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⑲設計の再評価と維持管理

現場力=技術力(技術者とは何だ?)

株式会社日本インシーク
技術本部 技師長

角 和夫 氏

公開日:2021.04.01

(5)主塔制振対策の再評価

①はじめに
 維持管理費の縮減を目的として、建設当時の設計思想や設計を再度一から見直し、あるいは新しい知見等を取り入れて維持管理方針(案)を作成することとした。
 明石海峡大橋は「ダブルセーフティ」という名のもと、主塔内に計80基、主塔・側径間補剛桁間に計8基、合計88基のTMDが設置されている。これらのTMDのダンパーは、製作メーカーから提示された「維持管理マニュアル」に則り、5年に1回の分解整備が義務付けられていた(本当にやっていたかは別問題ではあるが)。
 もちろん、ダンパーの減衰性能の確認と調整のために定期的な分解整備は必要不可欠である。しかし、分解整備の頻度は画一的に決められるものではなく、初期のデータ、オーバーホール時のデータや既往の実績値や経験値を踏まえ、逐次見直すことも技術者として当然の義務である。これをしなければ技術者ではないし、ダンパーメーカーの恰好の餌食になるとともに、ダンパーが維持管理の足を引っ張ることに繋がる。そこで発案したのが維持管理シナリオの策定である。

②維持管理のシナリオ(3つのシナリオ)
 1)シナリオ(その1)・・・・・現状案
 ダブルセーフティ思想を踏襲し、全88基のTMD及び桁間ダンパーを同レベルでメンテするもの。当然のことではあるが維持管理費用はMaxである。
 2)シナリオ(その2)・・・・・変更案
 主塔内のTMDあるいは桁間ダンパーのいずれかを主にメンテする。維持管理上アプローチがし易い桁間ダンパーを主にメンテすることになる(主塔内のTMDは撤去搬出時の横持が大変であるとともに基数が多い)。
 3)シナリオ(その3)・・・・・変更案
 ダンパーのメンテナンスサイクルを見直す(長周期化)ものである。

③再評価のための各種検討
   (本四技報;明石海峡大橋主塔の制振対策再評価;福永、角、竹口、より抜粋)
1)主塔の耐荷力と制振振幅の再評価(図-3参照)
 主塔の渦励振に対する耐荷力と終局状態に至るまでの損傷過程を把握することを目的として、主塔単独モデル(ファイバー要素)による弾塑性有限変位解析を行った。解析は、主塔に共振風速時の荷重を固定荷重として載荷させた状態で、塔柱に振動作用に相当する分布荷重を橋軸方向に漸増載荷させ、主塔が降伏に至るまでの挙動を確認した。
 建設時も同様な解析を行っているが、荷重として見込むSD(支点移動)とE(架設誤差)については精密点検の結果等から見直しを行った。


図-3 主塔耐荷力解析結果(曲げ1次・ねじれ1次振動)

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★耐荷力解析のポイント
 曲げ1次の渦励振
 振幅75cm程度で塔柱基部が降伏開始。比較的低風速領域で発生することから発生応力を降伏の0.75倍(1.35σa)程度に抑えることを考えても、設計時に設定した許容振幅30cmは大きな余裕を有している。
   →建設時の設計制振振幅を緩和することが可能

 ねじれ1次の渦励振
 振幅20cm程度で斜材・水平材が降伏開始。設計時に設定した許容振幅15㎝の緩和は難しい。
   →建設時の設計制振振幅を維持する
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2)制振効果の再評価
 ダンパーの減衰係数の変動(±50%)が獲得減衰に与える影響を複素固有値解析により検討を行った。解析は、吊橋全体系モデル(制振装置含む)を使用した。つまり、TMDの減衰係数の変動が制振効果に及ぼす影響を確認し、減衰係数の管理基準値の緩和の可能性を探った。
 この結果、曲げ振動に関しては制振振幅を10cm程度緩和できたこと、ねじれ振動に関してはダンパーの減衰付加機能に余裕があったことにより、減衰係数の変動率が50%であったとしてもTMDのみで制振できる(減衰が確保可能)レベルであることが判明した(図-4参照)。なお、桁間ダンパーの減衰も加味すると50%の変動でも曲げ1次で5倍以上、ねじれ1次で2倍以上の減衰を有している。


図-4-1 獲得減衰計算結果(曲げ1次振動)(減衰係数変動の影響)

図-4-2 獲得減衰計算結果(ねじれ1次振動)(減衰係数変動の影響)

3)主塔の減衰特性の把握
 吊橋完成系の主塔に対して、強制加振法による減衰特性の把握は非常に困難である。そこで以下に示す手法により減衰特性を推定した。
 イ)主塔単独での減衰特性
 主塔単独での減衰特性は、TMDが作動しない条件下での常時微動観測データをRD法(Random Decrement Method)を用いて推定した。振幅が非常に小さいので減衰は大きめに出る傾向だが、設計上考慮している構造減衰δ=0.02以上は有している。
 ロ)主塔(制振装置を含む)の減衰特性
 明石海峡大橋主塔において、供用後に渦励振が観測され、かつ、TMDが作動したのは台風9807号(1998年9月22日)のみである。この時の最大振幅は30mm程度であり設計上期待している減衰以上に確保されていることが分かった。

④まとめ
 1)曲げの制振振幅を緩和(30→40cm)できることにより、必要減衰を下げることが可能。

 2)制振装置の減衰係数の変動が制振効果に及ぼす影響を確認した結果、曲げ、ねじれ振動いずれにおいても±50%程度の変動でも制振効果は確実に期待できることが判明した。

 3)完成系主塔の減衰特性は、主塔単独では常時微動の観測データで、制振装置込みの場合は、強風時の渦励振データを利用し、RD法により推定した。その結果、主塔単独、制振装置込みの場合も十分減衰を有することが分かった。

 4)供用後に行われた12本のTMDの性能試験結果から、15年経過時で一部のダンパーの減衰係数が現行の管理基準値(±10%)の上限を超過していた。言い換えれば、最低でも15年に1回はオーバーホール(分解整備によるオイル交換や減衰係数の測定や調整)が必要だということになる。今回の再評価を行ったことにより、「分解・整備」のタイミングは減衰係数の変動が主ではなく、消耗品としてのダンパーのパッキン等の交換が目安となることになる。

 5)明石海峡大橋の制振装置、とりわけ「桁間ダンパー」の減衰付加効果は非常に大きいことが図-4でもご理解頂けるであろう。私の検討当初の目標は、「主塔内のTMDは、そのまま永眠(つまり使うだけ使い、ノーメンテで使い切り)、桁間ダンパーを最優先で維持管理する」ということだった。その後、10年以上経っており、社内でどう議論され、どうマニュアルが改正されたのかは聞いていない。しかし、メーカーサイドが示した5年ごとのオーバーホールはなくなったであろう。

 6)明石主塔耐風性再評価では、当時の本四耐風委員会の(故)白土博通京大教授に大変お世話になった。また、綜合技術コンサルタントの渡邊氏には無理難題を言って、様々な解析や検討をして頂いた。この機会に御礼を述べます。

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