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ポストテンション橋のグラウト未充填対策指針を9月に発刊

公益社団法人プレストレストコンクリート工学会
既設ポストテンション橋のPCグラウト問題対応委員会
委員長
京都大学大学院 
特任教授
宮川 豊章 氏

 ポストテンション橋の建設が始まってから既に約60年が経過、当初では想定しなかった凍結防止剤の散布などの影響により主に上縁定着により施工してきたポストテンション橋は施工時のグラウトの充填技術状況もあり、一部では劣化が生じている箇所もある。プレストレストコンクリート工学会(PC工学会)は、平成24年に「既設ポストテンション橋のPCグラウト問題対応委員会」を設置し、その実態把握や各種調査手法の把握、診断および補修・補強指針の作成を進めているが、このほど今年9月に発刊ができる見通しとなった。その内容について同委員会委員長を務める宮川豊章京都大学特任教授に詳細を聞いた。(井手迫 瑞樹)


指針として発刊

 データを経時的に整理し、調査方法やリスクなどを検討

 ――診断マニュアル、補修・補強マニュアルの概要から。最後の一年で詰めていた内容など

 宮川 1年前はマニュアルとしてまとめると申し上げておりましたが、技術的に開発途上のものも多く、マニュアル的に全てきめてしまうことは困難だな、ということなので指針ということにしました。最後の1年で詰めていた内容としては、国土交通省、NEXCO、JR、自治体など11の構造物管理機関から提供していただいたポストテンション橋の健全度、27の重大損傷事例、ポストテンション橋の技術変遷を経時的なものとして整理して、どういう時期、形式が比較的危ないのか、あるいはどういう部材から調査すべきなのか、ということを決めるためにリスクなどについて検討しました。


古いポステン橋はT桁およびI桁が多い

 充填不足はPC鋼棒が顕著

 ――ポストテンション橋が置かれた状況。損傷発生の要因とメカニズム、特に上縁定着、床版防水の未設置、凍結防止剤の使用、鋼製シースが重なった場合、損傷の傾向があると聞きますが。前回14,000連のポステン橋の状況、27の重大損傷事例について収集し、分析を進めていると仰っていましたが、その成果を詳細に教えてください。

 宮川 11の管理機関に調査への協力を頂き、その結果14,441連のポストテンション方式PC橋のデータが集まりました。建設年時は1990~99年の約3,600が最大となっています(図1)。形式はI桁が21%、T桁が30%、版桁が30%、箱桁が17%と概ねこの4種類となっています(図2)。


(左)図 1 収集したポストテンショ方式PC 橋の建設年又は開通年別の状況

(右)図2 収集したポストテンション方式PC橋の構造形式の連数および比率

 それを合わせたのが図3です。これによると古い年代のポストテンション橋はT桁次いでI桁が多くなっていることが分かります。また古い橋とりわけ1960~79年に損傷が集中していることも分かりました。また各桁種とも全体の損傷状況に比べてグラウト充填が不足している桁の方が損傷が多くなることも傾向として明らかになり、グラウト充填不足が構造物に悪影響を与えていることが顕著になりました(図4)。


図3 構造形式別のポストテンション方式PC橋の建設または開通の状況

図4 建設年次と健全度の関係/図5 建設年次と補修率の関係(NEXCO3社のデータ)

  

図6 PCグラウト充填不足橋梁の健全度

 次に、充填不足になっているPC橋の鋼材種別を調査しました。その結果、充填不足の全体に占める割合は26.7%でしたが、PC鋼棒単独では37.2%に上昇することが分かりました(PC鋼線は24.5%、PC鋼より線は10.4%)。これは何が違うかというと、後で技術変遷でも出てくるのですが、シース径が古い年代の橋では小さいため、注入圧が弱かったり、閉塞してしまい上手く充填されなかったのではないか、ということが考えられ、リスクという点では、PC鋼棒で製作したポストテンション橋が一番高いということがいえると思います。


図7 PCグラウト調査橋梁別充填状況/図8 PCグラウト状況(建設年次別)

 次に27の重大損傷事例ですが、鋼材の破断が19、次いで腐食が6、ひび割れが2となっています。鋼材種別では鋼線が12、鋼棒が8、鋼より線が3、不明が4です。とりわけ顕著なのは重大損傷の桁形式で20がT桁、また19が単純径間の桁が占めるという結果でした。


収集した重大損傷事例


図9 重大損傷内容/図10 重大損傷の鋼線種別


図11 重大損傷の桁形式/図12 重大損傷の桁形式


T桁、PC鋼棒、単純径間に損傷が集中

 防水工の有無が損傷発生に大きく影響

 ――どうしてT桁 、PC鋼棒、単純径間の桁に損傷が集中したのですか

 宮川 T桁に損傷が集中しているのは、建設年次が一番古いためであると考えられます。鋼棒・鋼線に損傷が集中しているのも古い建設年次に使用されシースの内径(即ち空隙率)が小さく充填不足が起きやすいためであると考えます。単純桁に損傷が集中しているのは、(ジョイント部が多く)桁端部の漏水などの影響を受けやすいためであると考えています。

 ――塩害や床版防水工の有無の影響は

 宮川 重大損傷事例の海岸線からの距離を見ると、1㌔未満が11事例ある一方で、1㌔以上離れている橋梁でも損傷が15事例で見られます。飛来塩分の影響もある一方で凍結防止剤による影響で損傷している橋梁があることも伺えます。床版防水工の有無では、防水工が現在もない個所で9連、現在はあるが供用当初は無かった個所で8連損傷しています。防水工がある個所では3連しか損傷しておらず、防水工の有無が(凍結防止剤や水の浸透を防ぎ)ポステン橋の健全性に大きく影響していることが分かります。

 また、グラウトの充填状況が損傷に与える影響ですが、充填不足が17事例を占める一方で充填されているポステン橋でも6事例で損傷が見られています。


図13 架橋地点の海岸からの距離/図14 重大損傷橋梁の防水の有無


図15 重大損傷のPCグラウト状況/図16 重大損傷の建設年次


 ――経験的に分かっていたこととはいえ、今回このように明らかに傾向を示せたことは大きな成果と言えますね

 宮川 国土交通省、高速道路各社およびJR各社、自治体有志がデータを公開していただけた賜物です。