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第83回 新技術としての非破壊検査技術

民間と行政、双方の間から見えるもの

植野インフラマネジメントオフィス 代表
一般社団法人国際建造物保全技術協会 理事長

植野 芳彦

公開日:2022.12.16

1.はじめに

 だいぶ寒くなってきました。歳をとると1年が早い。コロナも第8波ですね、お気を付けください。
 11月は結構、講演の機会が多かった。講演をすると色々感じることがあり、逆に勉強になる。よく注意されるのが「あまり、コンサルの悪口を言わないでください」と言われるが、悪口ととらえるのも一つだが、決して悪口のつもりはなく、悪口と思って、スルーするのではなく足りないところを補填してほしいからだ。
 しかし、我が国の産業構造を見ると、維持管理にコンサルは向かないと考えている。物事にはそれぞれの役割があり、企業としては売り上げを確保するためには重要かもしれないが、生産性から見ればよくない。そもそもが、何でもかんでもコンサルに頼る体質が良くない。今後コンサルのやるべき仕事は他にあると考える。大いに発奮して、新たな役割を見出してほしいのだが。

2.笹子から10年

 12月2日で、笹子トンネルの事故から10年である。今年は一つの区切りであるはずなのだが、意外と静かであった。みな、ワールドカップに夢中だったようだ? やっと7日にNHKの朝のニュースでインフラ老朽化に関して触れていた。地方の老朽化対策が進まないということだったが、そんなことも何年言っているのだろうか? 「人がいない予算がない」という理由であるが、恐らく管理者は、そう言うしかないのである。それがないことは10年以上前から分かっている。ほとんど手を打っていないだけだ。
 先日、あるセミナーをやっていて、自治体の方から出てきた意見で、私が感じたのが、「(維持管理の)技術」のところまではまだまだ行きついていない。つまり、「補修材料」や「補修工法」といった本質の議論さえできる状態ではない。いまだに「点検、点検」と言っている。維持管理は点検して終わりではない。重要な工程であるがほんの導入部に過ぎない。だから、維持管理全体の「しくみ」をどう作るかが問題である。これもよくわからないのではないか? 「点検」だけしていればよいという考えに近いのではないだろうか?

 点検の効率化を図るために新技術を導入しろとは言うが、よく理解できていないと無駄を拡散するばかりである。そもそもが、その新技術の有効性が判断できる材料がそろっていない。「できるのか?」と言うところに問題がある。
 自治体側として、よくわからないから試してみようというのは、私は大いに結構だと思う。この「実装のための実証」がすべてにおいて不足している。そういった努力は必要である。行政とはいえ、わからないことはわからないので、自分たちで確認するというのは重要だ。そして上司は、こういった先進的失敗を許すことが重要である。普段、ろくにチェックしないで受け入れてしまって、あとでやり直すほうが罪は重い。
 現在、「新技術」と言われているのは、いわゆる点検部分の話である。どう効率的に点検できるかということであるが、ここでも「ひび割れ重視」なので、本質とはずれが生じることを理解して行わなければならない。ドローンを使えば先進的か? 新技術か? というとそうではない。ドローン自体の開発で性能はかなりアップしているが、そのあとが重要なのだ。わかっている職員などが判断しているか? 十分な分析・解析はしたのかというところが抜けている。
 しかし、本来はある程度は、基礎技術に関しては大学や国や県などが、率先して検証していきデータを公開するほうが本来の姿だと思う。民間の協会もそうである。「何か仕事になれば」ではなく、自分たちの技術がどういう場所で活かせるのかを、検討し、その性能データを提示していくことが本来重要である。本来の技術とはそういう物であろう。


富山市が新技術の有効性評価のためにフィールドを提供し検証

「新技術」は良いと思ったら試してみることである。ただし、コンサルや業者の言いなりはダメ。自分で判断し使えるかどうかである。そして、上司は予算が許す限りは、部下の提案に耳を貸し、1回はおおらかに見守ることである。ダメだと思ったら軌道修正させればよい。
 私は、自分の経験から無駄だと思っても、「部下がやってみたい」と言う時は、「やったことないの?」と聞き、経験していなければ経験させてみることも、やらせるようにしている。職員自らの考えが重要なのである。失敗は良い経験になる。
 ……と書くと、また「無駄なことをやらせている」と批判を浴びるだろうが、通常業務でダメダメ設計やダメダメ施工にお金を払っているほうが、長期的に見たら大変な無駄である。

3.非破壊検査技術の見直し

 ここで一つ、非破壊検査技術は今後大いに活用できると考えている。今までがおかしいのである。表面のひび割れだけを見てわかったようなことを言う。人間で言えば、擦り傷や軽い切り傷を見て、わかったふりして治療している。そんなことでは、根本的治療はできず、長寿命化は無理であると思うのだが、いかがだろうか。
 これまで非破壊検査技術は、皆さん議論してこなかった。一番わからないところである。私自身は、そう感じたため、50歳を過ぎて、非破壊検査会社に5年ほど在籍した。まあ、中途で何の知識もない中、周りから教えていただいたこともたくさんある。そのなかで、今後の維持管理には十分に役に立つ重要な部分であることが理解できた。多くの方は未知の部分であろう。非破壊検査技術は昔からあるが、活用の仕方から行けば、今まで日の目を見なかった分、「新技術」と言えると思う。既存技術の新技術化であり、運用の仕方をどうするかである。

「詳細調査」というと、診断がおわり、初めて「じゃあどうしよう」ということになる。本当は、点検時に「鉄筋探査ぐらいは、最初にやってなかったの?」と言いたい。実はもともと、鉄筋量が不足していて、それによって起こったひび割れも結構あるが、今の調査法では「ひび割れ〇〇mm」で済まされてしまう。中には、補強筋やひび割れ防止鉄筋が入っていて当然の構造物に、鉄筋が入っていないものも見受ける。さらに、主鉄筋が適正に配置されていないものまであったのをこの目で確認すると、情けなさが強まる。ひび割れを拾って安心し、「予防保全だ、長寿命化だ」と言ってはいるが、いい加減なものをつくっておいて、それは無理。かつて阪神大震災後に、手抜き工事が結構発覚した。それと一緒である。
 現在は、一応、健全につくられているものと仮定して、点検し保守を行ってはいるが、それで十分だとは言えない。この辺も、路線や地域性などの重要度に合わせて、確認していく必要がある。そもそもが、出来が悪ければ何をやっても解決にはならない。どうしたら、簡便に不都合が見つけられるかの検討も必要である。固有振動数の検証や衝撃弾性波による検証など、今までとは違った構造系全体を把握できる検証法、これも新技術であると考える。ただこれには、解析技術も必要である。
 構造物を解析するという思考も現在議論されていない。これは片手落ちである。もう10年経っているんですよ。

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