道路構造物ジャーナルNET

㉚北九州空港連絡橋(その7)~コンクリート構造物の長寿命化~

現場力=技術力(技術者とは何だ?)

株式会社日本インシーク
技術本部 技師長

角 和夫

公開日:2022.03.01

(1)はじめに~最近の話題~

 北京2022オリンピックが2月20日まで盛大に行われた。日本選手団は冬季オリンピックとしては過去最多18個のメダルを獲得した。感動したのはスノーボードの平野選手、スピードスケートの高木選手およびカーリングの日本代表(ロコ・ソラーレ)である。
 特に、スノーボードハーフパイプの平野選手は圧巻であった。決勝3回の試技で全て同じ演技構成にした。1回目を失敗、2回目は前人未到の技を繰り出したものの得点が伸びない。最後の3回目に2回目と全く同じ構成で挑戦(審判団)した。結果的には大逆転の金メダルとなったが、3回目を失敗したらどうなったであろうか。凡人のメンタルでは十中八九失敗したであろう。だが彼は失敗しなかった。「北京オリンピックまでに凄い回数の練習を熟してきたからだ」と本人は言っていた。多分、彼には「まぐれ」はないのだと思う。「練習していないのに本番でできた」「試験勉強していないのにマークシートだから合格した」――こういうのは「天才」か、あるいは「まぐれ」だ。前回の「暗黙知・認識知・実践知」を借りればこうだ。物凄い回数の練習を熟してきた(設計し、現場を熟した)。どこでどう踏み切るのか、回転するのか、着地するのか(通常、PDCA)、これらを頭と体が覚え込んでしまっているのだと思う。
 もう一つ。2月22日(火)にNHKで放送された「プロフェッショナル仕事の流儀 土木技術者・山口宇玄 ~ロープ1本で、世界の平和を守る~」をご覧になったであろうか。実は、阪神高速時代に一緒にモロッコに行った友人である。目的は、(株)特殊高所技術が保有するインフラ維持管理技術である「Ninja-Tech」※1をモロッコ高速道路会社(ADM)に技術移転するためである。2015年7月に阪神高速道路とADMが技術交流の覚書を締結し、技術移転プロジェクトが始まった(写真-1参照)。テレビ放映の中で彼が話していたことで頭に残った3つの事柄を紹介する。
 ①構造物の老朽化により仕事は増える。反面、事故のリスクは付きまとう。
 ②過去の事故を教訓に徹底的な安全教育を。
 ③将来の仕事を奪われるかもしれないが新技術(AIやドローン等)開発に期待する。
 テレビを見られなかった人は特殊高所技術さんか私に申し込めばダビングします。

※1)Ninja-Tech;(株)特殊高所技術が高い橋梁やダム、風力発電施設といった足場が設置できないなど、近接目視できないインフラの維持管理のために考えた技術。技術者がロープにぶら下がりながら点検や補修を行うことで、足場などの設備が不要で大幅にコストが削減される。

(2)コンクリート診断士

 コンクリート構造物に関する技術者資格に「コンクリート診断士;(公社)日本コンクリート工学会」がある。これまで発注者側の立場で業務や工事の技術者評価を行ってきたわけだが釈然としない。コンクリート診断士は、他の民間資格に比べ合格率がとても低い。試験が難しいのか。いや、私はそんなに難しくないと思う。何故かといえば、この試験は現場経験がほとんどなくとも合格できる試験だからである。過去問をしっかり勉強し、損傷図(写真)と損傷原因を説明できれば合格するのである。
 これではいけないと思い「土木学会認定 特別上級技術者(鋼・コンクリート)」を6年前に受験(面接ですが)・取得した。東京に単身赴任していて時間があったこと、会員資格がなくても受験可能となったため、受けたしだいである。また、「うわべだけの技術者」ではないということを証明するためでもあった。
 発注者は受注者を特定するために総合評価制度(価格評価と技術者評価)を導入した。阪神高速道路(株)本社時代は審査側(淀川左岸線等の建設工事)で厳しい評価をしたが、現在、発注者側に提案書(や技術者)を評価するだけのポテンシャルがあるのか。福岡県に出向した30代半ばの頃から思っていたことがある。「設計・施工を知らなくて維持管理ができるのか」ということである。
 時限公団(今は道路会社)の中には、建設工事を知らない技術者が多数を占めているところも少なくない。本連載のタイトルが正にそれである。「現場力=技術力」。「OFF JT」(Off The Job Training)だけでは現場は救えないのである。設計・施工から維持管理までのマネージメント力と実務経験がともなってこその技術者である。

 今回は、話を戻して「北九州空港連絡橋(以下、「空港連絡橋」という)~コンクリート構造物の長寿命化~」について当時行ったことを紹介する。

(3)コンクリート構造物の長寿命化

 コンクリート構造物に関しては、空港連絡橋設計施工委員会およびその下部組織であるコンクリート部会(あるいは分科会)で現地調査、現地暴露実験、室内実験等を行いながら設計、施工、維持管理手法、等について具体的に検討した。

①ステップ1……現地調査、現地暴露実験、室内実験、等の実施
 ◇早期劣化
 ・生コン工場での粗骨材のアルカリ骨材反応(以下、「ASR」という)調査
 ・架橋地点付近の既設構造物のASRや塩害調査
 ・飛来塩分量調査
 ・温室度測定
 ・実構造物の劣化原因判定調査
 ・シリカフュームやスラグを混入したコンクリートの現地暴露実験
 ・ASR抑制対策と効果の検討

 ◇高耐久性コンクリート
 ・エポキシ樹脂塗装鉄筋を用いたコンクリート暴露実験
 ・高耐久性埋設型枠の検討(目地構造)

 ◇維持管理
 ・架橋地点近傍(飛沫地帯)に暴露したコンクリ―ト中の鉄筋腐食状況調査およびモニタリングシステムの検討(AE法)
 ・鉄筋腐食によるコンクリート劣化状況調査

②ステップ2……耐用年数(目標)100年を可能とする橋脚の設計・施工・維持管理の検討
 ◇維持管理区分の設定
 ・維持管理区分A(予防保全型維持管理)……特に重要な構造物
 ・空港連絡橋は、社会的条件、経済的条件および現地設置条件(海上橋)から予防保全型維持管理(維持管理区分A)を導入した。

 ◇塩害予測とかぶり厚
 ・「塩害・中性化」に関しては、日本コンクリート工学協会(現、コンクリート工学会)の鉄筋コンクリート構造物の耐久性設計に関する考え方に基づき、設計耐用期間を100年の劣化深さ(10.49cm)とコンクリート標準示方書(設計編)(平成8年)に基づき、特に厳しい腐食環境(10cm以上)を元に鉄筋のかぶり厚さ10.5cmとした。

 ◇アルカリ骨材反応抑制策
 ・劣化事象の内、最も心配していたのがASRである。ASRに関して実施した調査・試験・結果・抑制策についての要約を以下に示す。
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 ◆既設構造物の劣化状況調査(写真-2参照)
 ・架橋地点周辺の既設コンクリート構造物の外観調査を実施。
 ・調査対象構造物の1割弱でASRの疑いがあることを確認。亀甲状のひび割れが発生している構造物のコアから粗骨材を取り出し、ASR反応試験(化学法)を実施した。この結果、「無害でない」と判明。
 ・ASR反応試験(モルタルバー法)では、JIS規格値内(無害)であった。
 ・サンプル粗骨材には、微細な粘土鉱物が最大で3割程度含まれており、これがASRを引き起こしたものと推察。
 ◆架橋地点周辺の骨材に関するASR調査
 ・架橋地点周辺の生コンクリート工場の骨材ストックヤードから粗骨材のサンプリングを行い、試験、観察および鉱物判定を行った。
 ・生コンクリート工場で使用されている粗骨材は、通常の環境下であれば問題ないと判断されるが、外部から供給される塩化物(NaCl)により高アルカリ環境に晒される場合(海洋構造物)には何らかのASR抑制策が必要であると判断。
 ◆海洋構造物を想定したASR試験の実施(図-1参照)
 ・JIS規格では「無害」と判定された骨材であってもR2O=2.0%では、モルタルバー法およびコンクリートバー法いずれにおいても「異常膨張とひび割れ」を確認した。
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 ◆ASR抑制策(図-2参照)
 ・高炉スラグを無混和の場合、試験材令6か月目で「異常膨張」を確認。高炉スラグ置換率50%では、6か月目においても「異常膨張」は確認されなかった。
 ・高炉スラグ微粉末での置換率を50%とすることで高アルカリ環境下においてもASRが抑制されることを確認した。
 ◆ASR抑制のためのコンクリート配合とセメントの選定
 ・水/結合材比を45%以下
 ・高炉スラグ置換率50%以上(粉末度は、4,000または6,000cm2/gを選定)
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<実構造物の劣化調査>

<ASR抑制策の検討>

 ◇温度ひび割れ制御
 実施工に当たっては、温度ひび割れの発生を完全に抑制することは困難と考えられた。このため、温度応力解析を実施し、ひび割れ指数とひび割れ幅の制限を考慮したマスコンクリートとしての対策を採用した。以下に概要を示す。

 ・温度ひび割れ低減のため、低熱ポルトランドセメントと比表面積の大きい(6,000cm2/g)高炉スラグ微粉末とを組み合わせた発熱量の極めて小さいタイプの高炉セメントB種(高炉スラグ微粉末置換率60%)を使用した。
 ・温度ひび割れ指数は、橋脚全体として0.7以上、感潮帯については、より耐久性が必要となることから1.0以上を目標とした。ただし、ひび割れ幅が0.2㎜を超えて発生した場合にはエポキシ樹脂注入による補修を実施することとした。
 ・低熱セメントの使用に加えて、「保温型枠」による放熱量制御を実施することとした。
 ・保温型枠の使用による開放ひずみ量の抑制効果はある程度確認できた。しかし、ひび割れ幅の抑制には配力鉄筋比の増加が最も効果があることが判明した(図-3参照)。

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