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④ロッキング橋脚橋梁の耐震補強

JR西日本リレー連載 鉄道土木構造物の維持管理

西日本旅客鉄道株式会社
鉄道本部 構造技術室 鋼構造グループ

北 健志

公開日:2023.01.16

1 はじめに

 西日本旅客鉄道株式会社 (以下、JR西日本という)では、さらなる安全性の向上に向けた地震対策として、構造物の耐震補強を順次進めています。このうち下部工に鋼製橋脚を有する橋梁は、構造が多様かつ複雑であり幹線道路等と交差する重要な箇所に多く用いられています。近年では、2016年の熊本地震でのロッキング橋脚道路橋の落橋を受け、国土交通省から通達が発信され、JR西日本においても同種橋梁の耐震診断、ならびに対策が必要な橋梁に対する耐震補強を実施してきました。本報告では、JR西日本管内のロッキング橋脚橋梁を対象とした耐震診断および耐震補強の内容について紹介します。

2 ロッキング橋脚道路橋の落橋事例

 2016年4月の熊本地震では、ロッキング橋脚を有する道路橋の落橋が発生しました(写真-1)。ロッキング橋脚は、上下端にピボット支承が取付けられた両端ヒンジ構造の橋脚(図-1)で、鉛直力支持機能と回転機能のみを有し、水平力支持機能は有さない橋脚です。落橋の原因は、図-1のように橋台部に設置された移動制限装置が地震動により破壊し、桁の水平変位を制限することができなくなり、それに伴って中間支点であるロッキング橋脚において、許容量を超える桁の水平変位が生じ、鉛直力支持機能を失ったためと推定されています。
 この落橋を受け、国土交通省において「特定鉄道等施設に係る耐震補強に関する省令」(以下、省令という)が改正(国土交通省告示第527号、2018年3月30日)されました。

 上記の省令では、耐震補強の推進にあたっての考え方が示されており、ロッキング橋脚橋梁に関しては、参考として図-2のような検討フローが示されています。図-2 (a)・(b)に示すように、目標耐震性能として少なくとも想定する地震に対して落橋を防ぐことを基本とし、また、耐震評価においては、構造全体系モデルでの時刻歴応答解析を行うことが推奨されています。さらに、各部材の補強方法として、図-2 (a)・(c)のとおり補強例が示されており、補強方法については、施工性、安全性、経済性、周辺環境に与える影響度、維持管理の容易性等を総合的に勘案し、必要な補強方法を決定することとされています。

3 設計地震動

 前述の省令では、「想定される地震」として、中央防災会議で公表されている想定震度(南海トラフ地震については2012年8月に発表されたもの)を用いることが示されています。具体的には、震度6弱を想定することになります。また省令には、ロッキング橋脚橋梁の耐震診断では、鉄道構造物等設計標準・同解説 耐震設計2)(以下、耐震標準という)を参考にするのが望ましいと示されており、耐震標準では、建設地点で想定しうる最大設計地震動、具体的にはL2spcⅡを考慮することを基本としています。
 以上のことから、南海トラフ地震(震度6弱)想定の地震波(以下、L2spcⅠという)、およびL2spcⅡの2種類を設定することとしました。耐震診断は、時刻歴応答解析により行うこととし、L2spcⅠの地震波は(公社)鉄道総合技術研究所(以下、鉄道総研という)に委託して作成したものを用いました。図-3に、一例として、G2地盤における2種類の入力地震の時刻歴波形を示します。図-3より、L2spcⅠはL2spcⅡに比べ、最大地表面加速度が40%程度となります。また、地震動の作用方向としては、橋軸方向と橋軸直角方向のそれぞれで検討しました。

4 目標耐震性能

 省令では、ロッキング橋脚の耐震性能について、原則として新設構造物、すなわち耐震標準に定める耐震性能と同等に近づけるべきものであるとしたうえで、施工性や経済性を考慮して、効果的に耐震性の向上が図られるように設定することとされています。

 JR西日本におけるロッキング橋脚橋梁の数量は34橋で、このうち、既往の研究成果3、4)において、その耐震補強効果の有用性が確認されている橋脚間のブレース補強(図-2 (c))等を既に適用している橋梁は8橋であり、これらについては、所定の耐震性能を有しているものと考えました。また、対象橋梁すべてに対してひとつの高い耐震性能だけを設定した場合、現地の施工条件等によってはその性能を満足させることが不可能なケースも考えられることから、省令の内容を踏まえつつ、2段階の耐震性能レベルとして「要求性能」と「目標性能」を設定しました。

 要求性能は、省令に準じ落橋しないこととしました。具体的には、桁下において車両が通行できる状態を確保するために、桁支承高(上部工支持レベル~沓座モルタル底面レベル)を超える桁落下が生じないこととしました。この指標は、実際の桁下空頭が道路高さ制限表示に対して200mm程度余裕があること、および桁支承高は200mm以下であることから設定したものです。また、目標性能は、より高い性能として桁が桁支承から落下せず、桁の軽微な移動のみで復旧できる程度の被害としました。

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