道路構造物ジャーナルNET

シリーズ「コンクリート構造物の品質確保物語」㊴

「350委員会を通じた学んだひび割れ抑制・品質確保・耐久性確保」

横浜国立大学
大学院 都市イノベーション研究院
教授

細田 暁

公開日:2020.10.29

0. 今回の趣旨

 2020年8月25日に、土木学会の「コンクリート構造物の品質確保小委員会」(350委員会)の成果報告会とシンポジウムを開催しました。幹事長を務めた私は、土木学会の講堂から参加しましたが、オンラインでリアルタイムに視聴できる(開催後、一週間は動画を視聴できる)方式で開催し、249名の正式な参加登録を得て、無事に開催することができました。11件のシンポジウム論文発表と、委員会成果報告の後、パネルディスカッションも行い、350委員会の締めくくりにふさわしい内容であったと思います。350委員会の委員会報告書は、HP(https://committees.jsce.or.jp/concrete44/)からダウンロードできますので、ぜひご活用いただければ幸いです。パネルディスカッションもぜひ活字化して、近いうちに道路構造物ジャーナルNETで配信できればと思っております。
 田村隆弘先生が委員長を務めた350委員会は二期目の活動を終了しました。350委員会で実施してきた品質・耐久性確保の実践的な研究・活動は、今後も様々な形で紡がれていきます。2020年10月に二期目の活動を開始した356委員会という別の委員会(細田が委員長)でも引き継いでいきますが、その話は別の機会に紹介します。
 田村先生が委員長を務められた350委員会で、まさに自律分散的な雰囲気の中、私自身も多くのことを学ばせていただきました。今回の原稿では、350のシンポジウム論文集に私も単著で投稿した論文の内容を以下に紹介したいと思います。論文のタイトルは、「350委員会を通じた学んだひび割れ抑制・品質確保・耐久性確保」です。なお、シンポジウム論文は文章のみの2ページの渋い内容でしたが、それだけでは読者がひきつけられない、という編集者のリクエストにより、図や写真のみ追加しております。

1.はじめに

 350委員会は2期の活動を終えようとしている。コンクリート構造物のひび割れ抑制、品質確保、耐久性確保は永遠のテーマとも言え、350委員会が終わった後も、筆者は何らかの形で関わり続けることになるであろう。筆者が山口システムを自分の目で見て衝撃を受けたのは2009年3月3日のことであり、11年以上が経過している。その間、東日本大震災や新型コロナウイルスなど、社会を根底から揺るがす事件が次々と起こる状況にある。危機的な状況の中で、我が国家が生き残っていくために、また、可能性は高くはないと悲観せざるを得ないが我が国が豊かな国へと発展してくために必須と思われる、地域間で均衡のとれたインフラネットワークの構築と、インフラの長寿命化に少しでも役立つことを願い、350委員会の活動を通じて筆者が学んだ本質について述べてみたい。

2.ニーズ、本当にやらなくてはならないこと

 筆者は、大学の博士課程を修了後、JR東日本の構造技術センターで勤務した。石橋忠良所長の陣頭指揮のもと、設計、施工、維持管理、技術開発、規準作成等を一元的に行う組織で、品質・耐久性確保や維持管理から設計・施工へのフィードバックの一つのあり方を学ぶ貴重な機会であった。供用開始後に手のかかる構造物の大半は初期欠陥を抱えるものであり、設計と施工時に不具合を生じないようにすること(図1)と、維持管理において再劣化が生じないようにすることが本質であると学んだ。

 コンクリート構造物のひび割れは難しい問題である。そもそもひび割れを抑制する必要があるかどうか、有害なひび割れとは何か、を常に念頭に置いて議論する必要はあるが、山口県においてはひび割れが多発する状況や、ひび割れにより施工者が不利な状況に陥る、という困った状況があった。解決せねばならない。この状況を改善した二宮純博士らの山口システムのマネジメントには感嘆した(写真1)。それ以来、なるべく多くのことを山口システムから学ぼうと思ったし、システムの改善にも貢献しようと努力した。そして、山口以外の地域でも本当にやらなくてはならないことを実践するために多くの時間を費やしてきた。

 2012年以降は、東北の復興道路が主戦場となった。既設構造物の点検データを見ると、厳しい劣化状況が明らかであり、大量のコンクリート構造物が施工される復興道路において、品質・耐久性確保を達成することは、本当にやらなくてはならないことであったと思う。この状況において、佐藤和徳博士を始めとする東北地整のチャレンジに筆者も中核的に参画することができて幸運であった(写真2)。一歩一歩できることを重ねてきたが、復興道路の整備が一段落する2020年度の後、この取組みが改善を重ねながら発展・浸透していくのか、真価が問われるのはこれからである。
 誤解を恐れずに言えば、現代の世の中には嘘がまかり通っており、目的も怪しくお茶を濁すだけの「改革」や、往々にして目的が間違っているので「改悪」が横行している。
 本当にやらなくてはならないこと、を明確にして、産官学での協働で解決していきたいものである。

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