道路構造物ジャーナルNET

奈良県からの権限代行事業も着々と進む

奈良国道事務所 大和北道路をNEXCO西と合併施工で着手

国土交通省
近畿地方整備局
奈良国道事務所長

原 久弥

公開日:2018.09.19

ASRは過去に2橋で確認

 ――塩害やASRによる損傷の有無は
 原 塩害は針ICの管理道路橋で生じています。また、ASRは過去に天理東跨道橋(上下線)、石上跨道橋で生じており、補修を施しています(平成26年度)。


ASRによって損傷した橋台

ASRで損傷した橋梁の使用環境

 ASRは両橋とも橋台部で損傷が生じていました。A1橋台からA2橋台に向けて下り勾配が付いており、名阪国道の道路排水は主にA1橋台に流れ込む状況です。降雨時においては、橋台前面に漏水が生じており、伸縮装置の損傷も考えられました。さらに冬季には路面に大量の凍結防止剤を散布しており、これがASRを助長する要因と考えられました。そのためコアをA1橋台から16本採取し、①圧縮強度試験、静弾性係数試験、②残存膨張量試験、塩化物含有試験、④中性化試験、⑤斫り調査を行いました。段階としては膨張しきって終局状態にあると判断しました。
 対策工法としては、既設鉄筋まではつり、鉄筋を防錆処理したのち、ポリマーセメントモルタルによる断面修復を行い、さらに水の進入を防ぐためコンクリートに表面保護を施しています。
 ――ASRは骨材の材質による要因が大きいといわれます。大阪国道の堺高架橋では、産地も特定しましたが、確認された2橋は同様のことを行いましたか。また、この2橋で使われていたものと同じ骨材を他のコンクリート構造物でも使われていないのですか
 原 本橋では橋梁ドクターの助言を受けて、岩石学的調査も実施しています。その結果、これらの橋梁の下部工で使用された骨材は、堺高架橋等で問題となった砕石ではなく、川砂利であることが確認されています。そして、骨材の成分調査を行った結果、石上跨道橋ではASRを起こす骨材として報告されているチャートが半数以上を構成していること、天理東跨道橋では砂岩が多くついでチャートの構成となっていたことを確認しましたが、産地は特定できませんでした。


ASR調査項目

 これら2橋は昭和40年から昭和50年(今から43年~53年前)の間に施工されており、同時期に竣工している橋梁の下部工では同じ骨材が使用されている可能性はあります。これら2橋では大きなひび割れは30年程度経過してから出現していることから、同じ骨材を使用したと考えられる橋梁で今後同様の損傷が新たに生じる懸念もありますので、今後とも橋梁定期点検で現地確認を継続して行っていくこととしています。

猿飼橋で全面塗替え
 耐候性鋼材の劣化は見られない

 ――今年度の鋼橋の塗り替え予定は
 原 今年度は、猿飼橋(後述)で全面的(約2700㎡)に塗り替えを行いました。
 塗り替えの際には、事前に既設塗膜の成分を分析し、有害物(PCBや鉛など)が確認された場合は搬出先を指定して処分しています。
 ――耐候性鋼材を用いた鋼橋の有無と、採用橋がある場合の損傷の有無は
 原 管内には6橋あります。近年では、H29年度に開通した大和御所道路(御所南IC~五條北IC)間にある出屋敷高架橋の一部に耐候性鋼材を使用しています。

防災点検箇所は80箇所

 ――全国的に豪雨などによる土砂災害が相次いでいますが、道路に関する斜面や古い法面などをどのように補強・補修して道路を守っていくのか、具体的な事例や計画がございましたら教えてください
 原 管内には防災点検箇所が80箇所あります。毎年点検を行い防災・減災に取り組んでいます。箇所によっては防災ドクターに診断を要請し、調査方法、工法などの助言をいただいております。


対策した自然斜面例

 ――昨年度、台風21号で被災した法面の損傷数・規模と現在の復旧、補強状況は。また、それに伴う対策工法および法面の長寿命化対策も教えてください
 原 昨年の台風21号では、管内で国道25号藤井地区、国道25号(名阪国道)米谷地区、京奈和自動車道の朝町地区と畑田地区の計4箇所で法面が被災しました。被災の規模が最も大きかったのは名阪国道の米谷地区における法面崩落です。被災した面積は約1,300㎡、崩落した土量は約1,000㎥ありました。現地調査の結果、この箇所は急激に降った雨による盛土斜面内の地下水位の上昇が主な原因と考えられたことから、法枠工に加え、十分な地下排水工を計画することとし、盛土内の地下水位の上昇を防ぐことで、結果、法面の長寿命化にも備えた対策工法としています。
 ――新技術および新材料やコスト縮減策の活用について
 原 コンクリートの表面保護工において、表面含浸工を使い分けています。RC桁・橋脚については複合型のけい酸塩系含浸材、PC桁についてはシラン系の撥水剤を採用しています。

猿飼橋で初の直轄診断そして修繕代行
 鋼部材の当て板、塗り替え、RC床版のひび割れ注入など

 ――市町村支援として猿飼橋の修繕代行を行っていますね
 原 はい。猿飼橋は十津川村道平谷竹筒線の熊野川渡河部に架かる橋長138.8mの鋼単純ランガー桁です。同橋は村営住宅や老人ホームと主要幹線道路である国道168号を結ぶかけがえのない橋です。また、世界遺産である紀伊山地の霊場と参詣道「大峯奥駈道」の霊峰玉置山に通じる観光ルートとしても重要な橋です。


猿飼橋の補修(検査路設置および塗装)

 昭和49年に供用してから43年が経過しており、塗膜の劣化・腐食、溶接部のひび割れ、F11Tボルトの遅れ破壊のおそれがあり、同村の要請に基づいて、平成27年11月に近畿初の直轄診断を実施し、その結果28年度に国による修繕代行が事業化されました。
 診断したところ予想されたような損傷は生じていましたが、アーチ桁端部などの腐食は、それほど深刻なものではありませんでした。
 ――どのような補修を行っていますか
 原 鋼材に亀裂が生じている箇所(垂直材の上端部および横桁取り付け部)では削り込み除去し、疲労に対して脆弱な構造である垂直材上端部はボルト接合による当て板補修を施しています。また、鋼桁全面に塗り替えを行い、RC床版下面に発生しているひび割れについては低圧で樹脂を注入して補修しています。また伸縮装置の真下にはフェールセーフとして受樋を設置し、漏水が橋台や鉛直材、アーチ桁端部に降り注がない構造に改良しました。合わせて、今後の点検を容易にするため床版下面や端部の垂直材、アーチリブの下端部に橋梁検査路を設置しました。


猿飼橋の補修(検査路設置および塗装)(床版のひび割れ補修)

猿飼橋の補修(当て板)

 設計はパシフィックコンサルタンツ、下村重機(和歌山県みなべ町)が補強工事を行いました。


猿飼橋の補修完成状況

 ――修繕の進捗状況は
 原 6月30日に近畿地方整備局と十津川村との共催で、完成式を執り行っております。
 ――ありがとうございました

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