道路構造物ジャーナルNET

㉛鋼構造物の防食について  

現場力=技術力(技術者とは何だ?)

株式会社日本インシーク
技術本部 技師長

角 和夫

公開日:2022.04.01

(1)はじめに~最近の話題を二つ~

 ①北京2022オリンピックが終了して束の間
 2月24日にロシア・プーチンのウクライナ侵攻が始まった。かつてのソビエト連邦の共和国が次々と民主化し、NATOに加盟していく。このままでは広大なウクライナまでもがNATOに加わってしまう。クリミアやチェチェン進攻でもアメリカを含む西側諸国は何もしなかった。今回も小規模な武器供与と経済制裁程度である。度々、テレビ放映されるロシアのウクライナ侵攻は、20年ほど前のイラク戦争(2003年)を思い起こさせる。国連軍としての任務に大義名分があったから世界各国は協力した。今回は、国連の常任理事国で拒否権を持つロシアが戦争当事者であるから国連決議を何とも思わない。誰も戦わないし、関わりたくない。こんな国連に莫大な国費を投入している日本にも腹が立つ。プーチンと山口で温泉同好会を結成した当時の首相の約束(北方領土返還の前向きな協議)は完全に反故にされている。当時、「もしかして北方領土が2島返還されるのでは」と勘違いした人は多いだろう。プーチンには最初からその気はなかった。何とか経済制裁を強化してプーチンの失脚を待つしかないのだろうか。マスコミ情報では、ロシア国民の平均年収は77万円だそうだ。それに引き換え、GDPの約2割超の資産を保有する超長富裕層を従え、自身はベルサイユ宮殿の様な豪邸に住んでいるという噂もある。好き放題の独裁政権を長期維持しようとしている彼をロシア国民は何とも思わないのか、不思議な国民だ。

 ②世界最長スパンを有するチャナッカレ1915橋が開通
 2022年3月18日、トルコのダーダネルス海峡に架かる「チャナッカレ1915橋」(図-1参照)が開通した。最大支間長2,023mは明石海峡大橋(中央支間長1,991m)を凌ぐ世界第一位の吊橋である。

 この橋には驚くべきことが多い。まずは建設工事費。全長321kmの高速道路を28億米ドル(3,360億円)で完成させているのであるから桁外れのコストである(因みに、明石海峡大橋は1橋で4,000億円)。
 工期も短い。2017年3月18日着工し、2022年3月18日開通である。丸5年ではあるが吊橋本体の施工は恐らく4年半ほどか。明石海峡大橋の半分の工期である。現場条件的には、日本に比較して海面使用に関する制約条件が特段には無いと思うが、それでも凄い。

 1979年、公団に入社したての頃、世界の夢のプロジェクトとして3吊橋の構想があった。一つは、ヨーロッパ大陸とアフリカ大陸の間、ジブラルタル海峡を繋ぐ「ジブラルタル海峡大橋」、二つ目は、イタリア本土とシチリー島を結ぶ「メッシーナ海峡大橋」、三つ目は、ダーダネルス海峡を横断する「ダーダネルス海峡大橋(現、チャナッカレ1915橋)」である。

 ジブラルタル海峡横断構想は、高倉健の映画「海峡」の最後の場面で映し出される。青函トンネルにチャレンジしたM氏(俳優;高倉健)がジブラルタル海峡を見ながら「次はここに・・・」と思わせるシーンである。水深が深い故に従来の基礎工法では設計が成り立たない。支間長もでたらめに長いから明石海峡大橋の1.5倍程度以上の中央支間長を有する連続吊橋だったように思う。吊橋の欠点は、戦略的に攻撃目標にされてしまう。このため、超長大トンネルは実現可能性が極めて高い。当時世界最長だった青函トンネルを日本の技術で作ってしまったのだ。将来の技術開発を考えれば不可能な夢ではなかったように思う。

 メッシーナ海峡大橋は、ベルルスコーニ政権の時に着工が決まり、業者も決まっていた。しかし、政権が変わると凍結になってしまった。単径間吊橋なので実現性は高いのであるが情勢的には厳しいのであろう。

 ダーダネルス海峡大橋(現、チャナッカレ1915橋)は、トルコ共和国建国100周年を記念して中央支間長2,023mとなった。入札では日本企業グループも応札に参加したが韓国(DAELIM、SK)・トルコ(LIMAK,YAPI)連合に敗れた。それにしてもトルコの吊橋建設(にかける思い)は群を抜いている。ボスポラス海峡に「7月15日殉教者の橋」(第一ボスポラス橋)(1973年完成)、ファーティフ・スルタン・メフメト橋(第二ボスポラス橋)(1988年完成、ODAで日本企業が建設)、ヤウズ・スルタン・セリム橋(第三ボスポラス橋)(2016年完成、トルコ・イタリア企業)、長大吊橋が3橋。さらに、イズミット湾にオスマン・ガーズイー橋(イズミット湾横断橋)(2016年完成、トルコとイタリアのゼネコンで吊橋の施工はIHIインフラシステム)。各橋について技術的な特徴を挙げれば、以下のとおりである。

★7月15日殉教者の橋(中央支間長1,074m)
 ⇒流線形箱桁、斜めハンガー ⇒後に鉛直ハンガーに改修(セバーン橋改修に倣い)
★ファーティフ・スルタン・メフメト橋(中央支間長1,090m)
 ⇒流線形箱桁、鉛直ハンガー 
★ヤウズ・スルタン・セリム橋(中央支間長1,408m)(図-2参照)
 ⇒流線形箱桁、世界初の斜張吊橋(ディッシンガー型式)
  桁幅世界一59m(道路8車線、鉄道2線)

 
★オスマン・ガーズイ橋(中央支間長1,550m)(写真-1参照)
 ⇒流線形箱桁

 長大橋吊橋や斜張橋建設の主流は、ヨーロッパや中国に移ってしまった感がある。近い将来、大阪湾岸西伸部の長大斜張橋群が世界の注目の的になって欲しいものである。
 以上、前置きはこれまでとし今回は「鋼構造物の防食」についてこれまでの経験を紹介する。

(2)鋼橋防食における塗装(その1)

 専門とする鋼橋上部工を担当する限り、切っても切り離せないのが塗装である。これまでの40年弱の間に関わった記憶に残っている事柄について簡単に紹介する。

①本四橋と陸上部橋梁の塗装系
 旧公団にはそれぞれが制定した「塗装基準」や「塗料規格」がある。国で言えば「鋼道路橋防食便覧」(昭和46年発刊、昭和54年・平成2年改訂)、その後、「鋼道路橋塗装・防食便覧」(平成17年12月)、現在では「鋼道路橋防食便覧(平成26年)が発刊されている。
 本四橋では、塗装に関するLCCを最小にすることを目的として「長期防錆型塗装系」を採用している。これは、塗替え時の仮設備に大きなコストがかかること、環境・施工条件が厳しいこと、から塗替えのインターバルを長くすることを目標にしているためである。長期防錆型塗装系の最大のポイントは、防食下地に「無機ジンクリッチペイント」(高濃度の亜鉛粉末(70~95%)が含まれており、犠牲陽極の役割を果たす)が使われていることである。無機ジンクリッチペイントは、高度な下地処理(1種ケレン)が必要であること、施工にあたっての温湿度(や風)の管理が厳しく、現場施工が不可能なこと、から必然的に工場塗装となる。

②吊橋主塔や補剛桁の塗替え塗装
 吊橋主塔や補剛桁の塗替え塗装については、参考文献1)に目を通して頂ければ幸いである。
 本四橋の塗替え計画は、図-3に示す「塗膜劣化曲線」に基づき策定される。
 参考文献1);大鳴門橋管理20年(角他、本四技報)
       ;大鳴門橋補剛桁塗替塗装(角他、本四技報)
       ;省力化を目指した主塔塗替塗装(角他、本四技報)

 塗膜劣化曲線のとおり、上塗り塗料の消耗スピード(上塗り塗料のチョーキングが原因)に比較して中・下塗り塗料の消耗スピードが速いことが分かる。このため、本四橋の塗替え思想は「中塗りが消失する前(下塗りが露出する前)に中・上塗りを施工する」こととしている。塗膜劣化曲線は、各橋梁の定点塗膜調査により求めることになる。

③橋梁付属物の補修(その1)・・・・錆転換型塗料
 本四橋には維持管理に必要となる数多くの亜鉛メッキ製の管理路を設置している。気象・海象条件の特に厳しい「大鳴門橋」や「門崎高架橋」においては飛来塩分の影響により管理路の腐食が顕著であった。応急対策としては、紫外線硬化型FRPシートを患部(腐食や孔食)に貼るのだが安全帯等の荷重を当該部分には預けられない。新品に交換する手もあるがお金がかかる。そこで近隣の工場に持ち帰り、スイープブラスト後、再メッキを施すこととした。当時は、先輩「錆転換型塗料」がブームであり、先輩達も含めて大いに期待した。幾度となく試験施工を実施したが、結果は討ち死にであった。それ以来、「錆転換塗料、赤錆を黒錆に」のフレーズは特に注意をしている。当然ではあるが一切信用していない。

④橋梁付属物の補修(その2)・・・G合金溶射
 門崎高架橋の金属支承(ピン沓・ピンローラー沓)は塗装仕様である。塗替仕様は「G溶射」となっており、先代から仕様が引き継がれてきた。G溶射とは、2種ケレン(程度)により素地調整を行い、付着力を確保するための「粗面形成材」を塗り、その上に金属溶射(亜鉛とアルミ)を行うものである。表面がポーラスなため封孔処理を行い緻密な被膜を形成するものである。しかしながら、粗面形成材塗布後(金属溶射を施工するまでの間)、飛来塩分が付着し、早期に赤錆が発生する事態が起きた。「完全な養生が必須であること」、「こういう環境には適さない」というのが分かり、その後一切使用することは無かった。

⑤橋梁付属物の補修塗装(その3)・・・・Al・Mg溶射
 門崎高架橋には、点検や補修作業用に外面検査車が設置されている(図-4参照)。外面作業車は、箱桁本体に設置されたレールの上を走行することになる。このレールも本体と同様に塗装の塗替えが必要になる。当時は金属溶射が施工されていた。この金属溶射のコストが高く、別工法を模索していた時のことである。福岡県出向時代にお世話になった福北公社の吉崎設計課長(当時はOB)に電話した(吉崎さんは、福北公社で主桁の防食(塗装や金属溶射等)のコンペを実施した方である。「長寿命化が実現可能な溶射工法は無いのでしょうか。現場施工可能な」と。そこで紹介してくれたのが山田金属防蝕の山田社長(当時)と西日本プラントさんである。ずばり、「Al-Mg溶射」である。自然環境の厳しい中で、かつ長寿命化を実現する可能性のある「Al-Mg溶射」に私は賭けた(博打ではない)のである。鳴門海峡という自然条件の厳しい場所であり、海上高所でアプローチが難しい、こういう現場での施工が可能で品質も十分となれば、今後需要が凄いことになる、と無理を承知でお願いしたことを思い出す。その後、阪神高速時代に愛媛県の離島架橋「生名橋」(図-5参照)の設計をされていた長大のF氏から問い合わせがあり、問題が無かったことと施工業者さんを紹介した。その結果、中央径間鋼桁(鋼桁延長;149m)の外面塗装仕様にAl-Mg溶射が採用された。

 その後、沖縄県伊良部大橋鋼桁外面防食に採用されている。

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