道路構造物ジャーナルNET

⑮ 規格や基準の誤解、間違い、不備が原因のトラブル

次世代の技術者へ

土木学会コンクリート委員会顧問
(JR東日本コンサルタンツ株式会社)

石橋 忠良

公開日:2020.11.01

 今回は規格や基準に係る、間違いや誤解での構造物のトラブルの事例ついて紹介します。
 JISの原案は生産者が中心になってつくられるので、生産者が守られるような規格になり構造物の品質保証にはなっていません。JISの生コンの品質保証は、荷下ろし時点での保証で、構造物のコンクリートを保証はしていません。鉄筋の曲げ戻し試験は、JISにかつては全く規定されていなく、今でもすべてやるような規定にはなっていません。
 設計の基準も、必ずしもすべての構造を網羅して検討されてつくられてはいません。ある条件下で行われた実験や解析などをもとにつくられます。この範囲の条件下でつくったルールだとは一般に記述されていません。元の条件と異なる形状や使われ方が行われると、おかしな構造物となります。おかしな形状になったら基準がおかしいのでは、と思うことも必要です。基準をつくる関係者は、その基準をつくった実験などの条件範囲を明示して、条件が大きく異なる場合は注意するようなコメントを入れておくことが必要です。

 今回は、今の基準や規格の問題点と、過去に基準に従いすぎて問題を起こした例や、それの解決事例を紹介します。なお、アルカリシリカ反応についても、JISの規定では損傷をなくせない事例があったことから、今では多くの機関でより厳しい区分での対策をしています。それについては前に紹介したので、今回は省略します。

1.生コンのJIS は構造物のコンクリートの品質保証ではない

1.1 凍害と生コンの空気量
 コンクリートの凍害を防止するために、空気量が必要です。戦前は、AE剤は使われてなく、そのため凍害が東北地方などでは多く生じていました(写真-1)。


写真-1 AE剤が使用される以前の構造物の凍害

 今では、生コンの配合表にも空気量は定められており、空気量が保証されています。しかし、これは生コンの荷下ろし地点での受け入れ時の保証です。その後のポンプ圧送や、バイブレータによる締固めなどにより空気量は変化します。構造物の空気量については保証されていません。
 最近、東北新幹線の構造物を調査したら、凍害が広く生じていることがわかりました(写真-2)。


写真-2 AE剤が使われた東北新幹線構造物の凍害1)

 凍害の生じている構造物からコアをとり空気量を計測したら、荷下ろし時の計測値より非常に少なく、気泡間隔係数も多くは250μmを超えていることがわかりました(図-1)1)


図-1 東北新幹線の構造物の空気量と気泡間隔係数1)

 気泡間隔係数は250μm以下であれば、耐凍害性に優れているといわれているものです。生コンの空気量はJISでは4.5%±1.5%となっています。かつては、ポンプ圧送ではなく、バケットでの運搬であり、バイブレータでなく突き棒で突き固めたので、その頃は構造物の空気量も、現場の運搬前のコンクリートの空気量もあまり変わっていなかったのかもしれません。ポンプ圧送や、バイブレータ作業で、荷下ろし時点の値から空気量は変わってしまうようです。また時間とともに気泡が変化するのかもしれませんが、今、学会の委員会などで勉強が進められています。

 東北新幹線建設当時、私も施工現場にいたことがあり、生コンが現場に到着したら、スランプ、空気量など熱心に計測した経験があります。あの計測は役に立っていなかったのかと、今さらがっかりします。
 実構造物のコンクリートに必要な空気量を確保することが重要です。構造物の空気量を保証できる検査に変えていくことが必要です。
 混和剤の種類の影響、ポンプ圧送の影響、振動締固めの影響、時間変化での影響などと空気量との関係を明らかにすることが望まれます。今のルールのままでは、構造物の品質は良くなりません。実構造物での空気量の検査が望ましいのですが、難しいのであれば、既に東北地方で実施している現場がありますが、生コンの空気量をポンプ圧送や、バイブレータで減少する分だけ荷下ろし時点で増やして対処するなども当面は必要です。

1.2 生コンのスランプ
 生コンの現場移動にポンプが使われ始めたころ、ポンプの性能が良くなかったので、コンクリートが詰まるということがしばしば生じました。これを避けるため、現場で生コンに水を加えて柔らかくするということが行われたようです。コンクリートの硬化にはあまり影響していないので、問題が生じるとは当時思っていなかったようです。
 しかし、そのコンクリートの中性化速度は速く、関西では海砂を除塩不十分で用いたこともあり、コンクリートの中で鉄筋が錆びて、かぶりコンクリートの剥落を起こすことになりました。
 水の多いコンクリートは中性化が早く進み、鉄筋の防錆機能が早期に失われます。耐久性を担保するには単位水量の上限を守ることが必要です。

 JISではスランプを規定していますが、これは施工性に係る性能なので、完成構造物のコンクリートの品質と直接は関係しません。品質保証の観点からは単位水量を管理することのほうが重要です。かつては減水剤などの混和剤もなかったので、硬いコンクリートが水の少ない良いコンクリートを示していました。
 初期のPC のコンクリートのスランプは3cmで、私が社会人になったころのスランプは6cmで示方されていました。今では、減水剤が多くあり、柔らかくても水の少ないコンクリートがつくれます。そのため、施工性を考えてスランプを以前よりも大きな範囲を認めています。スランプは単位水量の少ない品質の良さを保証する値でなくなったのです。その代わり品質には単位水量の上限を超えないことの保証が重要となったのです。

 スランプは、施工者の作業員の数や、施工数量に応じて施工者が自由に決めてもらえばよい性能です。多くの人をかけて硬いコンクリートをかつてのように入念に施工するか、少ない人で柔らかいコンクリートを施工するかは自由に選択しても構いません。ただし品質を確保するための単位水量、空気量、強度などは保証してもらうことは必要です。また、事業者として受け取るにはこれらの品質の検査が必要です。施工者としては、施工性は豆板などつくらないために重要なので、スランプなどの管理は重要です。
 生コンのJISは強度、スランプ、空気量などすべて荷下ろし時点での保証となっています。構造物のコンクリートを保証するようにすべきではないですかとJISの改定委員会で発言したことがあります。JISはあくまで荷下ろし時点の保証です。そのあとのポンプ圧送、締固めなどは生コンの生産者の責任ではなく施工者と発注者の責任ですとJISの改定委員会で生産者側から言われました。実構造物の品質保証のためのコンクリートの検査を施工者や発注者は考えなくてはなりません。

2.技術に自信のない分野は、仕様規定の契約から性能保証の契約へ

2.1 仕様どおりの施工で水漏れした防水工
 駅の防水工の仕様を定めて発注して、仕様通りのものが施工されました。工事は何期にも分割されており、全体はまだ終わっていませんでしたが、防水工は竣工していたようです。しかし、駅に漏水が起こりました。防水工は仕様通りなので、責任は仕様を定めた側になり、再度補修工事を発注したようです。このことが、監査で問題となりました。特に、土木技術者の得意でない、防水工や止水工など、専門会社の言われるままに仕様して、すぐに水漏れがして、補修工事をまた契約していたことが問題となりました。仕様を決める能力のない分野は仕様を決めずに、10年間の水漏れに対する保証など性能契約とし、仕様を定めないほうが良いです。
 発注者が責任を持ち、かつ自信をもって決められる構造安全性などはしっかり決めて契約すべきですが、安全とは直接かかわらない発注者の能力の足らない分野については、目的の性能を保証してもらう契約とするべきだと思います。民間建築の防水工なども、国内では10年の保証契約が標準です。
 海外での例として、インドで防水の契約がどう仕様されているか、インド新幹線の契約にかかわっている人に確認したら20年の性能保証となっているとのことです。

2.2 材料の保証と実構造物での保証は異なる塗装
 青森ベイブリッジは国鉄、JR東日本が設計、施工に関わった中央径間240mの3径間連続PC斜張橋の道路橋です。青森駅上空と、かつての青函連絡船の発着した港の上を渡っています。港の上に中央径間はかかっています。
 コンクリート橋ですが表面に塗装することが決められました。この塗装材料を選ぶにあったって、現地でコンクリート平板に、各社の材料でそれぞれ施工してもらい、数年間暴露して選ぶことにしました(写真-3)。


写真-3 塗装の暴露試験

 10社以上の会社から自信があると参加してもらいました。塗装直後は素晴らしく見える材料も、半年程度でクラックが生じ始めて塗膜が剥落してしまうものもありました。数種類のものは、健全で残りましたが、その中から表面の汚れの少ない材料を選びました。各社、自信をもって暴露試験に参加してくれたのですが、営業に来ている人は、自社の製品の耐久性を必ずしも確認して来ているのではないようです。数年暴露すればすぐ優劣がわかるので、カタログや、会社の試験室データーを信用するより、現地で確認することが大切です。
 採用した材料は最も耐久性があるといわれたフッ素系の塗料です。20年以上の耐久性を保証しますとの営業の言葉でしたが、契約に20年の保証を盛り込みたいというと、それは拒絶されました。材料は保証できるが、実際は施工者が間に入るので施工の保証はできないので、10年までならしますというようなやり取りがありました。
 既に20年以上経ていますが、比較的健全な状況です。ただし、クラックがコンクリートに生じていると、そのクラックを塗りつぶしても、何年かすると塗膜にひび割れが入り、汚れが付くようです。それを除けば状況はかなり良いと言えます。

2.3 試験室で耐久性があっても実環境では駄目な表面被覆や剥落防止工
 コンクリートの剥落防止のための表面被覆材について、試験室の耐久性の結果をもっていろいろな材料メーカーの方が営業に見えます。試験室の結果が良くても、実現場の環境でどうなるかの確認をすることが大切です。
 多くの場合は、新潟地区の実構造物に試験施工してもらっていました。自信をもって説明に来た製品の9割は、現場で1年後に欠陥が生じて、ダメでしたと報告に来ます。試験室と実現場は環境がかなり異なり、実環境を再現できる試験方法がまだ確立していないのだと思います。実現場の暴露で2年程度問題がないものは、10年程度は大丈夫かと思っています。多くは1年で欠陥が生じてきます。

 関西の新幹線高架橋のコンクリートはく落が問題になりました。海砂の除塩が不十分なことと、生コンへの加水で中性化が早いことがその原因です。コンクリート床板の下側のかぶりが剥落していました。この補修に当たって、試験施工が公募して行なわれました。1スラブずつ、応募してきた各社に施工してもらい、経過を見る方法です。10社程度が参加したかと記憶しています。まだ補修方法が確立していなかった時期で、どの社の施工も比較的早期に再劣化し、補修材がはがれてしまったと記憶しています。
 今はJR各社に分かれたので詳細はわかりませんが、鉄筋の奥までコンクリートをはつり、鉄筋周囲の塩分の含まれたモルタルを完全にのぞいて修復しているようですから、再劣化しない工法が確立されているのだと思います。
 補修は、補修に用いた材料が再劣化したり、コンクリートとの界面で剥離したりするという例が多いので、試験施工などで、実構造物で十分確認してから本格的な補修に入ることが必要です。材料の問題と、既存コンクリートの処置方法など施工の問題があり、実際に施工した結果で判断することが大切です。そうでないと、補修部の再劣化で、何度も補修を繰り返すこととなります。

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