道路構造物ジャーナルNET

高度な点検技術を活用して社会貢献を

首都高技術 鶴田和久新社長インタビュー

首都高技術株式会社
代表取締役社長

鶴田 和久

公開日:2022.11.11

 首都高速道路のグループ会社である首都高技術の新社長に首都高速道路前執行役員の鶴田和久氏が就任した。首都高技術は、首都高速道路の構造物点検・診断、積算・施行管理技術支援、技術コンサルティングといった技術的な業務をコア事業として実施している。技術開発や人財育成などの現状及び抱負を鶴田和久新社長に聞いた。

首都高速道路業務で培った技術をコンサルティング業務に反映

 ――社長に就任されて、御社そして社員にどのような印象を持たれましたか
 鶴田社長 当社は、首都高速道路の点検・診断、積算・施行管理技術支援で培った技術をコンサルティング業務として、国や地方公共団体の維持管理などでも活用できる会社であると思っています。
 社員は愚直に、前向きに行動してくれています。当社の主業務である点検と診断に真摯に向き合い、業務で培った技術、経験、知識で社会に貢献していくという気概が伝わってきます。私は6代目の社長になりますが、それをさらに発展させるのが自らの仕事であると考えています。
 ――現在、どのような考えで業務に臨まれていますか
 鶴田 社長になって意識していることは「挑戦する、そして行動する(Challenge and Action)」です。「したい」ではなく「する」が重要で、頭で考えているだけでなく、まずは行動することが重要で、失敗をしても次につながると思っています。
 また、技術者は構造物のお医者さんだと考えています。一般の病院では患者さんが病院に来てくれますが、当社の患者さんは外にいます。そのため、最新の技術を持って現場に往診に行く必要がありますが、大切なのは患者に思いやりを持って、泥くさく寄り添っていくことです。


“構造物のお医者さん”として点検業務に臨む(首都高技術提供。以下、注釈なき場合は同)

東京建設局建設管理課長時代には中央環状新宿線の工事などを担当
 横浜北西線では事業化と開通までの最終工程に携わる

 ――土木業界を選ばれた理由は
 鶴田 構造物をつくりたかったからです。自宅の建て直しで大工さんの仕事を見て面白いと感じました。高校時代には土木と建築で悩みましたが、地図に残るものをつくりたいという気持ちが強くなり、土木を選択して埼玉大学に進学しました。大学と大学院では、町田篤彦先生と睦好宏史先生のもとで「コンクリート構造物の耐震」をテーマに研究を行いました。
 ――首都高速道路に入社されたのは
 鶴田 1986年に大学院を修了して、首都高速道路公団(当時)に入団しました。出身は山梨で、学生時代は車を持っていなかったので、首都高速を走ったことはありませんでした。しかし、大学院時代に首都高速や日本道路公団の構造物を見させていただき、興味を持ちました。首都高速道路を選んだのは構造物の割合が極めて高かったからです。
 ――首都高速道路時代で印象に残っている業務は
 鶴田 2006年から4年間、東京建設局で建設管理課長を務め、中央環状新宿線の開通、湾岸線東行き有明JCT~辰巳JCT間の4車線化、晴海線晴海出入口~東雲JCTの開通、中央環状品川線の計画を担当しています。なかでも、中央環状新宿線の工事では、シールドトンネルと出入口・ジャンクションの接続が課題となりました。そこで、シールドトンネル構築後に切り開いて施工する方法を先輩方が提案され、その計画をつくりました。現場では支保工を構築してセグメントをガス切断していきましたが、事前に設置したゲージの軸力やモーメントに変動がないかを1本1本確認しながら施工していったことが印象に残っています。
 横浜北西線の事業も印象深い仕事となりました。神奈川建設局担当部長の時には用地取得から工事完成までのマクロ工程をチームで作り上げましたし、神奈川建設局長として大詰めの工事から完成まで関わることができました。同線の事業は、パブリック・インボルブメント(PI/住民参画)手法を導入して、構想段階から住民の皆様に情報提供を行って意見を聞きながら進めたことで、用地取得を1年短縮できました。工事も施工会社などの工夫や、土木工事と施設工事を併行して行うことにより、1年短縮しています。結果として工期を2年短縮できたことは前代未聞のことだと思います。


横浜北西線港北JCT/報道陣への現場公開で説明を行う神奈川建設局長時代の鶴田氏(大柴功治撮影。以下、撮影=*)

年間売上高は約80億円 そのうちの7割が点検業務での売上
 地方公共団体の点検業務受託などの関連事業の拡大を目指す

 ――会社の業務状況は
 鶴田 高速道路事業の年間売上高は約80億円で、そのうちの7割が点検業務での売上となっています。ここ3年間はほぼ同額で推移しています。
 高速道路事業で培った知識・経験を活かした関連事業の年間売上高は約9億円で、点検コンサルティング業務が主体となります。こちらはこの3年で伸びてきています。より社会に貢献したいという思いと先代、先々代からの意思も含めながら、事業拡大に取り組んでいます。
 ――中長期の経営計画について教えてください
 鶴田 長期ビジョンとして2017年3月に「飛躍2030」を策定し、「日本一の技術会社になること」「高い企業ブランドを築くこと」を掲げています。そのビジョン達成に向け、「日本一の技術会社の実現と企業ブランドの構築」「高速道路事業におけるサービス水準の最大化」「関連事業における収益・利益の拡大」「研究・技術開発の戦略的な推進と技術革新への挑戦」という4つを目標として業務を進めています。
 また、この長期ビジョンをもとに、3カ年の中期経営計画を策定しています。各年度の達成状況や世の中の環境に応じて見直しを毎年行っていますが、2022年度から2024年度は「安全と品質の向上」「人財育成の推進」「コンプライアンスとリスク管理の徹底」「事業の拡大と体制強化」「技術開発の推進と実装」「働きやすい職場環境の創出」の6項目を経営方針の基本としています。さらに、2022年度は「ウィズコロナと事業継続」「コミュニケーションの活性化」「危機管理対応の習熟」「事業再編の円滑な実施」の重点項目を掲げて、業務を遂行しています。
 ――関連事業の拡大に向け注力していることは
 鶴田 新技術を活用した点検やコンサルティング業務となります。
 ――具体的なクライアントは
 鶴田 点検業務は、国道事務所や中央区、大田区、横浜市などの地方公共団体、東京メトロ、高速道路会社などです。首都高速道路で培った点検技術に加え、インフラドクターやインフラパトロールなどを活用した点検や、当社でノウハウがある補修設計、耐震設計及び施設設計に取り組んでいます。

劣化状況や損傷の進展をAIで精度良く推定する技術開発を推進
 技術開発とともに診断・分析ができる技術者の育成が重要

 ――首都高グループでは2050年にカーボンニュートラルの実現を目指すための戦略を策定しました。そのなかで御社が担う役割について教えてください
 鶴田 大きく2点あると考えています。1点目は「既存のネットワークを賢く使う交通マネジメントの推進」という項目の中にも記載されていますが、当社では「mew-ti(Metropolitan Express Way – Traffic Information)」によるお客様への道路交通情報を1分ごとに提供しています。渋滞を回避した利用など、安全性・走行性・快適性を向上させることで、環境負荷低減やエコドライブの推進を目指していきます。


「mew-ti」のイメージ(左:PC版/右:スマホ版)

 2点目は「業務効率化のためのDXの戦略的導入」に対して、当社では3次元点群データなどを取得していますので、構造物の劣化状況や損傷の進展をAIで精度良く推定する技術の開発を推進していきたいと考えています。橋梁点検用ドローンや昇降式全方位カメラなどの新技術をAIとの両輪で活用することにより現場作業の省力化・効率化につながり、結果としてカーボンニュートラルの実現に貢献すると考えています。
 ――今後の技術開発ではAIがキーワードになりますか
 鶴田 橋梁点検用ドローンや昇降式全方位カメラなどを改良していくことも必要ですが、点検を行い、損傷や劣化要因を分析判定する機能を備えた未来型の点検ロボットの開発ではAIの活用が不可欠です。そのためには技術開発に加えて、しっかりとした診断ができる技術者を育てなければなりません。ドローンやAIはツールで、最後は医者の診断が必要になりますので、そのツールを分析できる能力のある技術者を育成していく。それが、長期ビジョンで掲げている「日本一の技術会社になる」にもつながってきます。
 ――AI活用を含めた新技術の開発は
 鶴田 現実空間(フィジカル空間)と仮想空間(サイバー空間)の両方でAIによる点検・診断の“往診”に使える技術を考えています。仮想空間では“遠隔医療”となりますが、それに対応するためには現地・現物をしっかり見て、専門知識をもった技術者が必要になると思います。
 点検困難箇所の点検に資する技術開発と既存技術の改良として、橋梁点検用ドローン、こんこん(連続打音検査装置)、あいあい(軽量垂直ポールカメラ)などの開発を行ってきました。スペース的、時間的な制約があり、点検が難しい箇所に対する点検方法のさらなる効率化を目指して、今後も新技術の開発を進めていきたいと思います。

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