道路構造物ジャーナルNET

⑭ たわみで問題となった桁

次世代の技術者へ

土木学会コンクリート委員会顧問
(JR東日本コンサルタンツ株式会社)

石橋 忠良

公開日:2020.10.01

4.橋脚と桁を剛結する構造形式から、中央だけ剛結であとは支承構造へ

 三内丸山架道橋はエクストラドーズド橋で、もともとは、すべて桁と橋脚が剛結されたラーメン構造で計画されていました。長野新幹線でPC斜張橋の千曲川橋梁が試運転時に高速走行できなかったことや、その後も桁の変形が大きく、軌道整備が大変なこともあり、三内丸山架道橋をエクストラドーズド形式にしたときに、鉄道運輸機構内に委員会がつくられ、私が委員長をお願いされました。メンテナンスをするのはJR東日本なので、その関係で私が選ばれたのだと思っています。
 ほぼ詳細設計は終わっていましたが、このすべて剛結の構造では高速走行は難しい構造ではないかと思われました。緊張力や、クリープや乾燥収縮で、桁が短縮すると端部の橋脚が傾斜します。この傾斜を考えて桁のたわみを計算してもらいました。その結果は、桁にも変形が生じ高速走行が難しいという結果でした。また、斜材の温度変化を小さくする対策も考えてもらいました。その結果、せっかく設計はほぼ終えていた構造ですが、中央橋脚のみ桁と剛結させ、あとはシューを設けて、桁の伸縮は水平変位のみに影響する構造としてもらいました(写真-5)。
 斜材も温度変化を少なくするように径を大きくし、グラウトの占める割合を多くして、斜材の色も熱を吸収しにくい色となりました。設計は、斜張橋と同じ斜材の安全率とし、一般のエクストラドーズド橋の斜材の安全率より大きくしてもらっています。原設計のままでメンテナンスをする側の組織の私がそのままの構造を認めたら、あとでメンテナンスに苦労して、社内で責められたと思われます。この構造を変えたことで、運輸機構は田中賞をいただいたので、設計は大幅に手戻りとなりましたが、結果的には良かったのではないかと思っています。


写真-5 ラーメン構造から桁構造に変えた三内丸山架道橋(4径間450m)

5.開業後、PC桁の反りが大きく、軌道をやり直した例

 新幹線の開業日が発表されると、それに間に合わせるべく工事が急がされます。用地買収などに時間のかかった箇所では、急速施工で、プレキャストのPC桁が施工されることが多くあります。桁の施工後すぐに軌道工事が行われます。
 フルプレストレスのPC桁はクリープ変形が1年程度は続きます。開業時点で軌道はレベルに据え付けていたものが、徐々に桁のクリープによりスパン中央が上がってきます。営業運転の列車の動揺が大きくなり、軌道の修正が必要となります。少ない修正ですと、軌道の締結装置の調整範囲で行われます。この締結装置の調整範囲を超えると、特殊な締結装置を別途製作して対応し、それでもできなくなると、軌道スラブを据え付け直しということになります。多くは締結装置を変えたりしての対応となりますが、桁のクリープが落ち着くまではしばしば調整作業が必要となります。
 この問題の対応として、今ではほとんどのPC桁にはPRC構造が採用されています。死荷重時に上縁と下縁のコンクリート応力度を同じ程度にすることで、桁の短縮は起こりますが、上下の変形は起こらなくなり、開業直後の軌道の保守が大幅に低減できます。

6.PC桁の施工が終わった時点で、予算などの都合で工事が一時的に止まり、軌道工事が予定より数年遅れた。そのため、クリープ変形が進み、当初予定の軌道レベルを修正せざるを得なくなった例

 PC桁のクリープ変形の計算は、桁の自重や、桁の上に載荷される軌道の荷重などを考慮して、その載荷時の材令も考慮して計算されます。
 私が仙台の新幹線建設現場にいた時のことです。オイルショックの影響で、桁のみ造って工事が中断しました。桁の上に載荷される軌道などの荷重がない状態が数年続きました。桁の上側への反りが、荷重が少ないので設計より大幅にクリープで大きくなってしまいました。工事が再開された時、再度、桁の上面の高さを測量しなおしました。当初計画の軌道レベルでは施工できないことがわかり、その前後を含めて再度軌道の計画高さを変更することとなりました。

7.桁の動的たわみが大きく、列車走行にも影響した例

 新幹線は同じ車両を連結しています。そのため、車輪の間隔は規則正しく、桁にも規則正しく載荷が繰り返されます。桁の固有周期と、車両の車軸間隔とスピードとの関係で桁に共振現象が生じることがあります。
 共振現象が生じると、桁は静的たわみの数倍のたわみとなります。車両も動揺が大きくなりますが、桁にも大きな応力が生じることで、想定外のひび割れなどが生じます。東海道新幹線では開業後スパン10m程度の桁高の小さいスラブ桁にこの現象が生じ、桁に多数のひび割れが入り、桁を補強しています(図-3/写真-6)。


図-3 補強したスラブ桁

写真-6 補強したスラブ桁

 この共振現象を避けるべく、東北新幹線以降は、桁と車両の走行のシミュレーションを行い、計画の最高速度までは共振しないように、設計時点で桁剛性を大きくして計画されてきました。コストダウンを優先して、ある線区ではこの配慮をしないで設計がされたようです。開業後、スパン30m程度のPRC桁が共振現象を生じ、列車は徐行処置が必要となりました。徐行解除のため、桁が共振しないように、桁の補強などが行われています。
 この現象は、PRC桁のひび割れや、列車の動揺以外にも問題を生じさせていました。この桁に設置されていた電柱の振動が大きく、架線を支持する部材を取り付けている鋼製のバンドがすぐに切れてしまうのです。
 その部分のメンテナンスは電気の関係者が行っているのです。原因が分からずにすぐ切れて困っており、私の同期の電気の技術者がその現象を話に来ました。場所を聞いたら、共振している桁と推定されました。原因は電気ではなく構造物の振動なのですが、電気の技術者は構造物の振動と気づかず、それまで何度も補修を繰り返していました。
 この現象は、列車の速度を上げると共振数も変わるので、今まで問題のない桁も速度向上によっては補強などの対応が必要になります(図-4)。将来の速度向上を考慮した桁剛性とするか、あとから高欄などを追加して桁剛性の向上が可能なように配慮して、張り出しスラブなど余裕をもって設計しておくことが必要です。


図-4 同一の桁の列車の走行速度の違いによるたわみ1)

8.上下の変位の少ない構造形式について

8.1 温度での伸縮
 桁の上下の変位が問題となる高速走行列車の走る構造物は、日射などで部材の温度変化による伸縮が桁方向の伸び縮みとなる構造を選定することが必要です。やむを得ず上下に変動する構造を選定せざるを得なかった時は、事前に高速走行に支障しない範囲に上下の変位が収まることを検討の上、採用することが必要です。
 アーチ構造も上下に動きます。スパンが大きいコンクリートアーチの場合は、高速走行に影響しない程度で済んでいるようです。鋼アーチですと、その温度変化による伸び縮みは高速走行に支障してしまうようです。断熱材などで覆うなどの処置が必要となります。

8.2 部材の収縮が桁のたわみに影響しない構造
 長スパンの構造をラーメン形式にすると、桁のクリープなどで桁が短縮すると、橋脚が傾斜します。その傾斜で桁が曲げられて、その桁の変形が高速走行に支障することとなります。長スパンでは桁剛性が橋脚剛性に対してそれほど大きくないので、橋脚の変形で桁に変形が生じてしまうのです。一般の高架橋のRCラーメン構造は、スパンが短く、柱の剛性よりも梁剛性のほうが圧倒的に大きいので、柱の変形が梁を変形させないため、あまり問題は生じてこなかったのです。
 PC長大橋の構造形式でも、道路では中央ヒンジ構造が一般に採用されていました。鉄道では走行性の面から当初から中央ヒンジ構造は使われずに剛結して連続桁とされてきています。そのおかげで、中央ヒンジのトラブルの経験はしないで済んでいます。

 世界で新幹線の高速化が進められています。世界的には350km/hの速度が今では常識となってきています。そのうちに400km/hにいくのでは、と思っています。国内でできていない最大の理由は騒音対策ができないからです。既設の新幹線の高速化を計画する時には、桁の共振対策も検討されます。速度向上で共振すると想定される桁は剛性を上げるなどの対策が行われることになります。将来の速度向上に容易に対応できるように、建設時に配慮しておくことが望まれます。

【参考文献】
1)藤江、井口他;新幹線走行に伴うPRC単純桁の振動について、SED.No.33 2010-1 JR東日本
(2020年10月1日掲載。次回は11月1日に掲載予定です)

石橋忠良氏【次世代の技術者へ】シリーズ
①私の概歴
②鉄道建設の歴史
③アルカリ骨材反応
④アルカリ骨材反応(2)
⑤アルカリ骨材反応(3)
⑥コンクリートの剥落
⑦新設構造物のコンクリートの剥落対策
⑧塩害(海砂、飛来塩分)
⑨道路 PCグラウト
⑩支承部の損傷
⑪基礎の移動、沈下、地下水の変化による構造物への影響
⑫構造物の欠陥との付き合い
⑬RC桁の曲げひび割れと乾燥収縮

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