道路構造物ジャーナルNET

㉕北九州空港連絡橋(その5) ~構造と景観~

現場力=技術力(技術者とは何だ?)

株式会社日本インシーク
技術本部 技師長

角 和夫

公開日:2021.10.01

(1)はじめに

 昨今のマスコミの話題は、新型コロナによる緊急事態宣言が10月1日から解除されるのか、自民党総裁選で誰が勝つのか、の二つである。世の中の注目がいつの間にか人命から総裁選にシフトしてしまった感がある。何とか2年前までの日常が戻ってくることを新総裁に期待している。
 話は替って最近の出来事を紹介する。奈良県内の地公体さんから吊橋(人道)の補修設計業務を頂いた。9月の第二週に現地詳細調査に向かった。詳細調査は、当社社員と㈱特殊高所技術さんに任せ、私は一人でレンタカーを運転して周辺の吊橋等の調査に。国道168号を南下し国道425号(三重県尾鷲市~和歌山県御坊市)に。国道425号は、言わずと知れた「日本3大酷道」の一つ。因みに、他の2つは、439号(徳島県徳島市~高知県四万十市)と418号(福井県大野市~長野県飯田市)である。酷道とは俗語で「一般国道だけど普通乗用車での通行が難しい道」のことである。以前、編集委員をしていた「高速道路と自動車」のコラムに「酷道」について触れたことを思い出した。425号から途中で枝線に入り、何とか見つけたのが橋長84mの吊橋(人道)(写真-1.1参照)である。因みに、168号から枝線に入り偶然「野猿」(吊橋の一種で人力ロープウエイ)も見つけた(写真-1.2参照)。

 如何せん、山の中の吊橋は何処にあるのかが分かりにくいものである。移動時間も長い。何とか、9時に出発し、16時に出発点に帰って来るまでに4橋の現地調査が出来た。現地調査時の宿舎は天川村の民宿である。18時過ぎには辺りは真っ暗。日中の気温が33℃だったのが夜は18℃ほどである。若手社員に吊橋談義をしながら晩御飯を食べる。別棟の宿泊部屋に戻ってからは、途中のコンビニで調達した芋焼酎とスコッチウイスキーで臨時技術講習会の開催となる。芋焼酎を片手に㈱特殊高所技術の山脇さんから調査・診断のテクニックと貴重な経験談を(私は、スコッチを飲みながら吊橋や斜張橋・・・等の経験談を)。因みに、一般のアクセスが不可能な箇所の点検・調査は、㈱特殊高所技術・山脇さんにお願いしている。他の会社は信用していないし、使わない。新型コロナウイルスが蔓延している中、天川村の民宿では夜遅くまで熱い議論が戦わされたのは言うまでもない。
 今回は、引き続き「北九州空港連絡橋(その5)」として、「構造と景観」について紹介する。我々、技術者(産・官・学)のごく一部には綺麗ごとを言う者がいる。例えば、「構造と景観の融合」、あるいは、「維持管理を考慮した構造や設計」。以前の連載で書いたが、景観について本当に意識し始めたのは来島海峡大橋の計画の頃である。構造-景観-維持管理が一体となった設計。さらに、施工も加えた四位一体の設計、これこそが我々技術者に課せられた使命ではないかと考える。

(2)ある後輩からの一言

 平成17年の春頃、福岡県から空港連絡橋完成を祝した祝賀会を催すとのこと。本四公団鳴門管理事務所の橋梁課長をしていたため、徳島空港から福岡空港に。飛行機の中から北九州空港連絡橋を眼下に望むことができた。懐かしの建設事務所(福岡県京都郡苅田町)で雑談後、開港前の空港を見学し、連絡橋を渡って、小倉市内の祝賀会場となるホテルに移動した。福岡を離れて既に7年以上が経過し、事務所OBであり、部下であった福岡県あるいは北九州市職員(出向)と昔話に花が咲いた。

 ところが本四高速から当時出向していた後輩から言われた一言が未だ記憶に鮮明に残っている。彼は、悪気があって言ったわけではないと思うのだが。彼曰く、「何でこんな高い(コストが)防護柵や照明灯にされたのですか?何で景観にこれだけお金を使うのですか?」と。プロジェクト末期に加わった人間には北九州空港連絡橋に込められた熱く・深い思いが伝わらないのであろう。

(3)PC斜張橋での話

1995年6月、道路建設課長(補佐)から県内に計画されている橋梁について意見を頂きたいと。河川上に計画されたPC斜張橋である。設計を担当しているDコンサルさんは社長や技術部長をはじめとして10人程が会議に出席。県側も8人程。開口一番、「何で主塔を曲げているんですか」と聞いた。主塔が橋軸方向にくの字型に曲がっているのである。西欧や国内でも昨今よく見かける形状である。その答えは、「九大のO教授から言われまして」という。O教授は景観に関する本も出版されている有名な先生ではある。しかし、「斜張橋の主塔を簡単に曲げないでくれ」、と言った。「直塔の断面は検討したのか」と聞くと、「検討していません」という。呆れて、「コンサルって何をするのか分かっていますか」と言って席を立った。後日談である。Dコンサルの部長から「今後どうしたらいいでしょうか」と話があった。私の方からは、「きちんと直塔の設計をし、必要断面を作った後に、折れ塔の検討をする。両者比較の後、理論武装をした上で折れ塔にすれば良いのでは」と。

(4)大阪湾岸西伸部での話

阪神高速の技術研究発表会において、湾岸西伸部の和田岬沖の斜張橋について検討内容のプレゼンがあった。この計画案は、1本主塔の鋼斜張橋である。20年前の福岡県庁会議室での議論が再び蘇った。当然の如く質問した。「何故、斜張橋の主塔を橋軸方向に曲げるのか?直塔の検討はしたのか?」。発表者の回答は、「今後、検討します」と。呆れたので林修さんではないが「今、検討すべきでしょ」と。こういう技術者がどこの道路会社にも増えてしまった。電子計算機の計算能力が上がり、どこの道路会社も全てコンサルタント任せ。情けない限りである。主塔なんていくらでも曲げられる。しかし、斜張橋主塔の基本は直塔である。何故それが理解できないのか。その後、十分な検討が為されていることを祈るばかりである。

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