道路構造物ジャーナルNET

㉖大阪湾岸西伸部斜張橋計画雑感

現場力=技術力(技術者とは何だ?)

株式会社日本インシーク
技術本部 技師長

角 和夫

公開日:2021.11.01

(1)はじめに

 緊急事態宣言が解除されて一カ月が経った。ワクチン接種率の2回目完了が約7割を超えた。それと同時に新規感染者も東京では2桁に落ち着いた。お酒の提供も制限はあるが始まった。東京出張も徐々に増えていっている。政治に目を移せば、岸田さんが第100代内閣総理大臣に。その半月後、衆議院総選挙。11月1日には岸田さんが第101代内閣総理大臣になっているのか。この夏は東京オリンピックで盛り上がった。その後、再開されたプロ野球は某球団が惨憺たる成績に。私のプロ野球は9月末にはゲームセットである。話を本業に戻す。10月に入り考えられない事故が発生した。一つ目は、和歌山市の六十谷(むそた)水管橋の崩落事故である。1975年に完成、7径間連続ランガー橋の中央部の一連が水管を吊る鉛直吊材の腐食・破断に伴い崩落した。二つ目は、「東条湖おもちゃ王国」の立体迷路施設の床が抜ける事故だ。どちらも考えられない事故である。六十谷水管橋崩落原因は、間違いなく未点検(見てない・診てない)によるものである。水管橋は、厚生労働省の所管であるらしい(事故後、全国一斉に点検指示が出された)。その後の報道により分かったことは次の通りである。①月一回の定期検査を実施。ただし、水道管の漏水の有無を調べるのが主目的、②橋本体は、上流の別の橋から目視点検を実施。双眼鏡などは使わずに、③今年の5月、水管橋の通路上を歩いて点検。しかし、今回破断した吊材部分は3.5m上で見れなかったし、見ていない。中央道の天井版崩落事故を思い出す。手が届かないところは見ない。同じ構図である。水道局員は、水道管の保全が本業である。水道管は見るが、アーチ部材や吊材は見ない。私から言わせると「木を見て森を見ず」である。しまなみ海道今治管理センターの副所長をしていた頃、来島海峡大橋の箱桁内に水道管の敷設工事を行った。完成後、本四の社員(やBE点検員)には桁の点検もさせるし、同時に水道管の損傷や漏水等の有無もチェックさせた。今回の事故は人災である。水道事業者(管理者)の思い違いから発生した事故ではないのか。水道管(構造上はランガー橋の主桁)が主部材で、アーチや吊材があたかも二次部材のような扱いをしていたことである。住民の生死に係るライフラインの点検を軽んじたからこそ起きた事故である。
 一方、立体迷路施設の床が落ちたのは、まさしく点検ミスであり、人災である。従業員が毎日2回、目視点検し、定期的に専門業者が点検していたようだ。同様な事故が軽井沢おもちゃ王国でも2014年発生していた。雨風で接合部の釘が腐食し、床が抜け落ちた。その後、釘からボルトに変更された。今回も木材やボルトの腐食が調査で判明した。こういう施設は、屋根が無いことから建築基準法が適用されないという。ならば、建築基準法が適用されてたならば事故は防げたのか。人命に係る施設の点検を軽んじてほしくないものである。
 今回は、北九州空港連絡橋から話を一旦関西に戻すことにする。大阪湾岸西伸部の事業計画が令和元年12月に記者発表され、その後、各種検討が行われている。これらの内容について私なりに雑感を述べたいと思う。何故か。平成18年当時、阪神高速道路側の委員として当時の「大阪湾岸道路西伸部技術検討委員会・幹事会」に参加して、色々意見を言わせてもらったことがあったこと、2020.7.1号「神戸の顔-東神戸大橋を巨大地震から守る」や2021.2.1号「多径間吊橋の可能性」、で湾岸西伸部橋梁計画に触れたことにもよる。それから13年後に全体の事業概要が事業主体から発表された。はっきり言って、誰も意見を言える環境ではないと思うので気になる点を敢えて述べさせて頂く。これは個人の意見ではなく長大橋設計技術者の意見も入っている。

(2)事業計画に関して~ポートアイランド・六甲アイランド間~

 ※以下、資料は令和元年12月10日 大阪湾岸道路西伸部(六甲アイランド北~駒栄)事業概要(国交省近畿地整局、阪神高速道路) 記者発表資料より抜粋

  最終的には、連続斜張橋(等径間)案と2連の斜張橋案を比較。その結果、連続斜張橋案を選定。その理由は、1)維持管理性が高い、2)景観性に優れる、3)地震動や地盤変位に対する構造冗長性が高い、と述べている。比較案を図-1に、最終選定案を図-2に示す。

  以下に、1)~3)についてのコメントを示す。
 ①維持管理性が高い(地震時に損傷リスクの高い桁端部が少ない)
 若い頃の教えは、「地震時の損傷個所は、限定した箇所(伸縮装置)に留めるべきである」であった。このため、中小橋梁では「伸縮装置」を壊すことにした。それでは長大斜張橋ではどうか。私が耐震補強設計を担当した東神戸大橋では明石海峡大橋の伸縮量と同程度の伸縮装置が使われていた。阪神大震災ではペンデル沓(負反力沓)やウインド沓の損傷に伴い、端部の伸縮装置(櫛型)が損傷し52cmの段差が発生(写真-1参照)した。
今回の連続斜張橋案ではどれほどの伸縮量になるのか。常時のみならず地震時の移動量が気になるところである。東神戸大橋で開発した橋軸方向変位制御装置を採用するのかは知らないが。2連の斜張橋で伸縮装置を小さく、かつ、橋軸方向変位制御を使用し、現実的な構造を選択すべきではないのかと考える。

 ②維持管理性が高い(桁端部が陸上に近接した箇所に存在し、緊急点検時のアクセス性や修復性に優れる)
 関空連絡橋の設計係長時代にマスコミから巨大地震時の設計対応(入力地震動)について聞かれたことを思い出す。「連絡橋は巨大地震について対応している。しかし、周辺のアクセス道路は万全ではない。海上連絡橋だけ残って、意味があるのか」。つまり、ポートアイランドや六甲アイランドのアクセス部分は惨憺たる状況に陥る可能性が有る。2連案の場合、海上中央部に伸縮装置が存在するがこれが致命的にはならないと考える。いずれにしても、これら長大橋の被災後のアクセス手段は、空中アクセス(ヘリ)等が主にならざるを得ないと考える。これは、リオン-アンテリオン橋(図-3参照)等でも同じである。

橋脚は見分けが出来ないほど分からない
 点検・補修にどのような長短があるのか?

 ③国際航路間の中央海上橋脚が無く、点検・補修が容易である。
  南北備讃瀬戸航路、来島航路(西・中)同じである。国際航路間の橋脚が無いことが点検・補修にどのようなメリットがあるのか分からない。敢えて言うなら、橋脚基数が減るから多少は労力が減る、程度である。最大のデメリットは、最後に述べるが大断面主塔の存在が大きく設計・施工・維持管理に影響を及ぼすと考える。

 ④景観性に優れる(2つの人工島を結ぶ一本の線として連続性を有する)
 2021.10.1号「北九州空港その5」(構造と景観)にも書いたが、連続斜張橋にしようが2連の斜張橋にしようがいずれも連続性は十分に担保されている。橋軸方向にしても、橋軸直角方向にしても主桁はストレートに通っており、2連案が連続性を損なうことは無い。昔、計画を担当した「来島海峡大橋」は、来島第一大橋(支間長600m)、来島第二大橋(支間長1,010m)及び来島第三大橋(支間長1,030m)と3吊橋が連続する。橋軸直角方向から見れば、サグ比の違いで第一大橋の主塔が非常に低くなる。また、第二、第三大橋には国際航路が設定されており、桁下
の高さが異なる(図-4参照)。しかし、主塔を包絡線で結ぶ配慮や桁の縦断線形を変えることで連続性を確保している。橋脚の基数が増えることが連続性を侵しているのだろうか。例えば、六甲山頂より眺めた神戸港の景色をご覧頂こう(写真-2参照)。東神戸大橋は、主塔が目立ち、橋脚は見分けが出来ないほど分からない。

新港・灘浜航路連続斜張橋で設計される諸量が非常に興味津々
 伸縮装置はどうする?

 ⑤地震動や地盤変位に対する構造冗長性が高い
 果たしてそうであろうか。吊橋に比べて面内・面外剛性が高い斜張橋が地盤変位に対する冗長性が高いのか。20年ほど前に東京湾口浦賀水道大橋(支間長2,200m超えの吊橋)でパイルドファウンデーション基礎を検討したことがある。東京湾直下に存在する活断層が動いた場合、阪神大震災を上回る3,000ガル以上の地震動が発生する。柔軟な吊橋の主塔基礎さえ設計不可能となる。ここで検討したのが前掲の「リオンーアンテリオン橋」で採用された「パイルドファウンデーション基礎」である。軟弱な地盤を鋼管杭で補強し、基礎と補強地盤の間は砕石マウンドを構築する。巨大地震発生時には基礎と砕石層の間の摩擦が切れて動くという想定である。リオンーアンテリオン橋のパイルドファウンデーション基礎と想定断層変位を図-5に示す。

 

 図-5.2に示すリオン-アンテリオン橋の想定断層変位に対して、新港・灘浜航路連続斜張橋で設計される諸量が非常に興味津々である。

  ⑥維持管理性(連続斜張橋は維持管理性が高い)
  本当にそうなのか。桁端部が少ない(伸縮装置が)、桁端部が陸上部に近接(アクセス性や修復性に優れる)、国際航路間の海上橋脚が無い(点検・補修が容易)、というが本当なのか。世界最大級の伸縮装置(恐らく、明石の倍?)のメンテが簡単なのか。私なら小さい伸縮装置にして、身軽な維持管理を目指すのだが。国際航路間の海上橋脚が無いことがメリットというが、通常であれば国際航路上の2連の斜張橋で済むはずである。敢えて、吊構造にする必要の無い、中央の斜張橋をメンテする必要があり、恐らく1.5倍以上のメンテ費用が加算されると考える。

 ⑦景観性(連続斜張橋は景観に優れる)
 「連続斜張橋は2つの人工島を結ぶ一本の線として連続性を有する、世界最大規模の連続斜張橋で世界に誇れる景観を創出できる」。果たしてそうなのか。2連の斜張橋でも連続性は十分に有していると私は思う。世界最大級の・・・・世界に誇れる・・・は、私も納得できる面はある。果たして、この構造で成り立つのか。多径間連続斜張橋の活荷重撓みを抑えるために中央主塔を何れも剛性主塔にしている。気持ちは分かるが、目障りである。基礎に大きな負担がくる。軟弱地盤である。設計が成り立つのか。検討はされるのだろうが。

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