道路構造物ジャーナルNET

㉔北九州空港連絡橋(その4)

現場力=技術力(技術者とは何だ?)

株式会社日本インシーク
技術本部 技師長

角 和夫

公開日:2021.09.01

(1)はじめに

 大阪府に緊急事態宣言が再発令され、更に9月12日まで延長となった。新型コロナウイルスは終息するどころか息を吹き返した。「人流が変わった」と政府関係者(トップ)が語っていた様な。人流が変わるどころか、従前以上に活発化している。通勤に使用しているJR神戸線の新快速電車も相変わらず満員の盛況である。大阪駅からの大阪メトロ御堂筋線は超満員のコロナ感染危険路線。これ故、朝は本町まで徒歩通勤である。御堂筋を早歩きしながら堂島川(写真-1、大江橋)、土佐堀川(写真-2、淀屋橋)に架かる橋を見るのが日課となっている。

 東京オリンピックが終わったのがつい3週間前。1カ月中断していたプロ野球も再開した。2年振りに夏の甲子園も大雨に祟られながらも試合は何とか進んでいる。パラリンピックも開幕した。でも何かが違う。スタンドに観客が入っていない。高校球児の聖地、甲子園にかつての応援合戦は存在しない。プロ野球も入場制限を行っている。政府のコロナ分科会は、「新型コロナとうまく付き合っていくことが重要だ」、と1年前言っていた。諸外国はワクチン接種も進んだこともあるが元通りの生活に戻りつつある。MLBのスタンドは多くの人が入っている。ワクチン開発の技術力や政治家、国等(公務員)のレベル差でこれだけ国民は悲哀を味わうのか。新型コロナの感染スタートからもうすぐ2年。せめて、今年度中には終息してもらいたいと願うばかりだ。
今回は、引き続き「北九州空港連絡橋(その4)」として、長大橋の設計にはつきものの「風洞試験」について紹介する。

(2)モノコードアーチ橋における風洞試験

1)風洞試験との長い付き合い
 風洞試験との付き合いは、1980年(入社2年目)に始まる。大鳴門橋の主塔架設系風洞試験を担当したのが最初である(写真-3参照)。ジャーナル2019年10月1日号、「吊橋主塔が揺れる、箱桁橋が揺れる!」に示したように、断面形状の変化や構造減衰により耐風性状が大きく変化することを学んだ。写真-3は、M社長崎研究所の大型風洞設備と主塔弾性体模型である。国鉄(北海道)からM社に転職され、本四営業をされていたSさんの口癖である。この大型風洞に入られたお客さんから「風洞は何処にあるんですか?」とよく尋ねられると。「もう風洞の中に居ますよ」と言うとびっくりされると。M社の風洞は、3m(縦)×10m(横)(90°回転すれば10m(縦)×3m(横))と巨大である。大学の風洞設備は概ね2m×3m程度。瀬戸大橋の設計を担当していた時、東大の伊藤先生の研究室を尋ねた。南備讃瀬戸大橋の全橋模型風洞試験風景を見学させて頂いたが、それより大きいのである。より大きな模型で精度・信頼性の高い実験が可能な国内で唯一の風洞施設と考えている。費用は高いが、それ以上の価値があると私は思う。基本断面を模索する部分模型試験(2次元剛体)は別にして、最終照査の3次元弾性体模型試験はM社と決めている。

  <裏話>
 30年ほど前、関空の進入灯点検橋の耐風性を確認したいと他部(運輸省系)の設計課長から私に問い合わせが来た。進入灯点検橋は、橋長が長い割には載荷活荷重が点検管理員の荷重である。一般的には揺れやすい橋の部類になる。当然の如く、風洞試験が可能な会社のリストアップと特に優秀な1社に二重丸をして渡した。

 その後、来島海峡大橋補剛箱桁の断面検討、関西国際空港連絡橋並列箱桁の実橋振動性状とダンパー制振効果の確認、多々羅大橋の主塔・ケーブル風洞試験等、を行ってきた。

 特に印象に残っているのは、来島海峡大橋補剛箱桁断面の検討である。ケーブル中心間隔の縮小(4車線必要最小断面)であり、桁高を変更したり、自歩道対応をしたり、検査車レールの設置位置を変えたり、そういう意味ではバリエーションに富んだ風洞試験をさせてもらった。当然のことではあるが、流線形箱桁吊橋の草分けでもあるイギリスのハンバー橋、セバーン橋及びトルコの第一ボスポラス橋(や第二ボスポラス橋)の設計についても広く浅くではあるが、とにかく勉強した。コスト縮減から、桁高を低くしたり、桁幅(ケーブル中心間隔)を縮小したり。桁断面を絞れば絞るほど、振動諸元が悪化し(ねじり剛性が低下し、振動数比は小さくなる)フラッター風速は低下する。当時、フラッター発振風速推定式としてSelberg式を一つの目安として検討に活用していた。耐風性を改善する方策の一つとして、斜めハンガーの試設計も行った。当時、国内において中央支間長1,000m級の補剛箱桁吊橋は無く、前段の様に試行錯誤しながら風洞試験(二次元)用の桁断面や振動諸元の作成を行っていた。綜合技術コンサルタントの宮花氏にはご苦労頂いた。

 最終的にセバーン橋タイプ(ケーブル中心間隔23m、25m案)の補剛箱桁断面では所要の耐風安定性を満足しなかった。日本特有の強風(台風)発生頻度とフラッター照査風速(1.2×VD (設計風速))の高さが壁となった。最終断面形状は、皆さんもご存知(?)の通り、ケーブル中心間隔27m、桁高4.3m、自歩道をケーブル間に収納したものとした(図-1参照)。

 来島海峡大橋(中央支間長1,000m級吊橋)で検討した吊橋諸元等を以下に示す。
<ケーブル中心間隔>
 →工費縮減を目的
 23m、25m(自歩道はブラケット張り出し)
 27m(自歩道はケーブル間内に収納)    
 →耐風安定性により27mに決定
<自歩道対応>
 →工費縮減を目的
 ・自歩道は、張り出しブラケット対応(セバーン橋)(図-2参照)又は桁断面に含む(図-1)
 ・ケーブル中心間隔を小さくした場合、上下部工を含めたコスト縮減効果はあるが、反面、耐風性は悪化する。特に、ブラケット対応の場合は補剛桁のねじれ剛性が小さくなるので、斜めハンガーの採用や桁の空力特性の改善を図る等の検討を行う。

<桁高>
 →維持管理上の配慮と工費縮減を目的
  3.3m、3.8m、4.3m→最終4.3m
<検査車レール>
 耐風安定性に影響の無い位置

<裏話>
 ①斜めハンガーに関しての裏話(その1)
 当時、斜めハンガーと流線形箱桁を採用したセバーン橋が大問題になっていた。斜めハンガー定着部の損傷(疲労)ということだけではなく、主塔頂内部や鋼床版等の各所に疲労損傷が発生していたのである。斜めハンガーと流線形箱桁を採用したセバーン橋は、当時は画期的な設計と世の中から称賛された。北米、タコマ橋の落橋以降、セバーン橋が出現するまで世界の長大吊橋の主流は北米流の重厚な補剛トラス桁形式となっていた。当然の事ながら、当時の本四公団職員にとっては、吊橋の補剛桁=トラス桁であり、道路単独橋の因島大橋然りである(道鉄併用橋の瀬戸大橋や大鳴門橋、それと道路単独橋ではあるが耐風性の面から明石海峡大橋はトラス)。斜めハンガーの効果は、ハンガーロープのヒステリシスを利用し減衰を高めること、トラス効果で吊橋面内の全体剛性を高める、ことである。確かに、斜めハンガーの効果により振動諸元は若干向上するが、耐風性はそれほど良くはない。疲労損傷が発生したセバーン橋の悲劇は避けたいし、国内最初の長大箱桁吊橋であることから、オーソドックスな鉛直ハンガーを採用することとした。流線形箱桁と斜めハンガーを有するセバーン橋や第一ボスポラス橋を発案・設計したDr.Brown氏は、その後、第二ボスポラス橋の設計・施工監理に携わった。が、鉛直ハンガーに戻している※1)
※1)再び流れが変わった長径間吊橋;川田忠樹著

②斜めハンガーに関しての裏話(その2)
 来島大橋の計画を終えて平成2年10月に関西国際空港㈱に出向した。何と、一面吊り・斜めハンガーを有する自碇式吊橋「此花大橋」(写真-4参照)がこの年の3月に完成していたのだ。「何でこんな橋を」、と今もその考えは変わらない。補剛桁をベント架設し、ケーブル・ハンガーを補剛桁上で架ける、とは。吊橋を冒涜している。「自碇式吊橋故に」と設計者は言うであろうが、「斜張橋にすれば」と私は思う。皆さん、どう考えますか。

 

2)北九州空港連絡橋における風洞試験
   モノコードアーチ橋の耐風安定性に関する検討事項は、以下の通りである。
   ①アーチリブの耐風安定性     想定振動現象は、主にギャロッピング振動
   ②補剛桁の耐風安定性       想定振動現象は、渦励振(とフラッター)
   ③吊材(ケーブル)の耐風安定性  想定振動現象は、渦励振
   ④全橋の耐風安定性の照査     アーチリブ、補剛桁、ケーブルの振動と抑制確認
   ⑤横風対策検討
 
 ①アーチリブの耐風安定性
 アーチリブの耐風安定性については、特に慎重に検討を行った。検討ステップを以下に示す。
 ステップ1:九工大の風洞設備を用いて基本断面(4断面)の耐風性を確認。模型は3次元模型(S=1/70)を使用。偏角0~15°で面内2次のギャロッピングが発生
 ステップ2:同じく九工大の風洞設備を用いてギャロッピング対策を検討。所謂、デフレクターを設置することでギャロッピングは消滅又は高風速域へ(図-3参照)。

ステップ3:
M社長崎研究所の大型風洞設備を用いて最終照査を実施。模型は3次元弾性体模型(S=1/50)を使用。ステップ1で確認されたギャロッピングは確認されなかった。

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