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1カ月で900mmの降雨 66箇所が災害復旧対象に

北海道開発局 28区間440kmが通行止めに

国土交通省北海道開発局
建設部
道路維持課長

坂場 武彦

公開日:2017.06.20

直接基礎の被災が目立つ
 設計上問題はないが今後は水害考慮も

 ――道路に対して河川が近く、橋梁基礎に直接基礎を使っている橋が多く被災したように思えますが
 坂場 確かに被災した橋は直接基礎が多かったですね。それは中でも議論したのですが、直接基礎というのは岩着になっているじゃないですか。だから本来は削られるという事はなく構造設計上は問題がなかったと思います。
 その上で今回のような百年に1度の降雨を考慮すると、杭基礎の方が洗掘に対し安全というのは確かです。特に橋台背面を削られているのが直轄で多かったのは、澪筋が変わって、もともと流れていた川の筋に戻ったのだといわれている先生方もいます。確かに豪雨以前・以後で見比べると川の流れは明らかに変わっています。背面は土構造ですから当然削られます。これから建設する時は地質調査や河川の状況などを加味し、もちろんコストも考慮して基礎形式を選択していく必要があると感じています。


国道38号芽室橋橋台基礎。杭まで露出したが持ちこたえた/すぐ横の芽室川河岸は大きく損傷している
(井手迫瑞樹撮影)

 ――日勝峠道路で架け替える橋の形式は、それを踏まえて杭基礎を多くしているのですね
 坂場 災害防止の観点から、ジャストボーリングを行った上で、杭基礎が妥当だと思われる個所に採用しました。流された橋脚の基礎に構造上の問題があったわけではありません。
 ――今までの基準では問題はなかったが、予想をはるかに上回る豪雨水害に遭遇し、その新たな知見に照らし合わせて、架け替え橋の基礎形式を選定したというわけですね
 坂場 水害による橋梁の被害を防ぐためには、基礎形式と径間長(橋脚数減少による河積阻害の抑制)をどうするかという課題があります。一方で、今回被害を受けた中小河川は河川の整備計画が元々ない箇所ですよね。河川管理者と協議を行いますが、例えば災害前の河川の流量、川幅が1とすると場所によっては被災後に川幅が3に広がっている個所もあります。では、どうするか。


予想を上回る豪雨水害。川幅が大幅に広がった箇所もある(写真は幾寅川、井手迫瑞樹撮影)

 我々も当然、新たな川幅に沿って橋長を飛ばす形で建設計画を立てますが、しかし、水が引いた後の河川を見ると、本当にここまで飛ばす必要があるのか、と正直言って思います。しかし、一度災害が起きると基礎形式やスパンは安全側に振れることは否めません。それでが過度に径間長が長くならないように河川管理者と協議しつつ、識者の意見を聞き、理論武装しながらできるだけ適切な対策になるようにしていくことも我々道路管理者の務めであると考えています。

千呂露橋 川幅は被災前の3倍に拡大
 1,250tクレーンを用いて約10日で仮設橋を設置

 ――千呂露橋の被災状況は
 坂場 千呂露橋は沙流川にかかる83.8mの単純PCポステンT桁×3連の橋梁です。昭和35年に供用され建設後56年が経過していました。被災状況はA1側(右岸)の盛土が洗掘崩壊し、橋台が転倒、P1橋脚も変形・回転し、A1-P1間の桁が大きくずれ、落橋しました。P1-P2間の桁も変形・回転しました。川幅は被災前の3倍に広がっていました。
 ――千呂露橋の仮橋も短期間で架設しました
 坂場 千呂露橋は1,250tクレーンを用いて約10日で仮橋を地組みし、一括架設しました。橋の近くには30軒ほどの集落があったのですが、牛を飼育している酪農農家の方もいらっしゃり避難できないのですよ。そのため生活及び飼育用の水を供給するため尋常ではないスピードで仮設水道や仮橋を架設しました。ここは直轄道路管理者としての頑張りどころだと思いました。
 仮道の線形は既存の家屋や神社、門型標識への影響を回避した位置で設定しました。仮橋の橋台位置は被災後の河道ラインを考慮し、河川流水の影響を受けない位置で設定しています。


千呂露橋の仮橋設置状況

仮橋の供用

 ――復旧橋はどのようなプランで架け替えますか
 坂場 復旧に際しては現橋活用と架け替え案を比較し、最終的に橋長123.4mの3径間連結PCバイプレホロー桁に架け替えることにしました。今次水害を考慮して基礎形式は全て杭基礎となりました。

層雲峡の生命線 高原大橋も1カ月で仮橋設置
 もってこられる資材に合わせて仮橋を建設

 ――高原大橋もよく1か月で復旧しましたね
 坂場 国道273号は上川町の層雲峡温泉が程近く、観光地の道路として無くてはならない道路ですが、石狩川の氾濫により被災をうけました。
 高原大橋は、昭和48年に供用し43年が経過した橋長124.5mの単純活荷重合成鈑桁×4連の橋梁です。下部工は逆T式橋台、張出橋脚で、全て直接基礎でした。今次の水害により、P2橋脚が洗掘により傾斜、沈下を起こし、A2橋台背面も洗掘、護岸流出が生じており、主桁は座屈や傾きが生じていました。


高原大橋位置図

高原大橋の損傷状況

P2橋脚とA2橋台に沈下や洗掘が生じていた

 ――高原大橋は8月23日に被災し、翌24日には仮橋工事をスタートしましたが、30日には台風10号が襲来しました。にも関わらず9月30日には仮橋の設置を終えて交通開放。普通に考えれば仮橋といえども設計だけで一か月かかるものですよね。架設までを一か月で完了するというのは通常では考えられません
 坂場 現場は道有数の観光地である層雲峡につながる重要路線です。当時は紅葉シーズンが迫っており、観光地にとっては仮橋による復旧がシーズン開始までになせるかどうかというのは文字通り死活問題であったと思います。現場では、設計というよりは、取り寄せるものに合わせて、現地対応しました。何が必要か? というよりは何を持ってこれるか、ということです(編注:ここでは開発局が所有している仮設トラス橋などを使用して設置した)ね。


1カ月間で仮橋を含む仮復旧道路を供用した

高原大橋の仮橋復旧は夜に日を接いで行われた(写真は杭施工)

 ――私も層雲峡は行ったことがありますが、温泉も含め美しい観光地でした。仮復旧は嬉しかったと思います
 坂場 仮橋が完成した後、地元紙にですが、温泉街の事業者の皆様が復旧を知らせる広告を出稿されました。あれは我々にとっても疲れを忘れる嬉しさでした。
 ――同橋は曲線半径が100mと厳しいカーブです。現場の川幅も広がっていました
 坂場 そうです。そのため線形をできるだけいじらないで済むように仮復旧しました(編注:仮橋延長は172m、仮復旧道路の延長は272.5mに及んだ)。


杭施工/仮橋の桁架設

河川部にはトラス桁を架設

仮橋により復旧した高原大橋

 ――高原大橋など一部の橋梁では丁寧に流域・流量解析を行いながら、今次の水害で生じた水衝部なども考慮に入れて仮橋や架け替え橋を設計したと聞いています
 坂場 中小河川においては明確な流量や流域がありませんから、今次の水害結果を考慮にいれて設定した上で、設計に生かしました。
 ――特に高原大橋では流量や流域、水衝部などを調査した上で、水の流れをモデリングし、架け替え橋の橋長、形式、橋脚や橋台の位置なども決めた、と聞いています
 坂場 河川の流域をどう考えるか、土地利用や高さのフォーメーションなど全てに影響しますから、細かくモデリングしてまではなかなか(決めることは)難しいです。
ただ、高原大橋だけは、直轄管理河川であったことや、あまりにも(当初の川幅より)広くなりすぎて、複数の澪筋ができたので、今後の川の形状想定などを行いました。当初はどこまで(橋台を元の位置から)引けば良いか分からない状態でしたが。

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