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-分かっていますか?何が問題なのか- 第51回 新たな構造、形式にチャレンジするには ‐過去に学び、現代に活かすポイント‐

これでよいのか専門技術者

(一般財団法人)首都高速道路技術センター
上席研究員

髙木 千太郎

公開日:2019.09.01

人材育成のポイント ベテランに対する戒め

 もう一つ、広中先生の名言で私が自らを戒める言葉にベテランを対象にした名言“人材育成のポイント”がある、それは「知識とか経験の蓄積というのは怖いものです。発想の壁を作ってしまい、自由な考え方ができなくなってしまう。自分でも気づかないうちにだんだん周りが見えなくなっていき、若い芽を摘んでしまう。ベテランが絶対にやってはいけないことです」(図‐3参照)であるが、読者の皆さん、特に既に周囲から認められている存在価値のある方、胸に手をあてて考えてみてください。この言葉が自分に当てはまると思われた方は、直ぐに自らの姿勢を改めるべきです、今からでも遅くはありませんよ。周囲の人の貴方への態度が大きく変わりますよ、絶対に。

 そう言う私はどうだったのであろう、思い返してみた。私が東京都の中長期計画を自らが発案して、策定していた当時の自分の考え方や行動を考えると、自分自身がこの言葉と真逆のような状態であったと思う。広中先生のベテランに対する戒めの言葉について、趣旨は理解できるが広中先生が話されているベテランとしての理想の行動は不可能であった。当然この時期私は、この名言を何度も読み、広中先生の真意は何かと思い、実践するには何が必要かと思い巡らしもした。しかし、当時の私を取り巻く環境は大きく異なっており、狭隘な考えが私の頭の中を占め、利己的な業務執行が最優先となっていた。

 今、振り返って当時を考えると、私は周囲を見渡す心理状態とは程遠く、追い詰められた状態で日々業務を行っていたような気がする。望ましい理想的な行動をなすには、技術者としてより多くの知識を修得し、自分自身に自信を持ち、人として余裕が必要であるとの事と理解している。それではここに示した理想のベテラン像を実践できる技術者、該当するような人はどのような人かと考えてみた。自分に自信があり、周囲を見渡す余裕のある人、誰もが相応しいと納得する途轍もない偉人は誰か?  土木関係ではないが、米国の発明家であり、起業家でもある『トーマス・アルバ・エジソン』が正に適当であると確信している。ここで、皆が知っている電球等を発明した有名な『トーマス・アルバ・エジソン』の自信と卓越した技術力を裏付ける逸話も面白いので紹介しよう。これから紹介する彼の発言を読めば、なぜ私が彼こそ相応しいと判断した理由が分る。

 ある時記者の実験成果に関する質問に対し、「今話された5000回の実験の内、成功したのは5回であると言うのは、違っている。実験としては5000回成功しているが、その内5回が認められただけである。残りの4995回は、これではダメだと言うのを明確にした成功例である」と答えたのだ。記者会見で、記者から質問を受けた際、その場でこのような返答が出来るのは、自らの知識、経験が並外れて優れ、周囲を見渡す余裕が無ければこのような言葉を発する事は不可能である。この話は、「I have not failed. I’ve just found 10,000 ways that won’t work.(私は失敗したことがない。ただ、1万通りの、うまく行かない方法を見つけただけだ。)」「Genius is 1 percent inspiration and 99 percent perspiration.(天才とは、1%のひらめきと99%の努力である。)」と続く。
 偉人『トーマス・アルバ・エジソン』を題材に並みの私がこのような発言をすること自体申し訳ないが、私にもこれだけの自信と並みの人以上の能力を持ちあわせていれば、今とは違った人生を送っていたのかもしれない。私にとって、『トーマス・アルバ・エジソン』が本当に羨ましい、彼は土木技術者とは一味違った理想の学者、優れた技術者、エンジーニアス(En+genius)像である。

 私自身がどれほど広中先生の言葉を自分のものにし、実践出来ているかは別として、自らの考えをこの章の終わりに述べるとしよう。私自身は、行政技術者の立場であったことからアイディア・独創からは程遠い世界とお思いの方が多いと思うが、これは大いに違う。決められたことを誠実にこなすのは当然ではあるが、行政においても、将来に向けて何を為すべきか、それに必要なアイディア創りには、他にない独創が必要となる。どちらかと言えば、行政組織の考えは、保守的、前例踏襲主義が主であり、新たな考え方にはもぐら叩き状態が普通であると思われるかもしれない。しかし、これは現代社会には通用しないし、これでは全く成長は望めない。どのような場面にも、斬新なアイディアが必要であるし、そのようなアイディアが無ければいずれ行き詰まる。お分かりと思うが、当然、行政部門だけではなく、民間の技術者には大いにこれは当てはまる。今読まれている貴方、自らの胸に手をして是非考えてもらいたい。私が示した豊かな想像力を養い、斬新なアイディアを創れるフレッシュな頭を持つ技術者になろう。

 話しは本文には全く関係がなく寄り道にそれるが、人と違った事を行う、努力と成果について、私の知っている稀有な事例を話すとしよう。コロンビア大学は、先に話した私が師とも仰ぐ『篠塚正宣』先生もコロンビア大学の教授であったこと以外に、私の先輩にあたる方のお嬢さんがフリーで受験され見事合格された事から、個人的にとても親近感が湧く大学である。私が感嘆した、東京都時代の先輩の、素晴らしいお嬢さんのコロンビア大学に関係する話しをしよう。彼女は、日本の著名な大学を出て、大手ビール企業に勤務したキャリアウーマンであったが、自らの目指す目的とは違うと意を決せられ、退職、猛勉強後、アメリカの名門・コロンビア大学に入った方である。私も、ニューヨークで何度かお会いしたが、目の大きな美人で聡明、話す内容に全く嫌味の無い、魅力多き女学生であった。卒業後は、北欧の会社に入社し、能力を最大限発揮していると聞いているが、私自身詳細には分からない。コロンビア大学で学ぶ道を選択した彼女は、日本の大学からの推薦入学とは大きく違った茨の道である狭き門を選択し、ぬるま湯のような日本の大学とは違った真の学習を続け、だれの助けも受けずに卒業した。素晴らしい能力を持った、誇るべきキャリアウーマンと言える。
 コロンビア大学在学中に、ここで話した聡明な女学生と何度か食事をしたが、自分に厳しく他人に優しく、そして、知識を学ぶ事に貪欲な姿は、私自身、ナイフとフォークが止まり、彼女の話に聞き惚れたほどである。であるから、頭文字Hi.の彼女の並外れた向学心と強い意志、挫けずに難関突破を突破した姿は、現在の学生、院生、若手技術者皆が学ぶべき理想像であると私は言いたい。

 コロンビア大学にも触れよう。ニューヨークのダウンタウンにある大学であることから、キャンパスは、ハーバード大学やニュージャージー州のプリンストン大学(大学の直ぐ横に自前? の広大なゴルフコースがある)などの日本で著名な大学とは違って広くは無いが、独特の雰囲気を持つ大学、そして風を感じるキャンパスである。ニューヨークには数多くの大学があるが、地元の人々、特に昔からニューヨークで生まれ育った人々にとって、コロンビア大学は、ニューヨークの誇りなのであろう。

 今年の夏、私が訪れた際にも、多くの人々からコロンビア大学の学生が如何に優れているかの自慢話を数多く聞き、ニューヨーク市民にしっかりと根付いたコロンビア大学の偉大さを痛感した。今夏個人的に行ったニューヨークの話、特にイーストリバーとハドソンリバーに架かる橋梁についての興味深い話題提供は、次回以降に紹介するとしよう。それでは、ここらで本題に戻すとする。ここから次の話し、今回のメインテーマとなる、『新たな構造、形式にチャレンジするには』を始めよう。

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