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ロッキングピアや長大・特殊橋梁の耐震補強も対策進める

NEXCO西日本関西支社 大規模更新・大規模修繕が本格化

西日本高速道路
関西支社
保全サービス事業部長

中村 順

公開日:2018.03.01

耐震性能2を確保している橋梁はNEXCO西日本全体で59%
 関西支社だけでも今後1,000橋について照査が必要

 ――さて、一旦耐震の進捗状況に移らせていただきます。落橋防止の設置状況も含めて現状はどこまで進んでいますか
 中村 西日本高速道路全体で耐震性能2(地震発生後、緊急輸送路としての機能の回復が速やかに行い得る性能)を確保している橋梁は当社全体で59%(平成29年3月時点)となっています。これまでは落橋を起こさないための補強として桁かかり長の確保や橋脚の補強など(いわゆる耐震性能3の確保)を優先的に進めてきましたが、熊本地震などを受けて、これからは既設橋に求められる耐震性能2を確保するための補強を加速度的に進めていく方針です。関西支社管内では、今後30年間に南海トラフや活断層などに起因する大規模地震により震度6弱以上の揺れに見舞われる確率が26%以上の地域におきましては、耐震性能2を確保する対策を平成29年より今後概ね5年間での完了を目標に進めます。また、全体としても今後10年以内の完了を目指します。
 ――残り41%は橋梁数でいうとはいかほどになるのですか
 中村 関西支社管内だけでも1,000橋を超える橋が該当します。既設橋の耐震性能を照査したうえで必要に応じて対策を実施します。
 ――関西支社には長大特殊橋も少なくありません。大変な作業ですね
 中村 アーチ橋やトラス橋、方杖ラーメン橋のほか、新名神の近江大鳥橋や山陽道の衝原橋(いずれもエクストラドーズド)のようなケーブルを有する橋梁もあります。大変な目標ですが、やり遂げたいと考えています。優先的に対策が必要な橋については、できるだけ早く着手したいと考えています。


山陽道 衝原橋

ロッキングピアを有する橋梁は合計33連
 全橋梁において耐震補強設計は完了

 ――先の熊本地震ではロッキングピアを有する橋梁の一部で落橋したケースがありました。関西支社管内で早急に対応が必要なこの種の橋梁はいかほどありますか。また、対策方法はどのようなものを想定されていますか
 中村 当支社管内のロッキング橋脚を有する橋梁は、名神高速、中国道、西名阪道において全部で28連あります。また、当社管理ではありませんが、自治体が管理する高速道路を跨ぐロッキング橋脚を有する橋梁も5連あり、合計33連の対策が必要です。
 全橋梁において耐震補強設計は完了しており、一部橋梁については工事に着手しています。優先的に工事着手しているのは3径間以上で斜角や曲線を有する橋梁です(13連が該当)。


ロッキングピア対策を行っている橋梁

 対策方法は、ロッキング橋脚をRCもしくは鋼板により巻き立てて壁式橋脚化し、基礎並びに上部構造と剛結させることにより自立性を確保する工法を標準としています。さらに橋台部もL2地震動に対して、耐震性能を満足するように補強(前面に増厚)し、上部構造と固定化します。ただし、既設橋の条件によっては、この工法を採用できない橋もあります。


ロッキングピア対策の標準パターン

 ――場合によっては基礎にまで手を入れなくてはいけない該当橋はありますか
 中村 現在のところありません。
 ――対策完了年次はいつごろを想定していますか
 中村 平成30年度内の対策完了を目標としています。
 ――長大特殊橋の耐震補強についても進捗状況を教えてください
 中村 近年では、阪和道でいずれも鋼製のトラス橋、方杖ラーメン橋、アーチ橋を補強しました。今後も大規模地震の影響度や路線の重要度を踏まえて、優先順位を定め、順次対策を進めていきます。
 ――今次の熊本地震では、桁種(重量)の異なる架け違い部で損傷が生じました。その並柳橋の知見を活かして対策していることがあれば教えてください
 中村 段差のある架け違い部に関しては、(重量の)大きい方がパラペット部にぶつかった時が危険である、という認識のもと、そうした形式の橋梁については耐震補強の優先度を上げて対策していくことを考えています。
 対策の具体的な方法としては、ぶつからないように変位を抑えるか、ぶつかっても壊れないように補強するか、段差自体を無くすか、などの方策が考えられます。

約8割の橋梁点検を完了 約6%が健全度Ⅲに該当
 鋼桁端部には手厚く対応 TAPS溶射を採用

 ――橋梁の長寿命化修繕計画に基づいた対策の進捗状況についてお答えください。また、具体的な損傷状況と補修補強計画についても例を挙げていただけましたら幸いです
 中村 会社として、平成25年に「保全事業システム推進五箇年計画」を策定し、維持管理サイクルを行う保全事業システムという事で、点検・診断・補修・記録を回すために会社全体で取り組んでいます。従前は点検、補修などが各自独立した形で行われていたきらいがあり、時々見落としなどがあったことも事実としてあります。そのため、予防保全の観点からもしっかり点検をして、損傷を見逃さないようにし、すべての損傷に対して診断し、しっかりと手を打っていきます。こうした保全事業システムをNEXCO西日本とグループ会社が一体となって構築しています。


グループ全体で老朽化に対応

 何しろ構造物の量が膨大です。点検一つとっても全て人力で見るのは非常な労力を要します。そのため、赤外線やハイビジョンカメラを活用するなど機械化を図っています。
 道路法施行規則に基づく省令点検対象については、平成29年度末で関西支社管内の2,000橋のうち、約8割の点検を完了しています。28年度末までに点検を完了した約1,200橋のうち、健全度Ⅳに相当する橋梁はありませんでした。なお、健全度Ⅲに該当する橋梁は点検完了した橋梁の6%であり、5年以内に補修します。具体的には健全度Ⅱの橋梁も含めて、特定更新事業計画も踏まえつつ、可能な個所から順次補修を実施しております。
 具体的な損傷傾向としては、やはり桁端部の変状が多く発生しており、そこに注力しています。また、当支社管内では、桁端部の1m程度を金属溶射工法の1つであるTAPS工法を使用して補修しています。端部は他の部位と比べて過酷な環境下にあり、損傷頻度も高く、ジョイントの止水性も永続的な確保は難しいことから、フェールセーフとして、こうしたレベルを上げた手厚い補修を行っています。


TAPS工法の概要と桁端部対策の標準図

TAPS工法の標準施工フロー

塩害 過去に海砂を使用している床版も
 中国道ではコンクリート桁端部の補修も実施

 ――塩害、ASRなどによる劣化の有無は、劣化があればどのような形で出ていますか
 中村 関西支社管内で見られる変状は、主に凍結防止剤や除塩不足の海砂利用による塩害です。劣化部位としては、鋼橋のRC床版や伸縮装置からの漏水に起因する桁端部や下部構造の損傷が多くみられます。また、重交通区間の鋼橋においては二次部材の疲労き裂の発生も部分的に発生してきています。
 ――具体的な損傷事例を挙げてください
 中村 中国道(福崎地区)ではコンクリート桁端部の補修を実施しています。桁端部からの凍結防止剤を含んだ漏水に起因する塩害です。補修方法は、WJ工法(ロボットおよびハンドガン)によりコンクリートのはつり処理を実施し、マクロセル腐食による再劣化防止対策としてシラン系含侵材を塗布し、湿式吹付工法によって断面修復を実施しています。また、予防保全として、表面保護塗装も施しています。
 阪和道(和歌山地区)においては、過年度に補修対策を実施した松島高架橋の前後などを中心に除塩不足による塩害によってコンクリート橋が劣化しています。今後、特定更新等工事によって大規模な更新・補修を実施していく必要があると考えています。
 ――鉄筋近傍の塩化物イオン量はどの程度に達しているのでしょうか
 中村 海砂を使用している床版では、鉄筋近傍の塩化物イオン量が3kg/㎥を超える量に達している橋梁も散見されます。
 ――ポステン桁などPC橋のグラウト充填不足による損傷は
 中村 点検で数件ではございますが、実際に損傷しているケースがあります。但し、プレストレスロスが顕在化しているような大きな損傷は無く、一部でグラウトの充填不良による腐食などが見受けられる程度です。そうした個所には、今後グラウトの再注入などの対策を施していきます。
 ――水回りや塩害に関係しますが、旧JHでは古いタイプの排水溝が漏水を助長し、床版・高欄の継ぎ目からハンチへ染み出し、塩害を拡大している個所があります。そうした事態への対策は何か行っていますか
 中村 確かに旧タイプの直壁高欄では、床版と壁高欄の打ち継ぎ目を通じて漏水が発生しています。具体的には水切り個所に水が回り込んできて、水切りの壁が薄くなっている鉄筋が腐食して、そこからひび割れが出ています(下写真)。この漏水が影響して、張出床版の鉄筋が腐食・膨張し、コンクリートの剥離が生じています。そのため、床版防水層は端部までしっかりと立ち上げるように設計しています。


直壁高欄の損傷状況

床版・地覆・高欄の打ち継ぎ目付近もしっかりと防水

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