道路構造物ジャーナルNET

㉗長大橋の伸縮装置雑感

現場力=技術力(技術者とは何だ?)

株式会社日本インシーク
技術本部 技師長

角 和夫

公開日:2021.12.07

(1)はじめに

 緊急事態宣言が解除されて2カ月が経った。ワクチン接種率の2回目完了が約79%。この一カ月で10%も進んでいない。それに引き換え、新規感染者数はどんどん減少している。日本各地の商業施設や観光地は以前の状態にはほど遠いが、少しずつ戻りつつある。11月末、出張で1年振りに博多の地に降りた。博多に着いて昼食を何処にするか。長浜ラーメン、かろのうろん、いやいや、うまかもん通りの「真(まこと)」へ直行である(写真-1参照)。26年前に国府寺部長(前掲)から紹介してもらい、以降、博多に来た時は必ずと言っていいほど足を運んでいる。鯖半身を特製のタレに付け込んで、保存したものを焼いてくれる。皆さんも一度は食べに行って下さい。

 博多に来るたびに思い出すことが二つある。一つ目。1996年4月に福岡県庁の出先事務所として「新北九州空港連絡道路建設事務所」をJR苅田駅の近くのビル内に設置した。初代工務課長として着任したわけだが、事務を統括するのは佐山総務課長。人格者であり、スマートな人であった。年齢差は15歳以上。実は佐山課長の実弟が、初代タイガーマスク(佐山聡)だと言うではないか。弟は子供のころから暴れん坊だったと。以前触れたが、福岡県庁初の一般競争入札を北九州空港連絡橋工事に導入した。この事務手続きを一手に引き受けてくれたのが佐山課長であり、大恩人である。600億を超える九州でも初めてのビッグプロジェクトである。今だから紹介しよう。佐山さんから後に聞いた話である。1997年春頃、小倉で議員(地元)のパーティが開催された。議員側から地元のポリさんに「北九州空港連絡橋建設事務所に国から出向してきた人が居る。彼の後をつければ何か出てくるかも」との話。早速、数日後にポリさんが佐山課長の元を訪問。開口一番、「この事務所に国から来られた人は居ません」と佐山課長。「そうですか、我々も仕方なく来ました」とポリさん。「納得して帰ったようです」と佐山課長。簡単に言えば、私は公団から出向して来ているわけで、国から来ているわけではないと。連載記事では詳しくは書けないが、県庁からの要望や業界要望をほとんど聞かない私を黙らせようとしていたようである。

 二つ目は、プロ野球界を騒がせた「黒い霧事件」の当事者、池永さんとの出会いである。1969から70年にかけて起こったプロ野球の八百長事件の当事者である。小学校高学年の私にも記憶がある。博多中洲のスナックで当時マスターをされていた。温厚な方でまさか世の中を大騒ぎさせた人だとは思えなかった。当時は、色々な支援者が池永さんの「野球界からの永久追放撤回」を求めていた時期である。最終的には2005年4月に永久追放から解き放たれ復権となったわけだが、実に36年間を要すこととなった。この間、挫けず、スナックのマスターをしながら、辛抱強く、周囲に励まされながら復権を勝ち取ったわけである。当時は、県内部、漁協、海保、業界、議員等、色々悩んだこともあった。だが、池永さんのことを思い浮かべ「なにくそ」と踏ん張ったことを思い出す。
 今回は、日の目を見ることのあまり無い、何かあったら維持管理の目の敵にされる橋梁附属物の一つ、「伸縮装置」について紹介する。

(2)伸縮装置との本格的な付き合いと種類

 本格的な付き合いは、瀬戸大橋海峡部長大橋梁及び島嶼部高架橋においてである。当時は、岡山の第二建設局設計課で海峡部長大橋梁の伸縮装置選定も担当していた。一般的に伸縮装置と言えば、図-1に示す種類(分類)に分けられる。

 長大橋(支間長200m以上)に使用される伸縮装置は、桁の設計伸縮量が大きいこと、このため遊間が大きくなること、等により通常は荷重支持型の鋼製伸縮装置を採用している。国内実績としては、くし型、リンク式、ローリングリーフ式、が多い。以下に適用事例を示す。

 瀬戸大橋海峡部橋梁及び島嶼部高架橋では、吊橋には「ローリングリーフ式」、斜張橋及びトラス橋には「リンク式」、PC高架橋には「ゴム式(マウラー式及びトランスフレックス式等」を採用することとした。選定に当たっては、これまでの適用実績、設計伸縮量、橋梁形式、取合い構造等を加味した。

(3)長大橋に適用される伸縮装置

 1)設計伸縮量
 本四長大橋(吊橋及び斜張橋)の設計伸縮量を表-1に示す。

 因みに設計伸縮量は、明石海峡大橋(最大)±1,450mm、来島海峡第三大橋(最大)±530mm、多々羅大橋(最大)±700mmである。

 

 2)適用可能な伸縮装置
 設計伸縮量から適用可能な伸縮装置は、くし型(旧名称;マキノ式)、ローリングリーフ式(旧名称;デマーク式)、リンク式がある。各伸縮装置の概要を以下に示す。

 ①くし型
 くし型の事例として、大鳴門橋主塔部の伸縮量と伸縮装置を図-2.1に示す。

 くし型の欠点は、くしが長いとスリップしやすいこと、くしとくしの遊間がありガタガタと走行性が悪いこと、非排水構造が難しいため、土砂や雨水が溜まりやすく、鋼材腐食(ボルト等も)等が発生し易くなることである。スリップ止めに関しては、くし表面に合金溶射や摩擦素子コートを施工したりしている。

 ②ローリングリーフ式
 ローリングリーフ式伸縮装置は、路面板(振子板・滑り板・舌板)、支持台、端桁から構成されている。桁が移動することにより、滑り板が舌板の下に潜り込むように設計されている。伸縮装置の構造を北九州空港連絡橋モノコードアーチ部を事例として図-2.2.1に示す。また、多々羅大橋(1A部)に設置された伸縮装置を図-2.2.2に、同写真を写真-2に示す。

 ローリングリーフ式の欠点は、過去の実績として騒音が発生し易いこと、コストが高いこと、が挙げられる。瀬戸大橋下津井瀬戸大橋では、箱状の支持台の中にモルタル注入したり、伸縮装置全体を遮音材で準密閉状態にした上で内部に吸音材(グラスウール)を設置したり、路面を平滑化するために滑り板上面の切削・舌板先端の切削を行っている。北備讃瀬戸大橋では、準密閉状態にした上で吸音材を設置している。

 ③リンク式
  明石海峡大橋主塔部に採用されたリンク式伸縮装置を図-2.3.1に示す。瀬戸大橋以降で発生した各種損傷を受け、改良されている。構造的には、半車線分を1ユニットとし、1ユニットは上部からフィンガー、端横梁、中間横梁、三角リンク、支承、ユニバーサルジョイント、により構成されている。図-2.3.1に示す三角リンクが角度を変えることで桁の移動量を吸収する。リンク式については、瀬戸大橋供用直後から異常音が発生し、大きく2点を改良した(図2.3.2参照)。

 リンク式においては、忘れてはならない事故がある。供用開始6年後、瀬戸大橋岩黒島橋4P上での事故(写真-2.2参照)である。原因は、ユニバーサルジョイントと伸縮装置を連結しているボルト・ナットが緩んで抜け落ちたことによる。

 その後、明石海峡大橋では瀬戸大橋での損傷事例等を受け各部の改良が行われた。
 例えば、

 1)自動二輪車の走行性(脱輪)を改善するため、フィンガー厚を35mm、フィンガー遊間を45mmとしている(通常の鋼製フィンガーは、フィンガー厚を40mm、フィンガー遊間を50mmとしている)。

 2)従来のリンク式のフィンガーは、1本ずつ独立したフィンガーを端横梁の突起にピン定着していた。ピンとピン孔にガタがあるため、大型車通過時に大きな騒音が発生した。この騒音対策のため、一体型のフィンガーを防振ゴムを介して定着する構造に変更した。出典;住友金属技報 Vol.50 NO.1(1998)

 ④長大橋で適用可能なゴム式伸縮装置-マウラー式-
 マウラー式伸縮装置(図-2.4.1参照)は、桁の伸縮に伴いサポートビームが上・下ベアリング間を滑ることによって伸縮する構造である。サポートビーム及び上・下ベアリングの摺動面にはステンレス板(SUS)、テフロン板(PTFE)を設置している。また、橋軸直角方向の変位に追随可能な「マウラースイベル式」もある(図-2.4.2参照)。軟弱地盤等で将来2方向変位が発生するような場合(北九州空港連絡橋橋台部や関空連絡橋空港島A1橋脚)には特に有効である。マウラージョイントは、ミドルビーム間に設置されたシールゴムで水密性が保たれている。また、ミドルビームの本数を増やすことにより、最大±400mm程度の伸縮量まで対応可能である。

 

 マウラー式の欠点は、リンク同様、機械式であり、部品の損傷が発生し易いこと、が挙げられる。

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