道路構造物ジャーナルNET

第74回 東日本大震災から11年。笹子トンネル事故から10年

民間と行政、双方の間から見えるもの

植野インフラマネジメントオフィス 代表
(富山市 政策参与)

植野 芳彦

公開日:2022.03.16

1.はじめに

 今年で東日本大震災から11年。笹子トンネル事故から10年になる。インフラメンテナンスの現在の形が作られて10年。いわゆる橋梁などの全数近接目視の制度の2巡目が終わろうとしている。ここで、何が変わってきたのか? と言うところであるが、みな困ってはいるものの、打開策は見いだせないでいる。

2.地方のインフラメンテナンスはなぜすすまないか?

 この問題、最近よく聞かれます。皆さんの答えはどうでしょうか?答えは千差万別でしょうが、問題は財政と理解度、危機感だと思います。現在、いろんな方面で取材を受けたり、書いたりしてますので、ここで詳しく書くのは、止めておきます。一度出そろったら、また議論したい。
 なぜ私のところに依頼が来るか?「皆さん、結局、わかっていない。」「本音が言えない。」と言うことらしい。良い子には言えないし、本質がわからないから言えないのだ。地方に潜り込んで、いやなこともつらいことも、ばかばかしいことも、沢山あったが、実際に経験してみないとわからない。反発もされた。結局よそ者!しかし、よそ者だから本質が見える。カエルの楽園に棲むものに、本当の危機は見えない。地方の人間性もある。(これは良い悪いの問題ではない。どうしてもあるのだ。)さっぱりとした性格もあれば、ねちねちと、陰湿な地域性もある。
 うわべだけで語るのは簡単で、皆さんよくやっている。それを真に受けるかどう感じるかだ。前回も、書いたが、私は2年前から、民間人だ!今まで以上に好き勝手が言える。干されるかもしれないが、言える。現役時代にも何度か干された経験がある。これからますます、本音の激烈な話をするでしょうが、お許しください。いやなら読まなければよいし、見なければよい。悪く言ってもらっても全然かまわない。良い子には、このテーマは語れない。今年、66歳なので、年金で細々と暮らしていくつもりである。

3.平和ボケ?

 これを書いている時点で、ロシアのウクライナ侵攻が始まり、いまだに続いている。以前から取りざたされてはいたが、実際に実行するとは。軍事侵攻や戦争は、きっかけは小さなことで分かりずらいと言われているが、その兆候は見えるはずである。我々日本人は平和ボケしているので感じないが、地元の方々は相当神経を使っていたっと思う。インフラの老朽化も同じである。兆候は見えているはずである。しかし、目をつぶっているか気づかない。「大丈夫だろう」「何も起きない」……。
 最悪、事故だけは起こさないでほしいと思っている。事故が起きて第三者を巻き込んでは最悪である。少し過剰なくらいの反応なほうが良いが、現状を見るとそうでもない。官はコンサルがやったことを信じすぎている。これは信じるなと言うのではない。誰にでも間違いはあるし判断ミスはあるので、十分な協議を行い、お互いに納得したうえで判断しろと言っているのだ。官だけで勝手に判断しているわけではない。「セカンドオピニオン」現在は「診断協議」と言っているが、それはそのためには必要なのだ。

 点検では、事実を診てもらい、診断で判断をする。判断するには、プロの感覚、プロの目が必要である。
 やはり、業務はプロがやらないとダメだ。とんでもない結果になりかねない。そして官側の目が重要だ。

 正しい判断ができなければ何の意味もない。時々書いてはいるが、コンサルの結果を、黙って受け取って右から左では、問題が起きて当たり前。起きなければ運が良い。点検ならばまだしも設計業務においてそうであるから怖い。
 コンサルは、わからない、できないものはやらないでほしい。それは困る。多くの方々が迷惑し、いずれは事故につながる。施工も一緒である。できもしないところが手を出そうとするからおかしなことになっていく。これが単純な構造物だったら問題は少ないが、難しい構造物になると、問題が大きいばかりか、大事故につながる可能性がある。事故になった場合、だれがどう責任を取るのか?昔と違って、なんでも、やればお金になる時代は終わって、効率よくやらなければ利益は出ない。失敗すれば瑕疵があることになる。

 問題なのは官の方である。安易に設計結果を受け取ってしまい、チェックも十分にできない。しかし、これは受け取って短期間でチェックするのにも無理がある。コンサルが半年や1年掛けてやった成果を限られた時間デチェックするのは無理だ。そのために、途中の十分な協議が必要なわけであるが、これもなかなかできていない。これで、難しい構造物であればあるほどそうなる。
 日本にもチェックコンサルの仕組みなどが今後は必要なのではないだろうか? もともと、役所の職員は橋梁などの高度な構造物の知識は、はっきり言って無い。ない物を持てというのも酷である。本来は官庁の職員と民間の高度な技術者が業務の中で適切に議論したり、場合によっては指導してもらったりしながら、技術力を身に着けていくべきである。そして、あとは個人の興味と勉強しかない。その場で、付け焼刃的に道路橋示方書を見たりしても解釈が違っているかもしれない。日本のコンサルは現場経験が無く、その成果は、実際に物を作るのは適していない。例えば、設計は何とか形づけても、実際にそれが施工できるかと言うとそうでもないという現実がある。だから我々が苦労するのだ。何も感じなければそれほど幸せなことはないが、どうも、見えてしまうから気になってしまう。長年の経験で気づいてしまうのだ。
 やはり、複雑なもの、難解なもの、大型案件は、今後は「デザインビルド」が良いと思う。できないものを設計してどうする? 予算確保のためならば、プロならば、ザクっとならすぐに金額は出せるし、後で清算すればよい。設計費も同様である。そもそもが、前述したように設計終了時の検収が厳格にできているのか? と言うとそうではないだろう。プロではない人たちが短時間でチェックするのは無理であるということである。もしかしたら危険なものを造ることになっているかもしれない。そういう危機感の問題である。素人は分からなくても感じなくてもよいが、プロは感じてほしい。そういうものに関しては維持管理が厄介であり、後進につけを回すことになる。

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