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阿賀川を渡河する国内第8位のRCアーチ橋

福島県下郷大橋 アーチ部の架設が進む

公開日:2021.03.11

橋長342.5m アーチスパンは200m
 両AAから50mは斜吊張出し架設工法を採用

 福島県は、地域高規格道路「会津縦貫南道路」に属する国道118号小沼崎バイパス(BP)の阿賀川を渡河する区間に、下郷大橋(仮称)の建設を進めている。同橋は、橋長342.5m、有効幅員9.5mのRC上路式固定アーチ橋。アーチスパンは200mと国内のRCアーチ橋で8位の長さを誇る。アーチを施工するアーチアバット付近は両側とも急峻な崖で、施工に際しては、非常な困難を伴う現場と言える。アーチ部は移動作業車を用いて施工されており、両アーチアバットから約50mの部分は斜吊り張出し架設工法を採用し、残りの中央部分はメラン工法を採用している。1径間内で2種類の架設工法を採用しアーチの架設が進められている同現場を取材した。なお鋼メランの架設については、斜吊り張り出し施工で構築したアーチリブ上にピロンを設置して斜吊り架設するピロン工法が採用されている。(井手迫瑞樹)

下郷大橋 橋梁一般図

 会津縦貫南道路は、会津地方を南北に結ぶ地域高規格道路で、会津若松市~南会津町に至る約50kmの区間である。国道118号小沼崎BPはその一部を為す南会津郡下郷町大字小沼崎地内~同町大字高陦(たかしま)地内間延長1.53kmの工区である。現在の国道118号は線形が悪く、橋梁部では大型車同士のすれ違いが困難であり、斜面の一部には落石危険個所もある。安全確保と利便性向上ということでバイパス事業が進められているものだ。

 下郷大橋の橋長、アーチスパンは前述の通り。
 RCアーチスパン200mに対し、アーチライズは36.5mとなっている。縦横断勾配は0.3~0.4%とほぼレベルと言って差支えがない。補剛桁はPC連続2主版桁であり、アーチ部が29mスパン(鉛直材間隔)、エンドポストより外側は39mスパン前後となっている。
 現在は川田建設・安部日鋼工業・三立土建JVが上部工のアーチを架設している。同JVは下部工A2橋台と上部工を受注したもの。

厳しい施工条件 ワイヤーブリッジはサグがH.W.L下回るため断念
 スプリンギングの真下には支保工を置くべき十分なヤードがない

 施工条件的は非常に厳しい。施工前にワイヤーブリッジを設ける設計であったが径間長が200mもあるためサグも20mほどと、かなり出てしまう。現場のH.W.Lはアーチアバットの間際まで達するため、ワイヤーブリッジを使うことは断念した。
 現場に行くとアーチアバットの前にヤードがほとんどなく、アーチ基部(スプリンギング)の施工ヤードの確保から始めなくてはいけないことが分かった。
 施工ステップは下の図の通りだが、スプリンギングの真下には支保工を置くべき十分なヤードがない。「他のアーチの現場を見ても、急峻なところにかけられてはいるが、まだ前に支保工が組み立てられるヤードがある。しかし、ここは人が入ることできる程度のヤードスペースであった」(同JV)。
施工ステップ


直下のスペースがない(井手迫瑞樹撮影)

 そのためスプリンギングの施工にあたっては吊支保工を設置した。アーチアバットに大きな梁を渡し、そこに穴をあけて、アンカーを設置して支保工が浮かないようにして、天秤のように張出し、そこから吊り下げて支保工を構築していくようなやり方である。
 スプリンギングは延長10m、幅8m、高さ4mある。これを3回に分けて打設した。1回目は縦割り。2回目はボックス構造なので上下に分けて2回打ち。スプリンギング10mの施工後は、斜吊ケーブルを使いながら移動作業車による張出し施工を行っている。ロットは4m×10ブロックで、これらはブロックごとに一括打設で施工する。

“ダブル斜吊り”でアーチリブを構築
 PCケーブルを1ブロックにつき2本ずつ配置してアーチを仮支持

 今回の施工方法の特徴は、言わば“ダブル斜吊り”でアーチリブを構築することである。
 一つ目はアーチリブ(全部材長118m)のうち、アーチアバットから約50m区間をアーチアバット上のエンドポストを斜吊り用の支柱として張出し架設時の荷重を支持する斜吊りである。二つ目は残りのアーチリブ閉合部分の約118m区間を、先行施工したアーチリブ上に仮支柱(ピロン)を設けて鋼メランを架設するときの荷重を支持する斜吊りである。

ダブル斜吊の第一段階の状況(井手迫瑞樹撮影)

 同現場を斜吊り張出し架設工法またはメラン架設工法のどちらかだけを採用してアーチリブを構築しようとすると「背がすごく高いピロンが必要なるなど、この規模のアーチ橋では現実的ではない。」(同JV)。

 現在施工中の斜吊り張出し施工部は固定したエンドポスト(V1,V6)自体をピロンのような役割をとして使い、PCケーブルを1ブロックにつき2本ずつ配置(F100TS~F270TS)してアーチを仮支持していく。その荷重を打ち消すため、バックステーケーブル(F500TAを片側8本配置)で斜吊ケーブルの力を打ち消すが、なおかつ、後ろ側に引かれすぎて変形しないように900Hのバックステー鋼材(つっかえ棒)を5本ずつ設置して倒れこまないようにした。

エンドポスト自体をピロン柱に見立てた(左:V1、右:V6、井手迫瑞樹撮影)
 V1~A1側バックアンカー間の距離は約20m、V6~P1側バックアンカー間は約40mある。A1側バックアンカーは構造物の後ろに何もないのでまっすぐグラウンドアンカーを緊張して固定しているが、A2側は、P1橋脚の根元に預けるようなバックアンカーにしている。P1橋脚を中心にしてその両脇にRCの梁のようなものを渡して、梁を貫通させてその下にグラウンドアンカーで定着させている。最大で2,000tの荷重が両側のバックアンカーに導入される。それに耐えうるグラウンドアンカーや各種ケーブルおよびバックステー鋼材が選定されている。

梁を貫通させてその下にグラウンドアンカーで定着(井手迫瑞樹撮影)

 RC固定アーチ橋であるが、アーチの上縁側に斜吊りケーブルを定着させるまでの架設PC鋼材としてPC鋼棒(φ32mm)を配置する。

 鉄筋は軸方向でD35が125mmピッチで入っている。下部工でも150~300mmの間隔だが、アーチ部は125mmピッチとした。軸直角はD19でこれも125mmピッチで入っている。その間に110と135の繰り返しピッチで架設PC鋼材(シース径は42mm)が入るという密な配筋状況だ。コンクリートは40-12-25の早強を用いて打設している。早強コンクリートを使用したのは、張出し架設工法であり、緊張を早期に行わないと工程が進まないため。施工方法としてはPCと同様に架設時にはプレストレス導入を早期に行わなくてはならないためだ。

鉄筋及びPC鋼材の配置状況

 暖気は確実に行っている。24時間暖気で5~15℃に設定している。
 なお、型枠は打設状況や充填状況が目視できるよう、内部を透けて確認することができるミエールフォームという型枠を採用している。

 斜吊り張出架設はA1側が10/10ブロックまで進んでいる。A2側も8/10ブロックまで完了した。
 設計は協和コンサルタンツ。一次下請けは桑名建設、下郷鉄筋など。
(2021年3月11日掲載)

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