに使用して頂けたら幸いであるが。


図‐1 大鳴門橋路面防護工

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