道路構造物ジャーナルNET

㉔北九州空港連絡橋(その4)

現場力=技術力(技術者とは何だ?)

株式会社日本インシーク
技術本部 技師長

角 和夫

公開日:2021.09.01

 ②補剛桁の耐風安定性
 中央支間長が210mと比較的短いこと、これによりねじれ剛性も大きいこと、から低風速域で発生が懸念される渦励振について、九州産業大学の(故)吉村健先生に部分模型風洞試験をお願いした。私自身、過去に検討してきた渦励振対策である桁端部への所謂、フェアリング設置で解決可能と判断した。最終的には、①のステップ3で示した大型風洞模型試験(一様流、境界層乱流)により確認した

 ③吊材(ケーブル)の耐風安定性
 大型模型風洞試験により十分な耐風安定性を確認した。

 ④全橋の耐風安定性の照査
 現地における気流観測結果(気流の傾斜角や風向角)やM社の大型風洞設備を用いた地形模型風洞試験により、各種風洞試験条件を決定した。大型模型(3次元弾性体模型による)風洞試験は、M社・長崎研究所(というより、来島・関空・多々羅と一緒に仕事をした同い年のH氏が居る)に殆ど特命でお願いした。当時も今も風洞試験の発注方法は、地公体はどこでも同じである。コンサル設計ベースの風洞試験は大学へ委託である。設計段階からファブやメーカーとの関りを避けているのである(紐付きは避けたい)。それでは大学(の設備)では手に負えない案件はどうするのか。体裁だけ整えても仕方がない。大学側とM社との試験範囲を分けて業務を進めた。つまり、部分模型試験は大学で、最終の全橋模型での照査はM社で。全橋模型試験では、一様流試験、乱流応答試験を実施し、アーチリブのギャロッピングやバフェッティング、補剛桁の渦励振等の有無を確認した。写真-5にM社長崎研究所、大型風洞設備内に設置した三次元大型風洞模型(縮尺1/50)を示す。

 

 ⑤横風対策検討(基礎研究)(図-4参照)

 1995年当時、世の中は長大橋の建設計画も一段落といった状況。長崎研究所のH氏と色々な話をしていた時の事である。本四の大鳴門橋、瀬戸大橋を初め、国内各所で横風(平成24年当時は「爆弾低気圧による暴風」とか言っていたような記憶がある)による車両横転事故が頻発していた。例えば、吊橋主塔近傍である。接近流が主塔風上側の断面コーナー部で剥離し、主塔背面近傍に増・減速域が発生する。これにより運転者はハンドルをとられ横転する。これは、アーチリブも同様である。吊橋主塔と違い、橋軸方向に徐々に断面が変化するため、車両が受ける変動風はより厳しいと考えられる(ジャーナル2020年4月1日、「横風と車両横転について」参照)。このため、大型風洞模型を利用して橋面上の横風の特性を探ることにした。
 図-4の如く、風上側からの接近流は、桁、アーチリブや拡幅歩道の形状の影響を受けて下流側(例えば図中のE断面)で増・減速する。所謂、気流の急変箇所が存在する。橋上を走行してきた車両は、モノコードアーチ区間を走行中に大きく横風を受けることになる。これらの対策の一つとして、遮風壁を検討した。図-5に検討案を示す。

 当時検討した遮風壁については、設置することの効果(横転事故を制御可能)と設置しないことの効果(気流の風向角によっては渦励振が発生)を考え、当面は設置しないこととした。幸い新聞紙上でそのような(横転事故が発生とか)記事を見ていないのでホッとはしている。皆さんもこういう形式の橋について検討の際、利用者の事も十分に考慮して設計して頂きたい。

<裏話>
  国内に現存する風洞設備はかなり少なくなってきている。大型橋梁案件が少なくなっていた20世紀最後の頃、風洞設備を長大橋の風洞試験以外の検討に使えないか、と考えた答えの一つが横風対策の検討であった。大三島橋の横風対策検討でお世話になった故)白土博通京大教授も自動車会社と横風対策の研究を始められていた。

(3)最後に

 今回、これまでに関わってきた風洞試験について記憶に残っている範囲で記述した。橋梁業界、細かく言えば“風洞試験業界”は技術の継承が行われているのだろうか?ファブ(造船)が専門としていた風洞試験をメーカー(橋梁専業)も行うようになり、最盛期は「風洞設備」が多くの会社に設置された。20世紀後半から21世紀になり、大型橋梁案件の新規発注が殆ど無くなった。これに伴いファブ・メーカーが整理・統合され、あるいは橋梁から撤退していった。長い間、耐風性の研究をしてきた技術者・研究者がどんどんいなくなった。風洞試験設備も無くなっている。まさに、「荒廃するアメリカ」の「荒廃する日本、風洞試験バージョン」だ。とはいえ、技術者・研究者を残すためには、仕事を作る必要がある。「新規の長大橋を計画する」という様な大げさなことは必要ない。例えば、既設橋梁の耐風対策の再評価(事例:ジャーナル2021年45月、設計の再評価と維持管理)をし、重たい維持管理から身軽な維持管理に転換することも一つであり、横風検討をする、のも一つである。これだけでは「飯が食えない」のは分かり切っているので風力発電や潮流発電、・・・・等、頭を捻ってください。

  最後に、つい先日、九州大学名誉教授の彦坂熙先生(元北九州空港連絡橋の技術委員会委員及び構造部会の部会長)(有明沿岸道路橋梁検討委員会 委員長)からメールを頂いた。私の記事を読んで頂いており嬉しい限りである。2021年1月1日の記事、「斜張橋の発展とケーブル」の中で矢部川橋の基礎形式と沈下について触れた部分についてのご意見を頂いた。
  この紙面を借りて謝意を表します。(次回は10月1日に掲載予定です)

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