道路構造物ジャーナルNET

㊷維持管理の重み(その3) 

現場力=技術力(技術者とは何だ!)

株式会社日本インシーク
技術本部 技師長

角 和夫

公開日:2023.03.16

(1)はじめに~最近の話題~

①トルコ・シリア大地震発生

 2023年2月6日、トルコ・シリア国境近くでマグニチュード7.8の巨大地震が発生した。死者数はトルコ・シリア両国で50,000人以上になるのではと言われている。厳冬のトルコを襲った巨大地震は阪神大震災を思い起こさせるのに十分であった。地震被害が極端に大きかったのは、地震規模が大きいこともあるがそのそもの建築構造物の漸弱さが原因であると思われる。マスコミ報道で初めて耳にした「パンケーキクラッシュ」。パンケーキクラッシュとは、中層以上の建物が1階、2階と何層にもわたり層崩壊を繰り返し、床・天井がパンケーキのように重なって崩壊する現象を言う。この現象が一度起これば建物が数秒で崩壊してしまうことから非難が難しく、面で崩れることから生存スペースが無くなり、生命の危険度が高くなることが知られている。パンケーキクラッシュの原因の一つは、「柱の耐震強度不足」である。細い柱、鉄筋量が少ない、コンクリートの強度不足がある、ということである。阪神大震災でも同様なパンケーキクラッシュが起こっている。
 トルコでは1999年に起きたトルコ西部地震(イズミット地震、1999年8月17日、マグニチュード7.6)を受けて耐震基準が大きく見直され、日本と変わらない厳しい基準となった。しかし、基準を満たさない違法建築でも行政に書類を提出すればそのまま利用を継続しても「問題無し」とする「建築恩赦」なる悪法が罷り通ったということである。思い起こせば2005年の「耐震偽装事件」を思い起こさせる。建築構造物の耐震性能照査用ソフトでチェックしたと届ければ、無審査で建築許可を出す役所の出鱈目さ。日本もトルコと同じレベルなのか。
 前回の地震記事でも触れたが今後日本列島を巨大地震が襲う可能性が極めて高い。南海、南海東南海地震では巨大津波が太平洋沿岸を襲う。首都直下型地震では建物崩壊や火災による被害が顕著になる。
地震調査研究推進本部(推進本部)の発表では以下の通り(2020年1月時点)。
 1)南海トラフ巨大地震   30年以内の発生確率が70~80%
 2)首都直下型地震     30年以内の発生確率が70%程度
   今からでも遅くはない。耐震対策を急ぐことが最重要課題ではないのか。

1,300億円の円借款?
 

②本当に必要か? インドネシアへのODA
  東南アジア諸国を歴訪した岸田さんがインドネシアのジョコ・ウイドド大統領にジャカルタ都市高速鉄道(MRT)とパティンバン港アクセス道路整備推進に何と引き続き1,300億円の円借款を行うという。インドネシアにどれだけ立派な港湾と港湾道路やアクセス道路を整備すれば気が済むのだろうか。以前も書いたが広大な大地に出鱈目な港湾を整備し、必要もない高速道路をステップ案件で整備して国内企業に恩を売る。こういうことをやる前に国内の巨大地震対策を優先して行うべきではないだろうか。インドネシアは、20世紀末以降、経済的に目覚ましい発展を遂げている。極一部の日本企業に便宜を図るのはちと違うのではないか。

③無駄な公共事業が雨後のタケノコのように
  10数年前、自民党政権から民主党政権に歴史的な政権交代が行われた。世の中の誰もが民主党政権で何かが変わる、と思った。2009年9月に誕生した民主党政権は「コンクリートから人へ」というスローガンを掲げ、大胆な公共事業の見直しを実施し、それまで続いていた公共事業関連予算がさらに大幅に削減されることとなった。民主党マニュフェストで中止とされていた八ッ場ダムは国や関係自治体の大反対にあい、結局継続となった。問題なのは半世紀も前に計画されたダムが利水・治水計画がガラッと変わってきているのに、当然の如く事業を推し進めようとする国であり地方自治体である。福岡県庁の時も同じようなことがあった。何十年も前から大手ゼネコンがダム事業に張り付いている。工事用道路の建設から本体ダムの建設まで何十年というスパンの工事である。高度経済成長期に入り、北九州や福岡では電力や飲料水の確保が必須であった。各地でダムが計画され、造られた。北九州の福知山ダムもその一つである。ダム事業のうま味とは。一旦、事業着手すれば事業を止められないのである。この間に事業費は何倍、何十倍と膨らむ。この数値を一切示すことはない。誰かが言わない限り税金の垂れ流しと言う仕組みだ。自民党にとってダム事業は生活資金と言える(この仕組みは皆さんご存じであろう)。因みに、ここ二十年ほどで完成したダムは次に示すとおりである。

  国交省・・・八ッ場ダム(群馬県)、宮ケ瀬ダム(神奈川県)、温井ダム(広島県)、長島ダム(静岡県)、長井ダム(山形県)、大滝ダム(奈良県)、湯西川ダム(栃木県)、胆沢ダム(岩手県)、夕張シューパロダム(北海道)、津軽ダム(青森県)

  水資源機構・・・徳山ダム(岐阜県)、味噌川ダム(長野県)   現在も利水や治水を目的とするダム建設は続いている。国交省だけで建設・改修と称して30か所。近年の地球温暖化に伴う異常気象により大規模な水害が頻発しているのは事実である。治山治水対策は公共事業の柱であり、国民の命を守る最重要課題であるのは共通認識である。とはいえ、民主党政権時代に一世を風靡した「事業仕分け」を今だからこそ再認識し、新たな視点で事業の取捨選択をして欲しいと願っているのは私だけだろうか。

 参考までに維持管理で結構負担になっていると管理者から聞いた橋梁の一例を写真‐1に示す。一方、ダムとしては利水・治水に非常に貢献しながら、ダム湖に建設された橋梁と相まって地域の観光資源として貢献している事例を写真‐2に示す。ダム湖の周囲にはサイクリングロードや周遊道路が整備され、週末は多くの人が訪れている。

<技術の進歩を象徴する橋>
 技術者の立場からすると「日本のダム湖には結構いい橋が架かっている」と言える。そんな立派な橋が必要だったのか、と「?」が付く橋は至る所にある(写真‐3参照)。私の住まいから車で20分程の「つくはら湖」(吞吐ダム)に架けられた2つの橋は技術の進歩をよく表していると思う。機能回復橋あるいはサイクリングロードの一環として建設された「衝原大橋」はP`C2径間連続斜張橋である。瀬戸大橋の岡山側アプローチ橋の計画検討している頃にこの橋の現場訪問をした。この橋を施工されていた大手ゼネコンのT建設さんにPC斜張橋の設計・施工の極意を教わった。また、以前、本ジャーナルで書いたが来島第一大橋をPC斜張橋で比較検討していた頃、大手ゼネコンK建設さんにPC斜張橋の何たるかを教えて頂いた。本四橋はほとんどが鋼橋であり、計画段階からPC斜張橋は外される。唯一、私がPC斜張橋の信奉者であったことは言うまでもない。

 もう一つの橋、山陽自動車道「つくはら橋」は、PC3径間連続エクストラドーズド橋である。橋 長323m、中央支間長180mの雄大な橋である。完成年(10年程)の違いや道路橋と自転車・ 歩行者橋の差こそあれ技術の進歩を示す橋に違いはない。


おおたき龍神湖(白屋橋)/鳳凰湖(大峯橋)
写真‐1 ダム湖に架けられた各種橋梁(機能回復も)

つくはら湖に架かる2種類の長大橋/つくはら橋(1998年、左側、山陽道)と衝原大橋(1987年、右側、機能回復橋)
写真‐2 ダム湖に架けられた2種類の長大橋梁

<観光資源にだけはなっている>
 岐阜県の徳山ダムは総貯水量6億6千万立方メートルの日本一のロックフィルダムである。1957年から調査、2000年にダム本体の着工を経て2008年に完成している。ダム名の由来である「徳山村」が完全に消滅した。写真‐3に示すのは「徳山八徳橋」である。八徳とは、ダム湖に沈んだ徳山村の8集落を示している。徳山ダム建設による国道417号の付け替え橋とはいうものの世界最長の支間長(220m)を有するエクストラドーズド橋が必要だったかどうかは議論の余地がある。治水・利水・発電用の多目的ダムとして建設されたが、観光資源にだけはなっているようなので納得したいところではある。
 ※徳之山八徳橋 PC3径間連続橋エクストラドーズドラーメン箱桁橋(橋長503m、最大支間長220m(EXドーズド橋では世界最大支間長))


写真‐3 徳山ダム湖と徳之山八徳橋(世界最大支間長) 筆者撮影 2022年11月18日 

④道路公団民営化と高速道路の無料化の頓挫
 業界新聞を見てびっくりしたというか呆れた。高速道路会社3社が更新計画を公表。延長500キロ、対策費1兆円と。これに伴い国は道路特措法改正案を提出すると。道路公団民営化は何だったのだろうか。高速道路施設で格段に良くなったのは日本高速道路保有・債務返済機構(以下、「機構」という)の管轄下に置かれないNEXCOのSAやPA事業だけのような気がする。2005年10月1日、満を持しての日本高速道路保有・債務返済機構が発足した。機構は、各道路会社に道路資産等をリースした上で毎年料金収入等を返済させる。これを元に債務を返済していく仕組みだ。各道路会社は、それぞれの債務を45年計画で機構に返済し、その後は無料道路となり関連都・府・県・市に移管される仕組みだ。ところが、建設後かなりの年数が経過した特定の区間では更新や補修が必須となった。そこで、15年間の債務返還期間を延長し、60年の返済期間となった。つまり、2065年まで期間が延びた。ところが、今回さらに延長して2115年まで延長しようというのだ。これで永久有料道路の決定だ。このシナリオは道路公団民営化以前に決まっていたと考えるのが自然である。老朽化構造物の更新や修繕に数百億円~数兆円を計上した道路会社。その後の調査でさらに費用が必要になるとしてさらに費用を水増し。結果、2115年までの組織安泰につながったのである。ある会社では自社も何とか15年枠をキープするために必要以上の球出しを求められたようである。

  今回の件で面白い話を聞いた。定期点検の法令下以降、様々な非破壊検査技術が進歩したという。この結果、高速道路のPC桁に挿入されているインナーケーブルのグラウト不良が検出可能となり、多くの損傷が発見されたと。こういう事例を含めて更新や修繕の対象が増えたと説明している。こんな非破壊検査技術は何十年も前に出来ていたし、それ相応の技術者と言われる人間には分かることである。この結果、天下り先も確保できたし、道路会社、子会社も一生安泰という究極のシナリオである。残された一般人は代々年貢を納めさせられるのである。

⑤ICTを活用した点検業務が高評価?
  当社では、国交省発注の橋梁点検業務において点検作業の効率化及び安全性の向上を図るため「点検支援技術性能カタログ(案)」に記載されている新技術を積極的に採用している(図‐1参照)ようである。これ自体が悪いことではないのだが、9月末に行われた社内業務発表会での一コマを以下に紹介する。

  審査員である私は点検業務発表者に思わず一喝した。この業務はICT機器を選定、活用することが第一目的で、点検や一次診断はその次なのか。私はドローンを一切信用していないが今回の点検では正確なクラックの判定は出来たのか。因みに、この業務では、小型ドローン、点検支援ロボット、点検ロボットカメラを使用していた。発表者からの素晴らしい回答、つまり、「技術者の点検報告書を完全なものにするために必要な画像データが得られました」と。しかしながら返答は無かった。ICT機器の使用が発注者から評価され、点数をもらえたようである(発注者から業務表彰をされたとのこと)。コンサルタントの仕事は、損傷の把握、原因究明や予測、評価が最重要だと思うが、こう考えるのは私だけなのか。


図-1 点検支援技術活用の流れ

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