道路構造物ジャーナルNET

㉖良い相手を選ぶ眼力 良い技術を見抜くフィールド

民間と行政、双方の間から見えるもの

富山市
建設技術統括監

植野 芳彦

公開日:2018.01.09

1. はじめに

私事だが、年末に義父が亡くなった。90歳だった。自宅(栃木)と富山の行ったりきたりで疲れてしまった。一昨年末に、入院していたが病院の先生から「来年の正月は、最後になるかもしれないので、自宅につれて帰ったら」と言われ、そうしたが、入退院を繰り返しながらも、最後まで自分で動けたのは、老朽化という観点で見れば、耐力を残しつつ全うしたことであり幸せであったと思う。やはり、これが老朽化対策の基本なのではないだろうか?
 実の父親は、私が28歳の時に58歳の現役で亡くなった。元々は農林省の役人で、なくなった時点では栃木県庁職員であった。義父も、元々は農林省であった。しかし、この二人は、まったくタイプの違う役人だった。実父はガチガチの融通の効かない役人。義父はハチャメチャな異例の役人であった。しかし、この二人が、いみじくも同じことを言っていた。「役人はなぁ。業者に仕事を発注した時に、相手を一瞬で見抜け。信頼できるかそうでないか? だけでよい。それができないと自分自身が大きなリスクを背負うことになる」だった。その時は、「へえ! そういうものか?」くらいに感じていたが、実際そういう場面に自分自身でも何度か遭遇した。
 私は、これまでに何度か、業務の途中で業者に逃げられた経験が有る。いずれも準大手のコンサルである。だから、コンサル嫌いなのである。現在、皆に伝えているのは、「医者と弁護士とコンサルは良い相手を選べ」である。委員会業務で、委員の方々の要求がかなりあり、途中で「もう勘弁してくれ」というのもあったし、某社は、わざわざ役員が出てきて、「お前の指示が悪いから業務がまとまらない」と言われた。確かにそうなのかもしれないが、私から言えば「指示通りやってないのはそっちだろう」という事だった。 「委員会の1日前には資料を持ってくるように」と指示しても、委員会の15分前にはじめてその日の資料を見て、説明しなければならない。指示した検討事項はやっていない。これらの業者は、現在でも業務を順調(?)に行っている。だから発注者は、リスクを覚悟する必要が有る。

2.検証

 前回、検証の重要性について述べた。時間的な問題や意識の低さから、検証は行われないことが多い。これは実は仕事を投げ出しているのと同じなのだ。私は、工期がすでに終わっていても、検証を行い、何か見つかれば是正報告すればよいと思っている。現在の業務の悪いところは、工期に縛られすぎているところだ。ミスも発覚前に直せればミスではないと考えている。
 そして維持管理においては、ことのほか重要だ。本当のところ、点検してもなかなか判断できない部分が多いのが実情だと思う。ASRなどはその良い例である。前回の記述で、「詳細調査も必要だ」と言うようなことも書いたが、詳細調査もやたらやればよいというものではない。目的意識としかり判断できる能力が必要である。促進試験もしかり。
 構造物の点検診断はよく医療にたとえられる。歯科医の虫歯治療などにも比喩されるが、大事なのは「見極める力」だと思う。義父の件で病院関連で過去にこのような経験をした。
(1)胆石で入院
 ちょうど何年か前の今頃、忘年会続きで体調が悪かった。飲んでいる最中にトイレに行くと、おしっこの色が濃かったがあまり気にしないで帰って寝た。良く早朝、おなかが痛くて苦しかったが、まだ暗かったので明るくなるまで我慢しようと思っていたが、あまりの苦しさに、女房を起こした。熱を測ると熱もあり、救急車で大学病院へ。行くとさまざまな検査をされ、入院となったが、翌日から、「結石の位地が分からない」と言うことで、レントゲン⇒超音波⇒CT⇒MRIとやった。もちろん血液検査などは別にやった。医師いわく、「いろいろやったが、位置が特定できない。血液検査の数値からは胆石の疑いがある。内視鏡で、すい管から胆嚢を見る検査をしたい。しかし、リスクがある」とのことだった、二度とあの傷みは経験したくないのでやることにしたが、教授回診で「そんなリスクを犯す必要はない」ということになり中止になった。それで、1週間の絶食だけして退院となった。その後再発は無い。
(2)交通事故
 夜中に女房に迎えに来てもらった。女房が運転をし、県道を走行中、わき道から一時停車無しで乗用車が飛び出してきて衝突。車は大破した。女房のほうはエアバックが作動、私のほうは車が古かったので付いていなかった。交通事故である。私は着ていたスーツにしっかりシートベルトの跡が残った。救急車に大学病院に運んでもらい、診断をしてもらった時。担当医がレントゲン写真を見て、私も女房も「胸部打撲」だと言う。信じたいのは山々だが一応、レントゲン写真を熟視した。すると、私のほうは確かに異常が見受けられない。「うん、打撲でいいだろう。」しかし女房のレントゲン写真を見て「うん?」とおもった、肋骨に筋が入っている。「先生、このスジは骨折線ではないですか?」というと「えっ!?」となり、「すみません。ご主人はもしかしてドクターですか?」と言われた。「いやいや、慣れてるだけです」とは言ったが、「何だこいつは」と思った。判断が間違っていたのである。で、女房は入院した。
 ということで、何が言いたいか?判断できる人間が見なければどんなことをしても何も見つからない。やたら詳細調査をするのも問題があると言う身をもった体験である。よく、「劣化原因の特定をしなければならない」という事も言われる。研究テーマや、国など比較的余裕のあるところは良いが、自治体では原因特定よりも補修の必要が有るかなしかのほうが重要である。原因を特定をしても、衣料と違い補修方法が伴わない。ただ、塩害とASRくらいの判別は必要である。
 私がなぜ、ここに書いた大学病院にこだわるのか? であるが、実はこの大学病院(J医科大学)であるが、教授に知り合いが居るからである。母も女房も妹も子供も、お世話になってきた。やはり、信頼性が最重要なのだ。たとえ、若手の担当医が間違っていても、是正することが可能だからである。よく、構造物の診断を医療にたとえるが、最後には信頼できるかどうか? である。

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