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飛行系が2技術、その他3技術

次世代社会インフラロボット現場検証 蒲原高架橋で5者5技術

公開日:2015.11.19

 国土交通省の次世代社会インフラロボット現場検証委員会橋梁維持管理部会は、11月2日に静岡県の蒲原高架橋で5者5技術について現場検証を行った。次世代社会インフラロボットは、今後の建設産業における労働力不足、効率的な維持管理および更新、大規模災害への対応を意図して開発導入を進めているもの。橋梁分野では近接目視、打音検査、点検者の移動を支援できるべく公募に応じてきたロボット技術の検証・評価を進めている。

 蒲原高架橋では、①非環境対応型マルチコプターを用いた近接目視点検技術、②小型無人ヘリまたはポール搭載カメラによる構造物点検および点検調書作成支援システム、③複眼式撮像装置を搭載した橋梁近接目視代替ロボットシステム、④損傷検知装置、⑤移動ロボットによる画像情報と位置計測をリンクしたコンクリート構造物のひび割れ調書作成技術の5つを同高架橋のP84~P85間を用いて現場検証した。

 ①は鋼・コンクリート問わず床版・桁の現場検証を目的として開発している技術。三信建材工業が自立制御システム研究所、アイエムソフトと共同開発したもので、小型のヘリ(本体重量3㌔、全体重量10㌔まで搭載可能)にデジタルカメラを搭載して撮影した画像を解析して診断する。GPSおよび自己位置推定・マッピング技術(SLAM)を用いているため、点検位置のデータが構造物のどの部分に当たるか属性をつけることができる。また3次元地図を作ることも可能。スムーズな情報の整理、保全、経過管理が可能になる。将来的には空中から超音波を発して浮き剥離を検査する手法も搭載する方針だ。無線の届く範囲は500㍍で、その範囲を超えるとフェールセーフモードになり自動的に無線の届く範囲内に戻る機能を有している。また、衝突を防止することを目的としたカメラやレーザー測距機を搭載しており、桁に接近し過ぎないよう自立して飛ぶことが可能。万一激突しても構造物、ヘリが互いに損傷しないように炭素繊維強化プラスチック製のガードで側面を覆っている。飛行可能な最大風速は8㍍以内。
  昨年度からの継続参加で、前回化の改良点としては、床版裏点検用(上部工法だけSLAMを利かせている)と桁側面点検用(従来機。側面、下部方向にSLAMを利かせている)にそれぞれ専用機を用意している。また、耐風性の向上のため、アーム長さを40㌢延長し、プロペラ径も桁側面点検用のみ330㍉から430㍉に100㍉拡大している。ひび割れ幅は0.1㍉から点検可能で、欠損部などの面積計算もできる。基本的に3㍍程度の離隔で飛行しながら1秒間毎に1ショットの静止画像を撮影(1ショットごとに4×3㍍=12㍍の面積)しており、写真毎のオーバーラップ率は50%程度、5分間で1500~1600平方㍍程度撮影することを可能にしている。

上部方向SLAM機のフライト(左)/側面、下部方向SLAM機のフライト(右)

 ②は、ルーチェサーチが広島工業大学、建設技術研究所と共同開発したもの。橋梁の桁や床版、橋脚の点検が可能。既に200橋弱の現場で実績を有しており、橋以外では首相官邸の業務でも用いられている。コストを縮減するため、開放的な個所はデジタルカメラを搭載した小型ヘリ「SPIDER」を飛ばして撮影、支承部などの狭隘な個所、複雑な個所については最大10㍍の高さまで伸ばすことのできるポールの先端に搭載したデジタルカメラ「Giraffe」によりそれぞれ連続撮影する。撮影画像を処理して橋梁全体の3次元画像や2次元画像を作ることができるが、自己位置推定はしていないため、基本的には画像の処理段階でオーバーラップ(写真画像の継ぎ目を重ねる)させて制作する。
 改良点としては、画像処理に係る期間を短縮し、コストメリットを向上させるとともに、ひび割れ幅や損傷箇所の寸法を画像によって判読させることが可能になり、定量的な情報を提供できるようにしている。

SPIDER
 ③は富士フィルムがイクシスリサーチ、(財)首都高速道路技術センターと開発した橋梁近接目視の支援を対象としたシステム。複眼式撮像装置(ステレオカメラ)を搭載したロボットで鋼桁下フランジを移動しながら鋼桁を撮影し、撮影画像を画像処理し「橋梁点検要領等」における損傷を検出して近接目視を主体とする点検の支援および点検調書の作成を支援する。具体的には鋼桁下フランジ懸垂型ロボットに搭載した複眼式撮像装置によって橋梁全体の桁下を移動しながら桁部や床版裏面などの画像を撮影する。撮像装置は障害物を避けて昇降することができる。特に駆動系の改良によって垂直補剛材などの障害物を走破して調査することも可能にしている。加えて、前回よりステレオカメラも改良し、小型化、軽量化を図っている。ステレオ画像を画像処理して損傷の寸法が計測できるため点検および調書作成の費用、手間も削減できる。
カメラ部分を取り替えることで、打音点検や鋼部材の亀裂探傷などもできるように改良していくことも検討している。

複眼式撮像装置を搭載した橋梁近接目視代替ロボットシステム
 ④は古河機械金属が産業技術総合研究所と共同で開発した、健全部の打音を基準として損傷部を検知する打音検査装置。車両型クレーンと打音検査装置で構成される装置で、予め当該構造物の健全部を打音して基準となる音を採った上で、打音検査装置(20センチ間隔で打音設備が4つ付いている)を40㌢ずつずらして打音していくことで、計測していくもの。打音分析法のAR-HMM(Auto-Regressive Hidden Markov Model、自己回帰隠れマルコフモデル)は、駆動源信号がフィルタを通ることで音が生成されるというソースフィルタモデル(音声生成モデル)に基づいて、観測音から駆動源信号とフィルタを推定する技術。ハンマーで叩いた力(=駆動源信号)がコンクリートを伝達する特性(=フィルタ)に従い、コンクリートを振動させて打音(=観測音)を発するメカニズムで、コンクリートを叩くことによって得られる伝達関数を、健全部の伝達関数と比較するシステム。即ち損傷部は最初に採った健全部のフィルタを基準として比較することで損傷の程度を把握できる。従来の人間による打音(音を聞き分けて浮きの有無を判断する)と比べて、より高い点検精度を得ることができる、としている。
 また、実際の点検作業においては、事前に橋梁端部の3点を入力、現場の橋梁に沿った方向(直交座標系)に移動操作できる。また、自動点検モードでは、一定間隔に自動送り及び打音ができ、等密度の打音検査が可能。損傷箇所には床版上にスプレーなどでマーキングができるほか、先端部を交換すれば劣化部を叩き落とせる。マークを含む撮影画像から、その場で損傷図作成を支援するデータが作成可能。桁下クリアランスは3㍍あれば対応できる(3㍍未満は対応できない)。点検作業から点検結果記録までを一人で行うことも可能だ。

損傷検知装置(左)/打音装置部拡大(右)
 ⑤は、佐藤鉄工が富山大学と共同開発した技術。カメラを搭載した2台のロボットを用いて桁下から橋梁床版を自動撮影し、取得画像を解析することでひび割れの位置と幅を計測できる。取得したひび割れの情報を実際の橋梁床版と重ね合わせ、ひび割れの位置と幅を確認できる損傷箇所マップを作成できる、としている。

移動ロボット

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