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第58回 モニタリング技術考

民間と行政、双方の間から見えるもの

富山市
政策参与

植野 芳彦

公開日:2020.10.16

1.はじめに

 涼しくなりました。今年度も半年が過ぎてしまった。コロナ禍の中で、だいぶ予定が狂った方々が多いだろう。事業自体も滞っているのではないだろうか? 私自身、全然予定が狂ってしまった。たぶん皆さんもそうだと思う。
 最近、比較的よく読まれている土木系雑誌に掲載された事項で、問い合わせ、ご意見が多いので、雑誌では表現できていない部分を解説しようと思う。雑誌記者の方は、世の中の話題として取り上げ、多くの方の参考にしようと取り組まれたと感謝申し上げるが、真実はなかなか伝わらない。これは、話題提供者と読者側のとらえ方の問題であり、読者の置かれている立場に影響する。何事もそうなのだが、うわべだけで判断し過剰反応する方々が多い。純粋な感性をお持ちなのだろうが、知らないのに知ったかぶりをすると、失敗につながるというのが私の経験からのアドバイスである。これを避けるには、自分で知見を積むしかない。

2.モニタリング技術考

 まずは「モニタリング」についてである。老朽化対策において、評価がⅢとなった場合、本来、即補修を行うべきなのだが、諸般の事情において「監視する」ということで対応もできるようになった。この一つの方法が新技術と重ねて「モニタリング技術」である。この話題性が高まっているから取り上げられたのであろうが、自治体において老朽化対策のなかで、これを採用していくには、いくつものハードルがある。実際に、モニタリングの設置がなかなか進まない。最大の原因は、これもお金の問題である。しかし、実際に、補修工事をするよりも安価になる可能性はある。
 これから私の考えを述べる。あくまで私の考えなので、違ったやり方をしても一向にかまわない。

①モニタリングとは何か?
「モニタリング」とは、高度なモニタリングシステムだけを言うのではない。もっとも単純なのは、毎日(時間軸は任意)観察するのもモニタリングだ。「観察」することである。一番単純なのは、人間の目で見ていくこと。これに代わるものが、監視カメラなどですでに多数導入されている。最近では「AIカメラ」と言うようなものまで出てきている。そして、今回期待されているのが、センサー技術や通信技術を活用した「モニタリングシステム」。単純なものから高度なものまで、数限りなく存在する。大きくコストも絡んでくる。


NTTドコモの4k・8kカメラを使った画像計測の実証実験。これもモニタリング

②重要なのは目的
「モニタリングシステムを設置する」というと、それだけですごいことをしたような気になって、それですべてが解決したように思う方々が多い。ここで重要なのは、「何のために設置するのか?」「監視するものは何か?」である。さまざまな計測をして研究をしたいというのならまた話は別である。あくまで、実務的なことを言っている。どうもこれがぐちゃぐちゃになっている方が多い。
 大学の先生から「研究・開発のためにこれを設置してくれ」と頼まれて設置するのは、大いに結構だと思う。そういうところがないと進まない。SIPなどはこれに近い。研究開発に協力する役割も本来は役所が持っているはずなのである。しかし、今回は実務的な話であるので、管理者の目的意識が重要であり、これが後にコストとその後の対策決定に影響してくるので、目的意識が一番重要である。


簡易なモニタリングシステム。目的を明確に、簡易に!

③設置にあたり
 一番重要なのが、「どういうものを設置すれば目的が達せられるか?」である。簡易な装置でも十分な場合がある一方、そうではない場合もある。また、設置場所の置かれている状況である。町の中で、比較的職員が行きやすい場所なのか、山の中で庁舎から時間がかかるのかで、耐久性やメンテナンスの課題も加わる。当然だが電力を必要とするものは、電源の確保も問題である。最近は、ソーラーパネルを推奨してくるところが多いが、富山のような雨が多く冬に雪が降るところでは、冬場の発電効率が落ちる。さらに、人間がモニタリングするものにするのか? 通信の設備を持ったシステムにするのか?

④システムの選定
「目的は?」がはっきりさせることができれば、どういうシステムにするのかは決められる。さらに、自分たちが、理解できるデータを取らなければ意味がない。
 一番多い提案は「歪み」を取るというものだ。しかし、歪みを取って、まずそれが何を取っているのか? それがどういうものなのか? それから何が読み取れるのか? ということが、自分たちで分かっているかどうか? が大きな問題である。なんだかわからないものを収集しても、何の意味もない。世の中の多くがこれに陥ってしまっている。設置しただけの満足感で終わってしまうのだ。今回の記事は、そういう危険性を秘めていることを読み解かなければ真の技術者とは言えない。雑誌側だってそこまでの解説は無理である。なぜか? 自分で経験していないからである。うわべの取材で分かるはずはない。これは記者を責めるのではない、読み手側の責任なのだ。構造や力学、材料、施工、運用の知識をきちんと駆使したうえで、センサーやシステムの専門家と向き合わないと、「付けたはよいが、使い物にならない」ということになる。
 また、国やNEXCOや県と、市区町村では設置するものそのものが違ってくるはずであり、無理して付けなくてもよい。

⑤コスト
 やたら高度なシステムをつけると、膨大な費用が掛かる。私の経験では、何千万円のものまで実際に設置された事例がある。何千万円ならば、小さい橋は1橋、新たにできてしまう。こんなことはないだろうが、モニタリングシステムを付けたが結局、架替えとなり、補修の費用とモニタリングの費用がほぼ同じだったということでは意味がない。きちんと目的を定め、どのような測定項目をどのようなサイクルで計測し、その後どう活用するのか? を見極め、適正に設置しなければならない。これを判断できる人間が決めなければならないのだが、実際には、業者に勧められるままつけてしまう。
 予算というものもあるので、それが適正なのかどうか? は重要な判断材料である。

⑥決断
 どういうものを、いかに、いくらで付けるか? これは決断である。物事、決断がなければ何もできない。さまざまな事情もあるので、一番適切なものを一番適切な方法で付けるのがベターである。たぶん、これらは数をこなしてみなければわからない感覚である。さまざまな失敗を繰り返し、できるようになる。一度や二度やったからといって、わかったつもりになっていると、そのうち失敗する。
 さらに、業者の言うなりではなく、要求がきちんとできて、コストも含めて、何が適切なのか判断する技術力を持つことが重要なのだ。あるところで、コンサルから300万円の見積りをもらい、それでやろうとしていた。直線変位計のみで、山奥なので通信が問題かと感じてはいたが、直線変位計のみで数十万円、通信費でその倍としても100万円ちょっとだろうと感じたので、担当者は付ける気でいたのを待たせ、計測会社に同様の見積りをしたら、何と70万円だった。いつもこうなるとは限らないが、感覚も身につけなければならない。いつも言うが、税金を使っているのだ。コンサルに依頼してよいものとそうでないものがある。楽だからといって何でもかんでもコンサルに依頼していたら、だめになってしまう。

3.設計ミス考

 設計ミスの問題は、他人がやれば面白いだろう。しかし当事者は大変である。世の中には、現象だけで判断していく人間が多い。さまざまな事象に対しては、さまざまな事情や裏側もあることが最近は分かっていない人が多い。
 今回の「大島橋問題」は設計ミスということで取り上げられたが、単純なものではなく、この裏側には、地方のコンサルの現実や、これまでのコンサルタントの仕事のやり方の問題、発注者側の検査体制や、監理体制の問題が大きい。しかし、記事だけ読むと、単なる設計ミスであり、対岸の火事である。
 世の中で国土強靭化、レジリエンスということが言われ、災害対応や老朽化対策、耐震対策が叫ばれる中、反省しなければ飛び火は免れない。富山市においても今の状態を見ていると、必ずまた起きる。起こす! と注意しておく!(富山市だけではなく潜在的にはかなり多いと感じる)

上部工架設前の大島大橋(井手迫瑞樹撮影)

①簡単に設計ミスとは言うが
 大島橋の問題は、単純に言うと「実施すべき動的解析をしていなかった」「虚偽の報告がなされた」となるのだが、そんな単純ではない。しかし、設計ミスをやられると、発注者は非常に困る。工事の進捗具合にもよるが、大島橋で動的解析がされていないというのが明確になったのは、上部工業者からの質問による。下部工は完成していた。こうなると、ミスがあったので簡単に直しましょうとはいかない。発注者側としては費用と工期の面で被害を最小限にとどめなければならない。その結果が今回の結果である。
 作業を開始したが、当然迷惑をかける施工業者にも謝罪し協力を願った。これらを皆さん、簡単に考えているかもしれないが、とんでもないことである。おそらく、他の者が対処すればもっと時間がかかっただろう。そして、工期の遅れコスト増になり、1億7,500万円の賠償金ではすまなくなっただろう。
 今回も「植野がいながら! なんでミスを犯す?」ということも言われたが、実は私の赴任前の設計で、赴任後、心配であったので、何度も確認していたが「大丈夫だ」ということで、中身を見せてもらえていなかった。私自身も軽微なミスを想定していたので、動的解析がないということまでは考えなかった。動的解析はルールであり、非常に難しいので、正しくないかもしれないが、まあやってあれば問題ないだろうとも思っていたが……。

②何が悪かったのか?
 書かれていたように最大の原因は、能力の足りないコンサルに発注したことだろう。しかし、相手が能力の足りないことを理解できていなかった発注者側も悪い。これはひとえに「地元優先」という悪しき風習によるもの。能力のあるなしは、地元業者であるなしで決まるわけではない。しかし、この大島橋、単なる3径間連続プレビーム合成桁橋で、さほど難しいわけではない。
 私はそもそも、ここにこの形式の橋梁を架ける計画をしたというところからおかしいと考えている。予備設計も同コンサルであった。安易に予備設計を行い、詳細設計に行き、ルールを守らなかっただけである。その結果が、大規模な修正を必要としてしまった。結局、官も民も能力がなかった、ということである。計算ミスは仕方がない、計算ミスならばさほど重大な状況にはならない。しかし、ルールを守らないのは犯罪に等しい。ルールを守れないのは意図的か? 全くの無知であるかのどちらかである。

③さまざまな意見
 何人かの方から意見をいただいた。その中で、「チェックコンサル」について言ってきた方がいた。元先輩で非常に著名な方で、海外の留学経験と海外の著名なコンサルでの勤務経験がある。私も尊敬している方だが、「欧米にはチェックコンサルの制度がある」と言うのである。これは私も、そろそろ日本にもこういった仕組みが必要だと思っていたが、実現は遠いだろうと思っている。官の判断能力が低下(?)する中、第三者のチェックというものも重要である。
 かつて個人的に依頼されて、何度かチェックコンサルをやったことがある。1度目は、某県の特殊な橋梁であった。地元では著名な「先生」と言われる方の設計だとされていた。県庁で対面し、確認しろということになり、出向いたが、事前に県の担当者から「先生はご高齢で心臓が悪いのであまり過激な発言はしないように」と注意された。これでは意味がない。技術者同士、腹を割って対決しなければ意味がない。
 このほか数件、依頼されてやったことがあるが、どうしても「チェックコンサル」というと「間違い探し」になってしまうことに気づき、どうでもよいことは流すようにすると、発注者からは、「きちんと見ていないのではないか?」と疑われる難しい仕事である。我が国では、上部工業者が施工前にチェックすることも義務化されているが、なかなか大規模ミスは、どう処理していいか悩むところでもある。金額も発生する。

④今後どうするか?
 おそらく富山市においては、同様なことが繰り返される。これは私の予言である。じつは、大島橋を設計した企業は必ず問題を起こすというのは予言していた。予言というと大げさだが、それまでの協議時の言動や態度、過去の成果品などを見てそう感じていた。大体、「協議時に」能力は分かるものである。しかし、意外と職員の評価は高かった。そこで、「こういう状況であれば、いつか必ず大事故が起こる」と言ってはいたが、聞き入れてはもらえなかった。「地元優先、地元育成」という理想論に流されてしまったのだ。
 今回の件が起きても、最初のうちは驚いたようだが、大変だったのは現在の担当者で、当初の担当者は反省しただろうが、立場上どうすることもできない状況であった(役所はこまめに動かす)。その他の人間は、他人事である。業者側はどうかというと形式的には反省しただろうが、対応策がとられていない。とれないのだろう。結局、数年後にまた起きるに違いない。

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