道路構造物ジャーナルNET

2021年わが社の経営戦略 大手ファブ トップインタビュー ⑫日立造船

新設橋梁は中期的には増加傾向 脱炭素化でダム再開発が脚光

日立造船株式会社
執行役員 機械・インフラ事業本部 鉄構・防災ビジネスユニット長

鎌屋 明

公開日:2021.10.25

 当NETの姉妹メディアである「週刊 鋼構造ジャーナル」では、毎年、橋梁を主事業のひとつと位置付ける鋼構造ファブリケーター各社のトップに経営戦略を尋ねるインタビュー記事を掲載している。その内容について、数回に分けて転載していく。最終回となる今回は、日立造船の鎌屋明執行役員と、宮地エンジニアリンググループの青田重利社長の記事を掲載する。

 ――20年度の業績ならびに21年度の目標は
 鎌屋 昨年度は受注高が278億円、売上高が291億円、営業利益は8億円と一昨年度の赤字から黒字に転換できた。今年度は受注高320億円、売上高300億円、営業利益は5億円を目指す。
 当社では今年度、組織変更を実施した。担当の機械・インフラ事業本部鉄構・防災ビジネスユニットは、橋梁、水門、煙突の3事業をはじめ、海洋構造物事業などで構成される。
 ――業界を取り巻く環境については
 鎌屋 橋梁事業については、20年度は国内発注量が20万t弱で、金額ベースでは約4,400億円規模となった。新設工事は、国土強靭化の動きから大阪湾岸部西伸工事をはじめ、首都圏中央連絡道の4車線化など大型プロジェクトが控えており、中期的には増加が見込まれている。ただ、長期的には大幅な伸びは期待できないとみている。
 保全工事については、インフラの老朽化により、今後も伸長が見込まれる。高速道路会社ではRC床版の取替えなどの大規模修繕更新工事が実施・計画され、増加傾向にある。
 水門事業については、90年代には発注量が1,000億円を超えた年度もあったが、新設ダムの減少に伴い規模が縮小し、現在では民間を含めて年間500~600億円規模で推移している。
 近年、多発する豪雨災害により、水門設備の重要性が再認識され、ダムの再開発工事や中小規模ダムの部分更新、改造・修繕工事が増えつつある。さらに政府が発表した灌漑や利水用ダムの治水活用により、さらに市場の拡大が予想される。
 また、世界的な脱炭素化、カーボンニュートラル化への動きにより、水力発電の効率を上げる動きがみられ、増加が期待される。海外でも、治水事業や水力発電などの利水事業が活発になると予測しており、海外に活路があると見込んでいる。
 煙突事業は、東日本大震災以降の10年間は火力発電へのシフトや耐震補強、大規模修繕、延命工事などで大きく伸長してきた。
 しかし、世界的な脱炭素化や政府が表明した50年度までにカーボンニュートラルゼロによって脱炭素化の動きが加速化している。国内製鉄所の休廃止や新規石炭火力発電所の建設が凍結され、事業の大幅規模縮小が予想される。ただ、既設の煙突もあることからメンテナンス工事や延命化工事で一定量の発注が見込まれる。
 ――防災分野については
 鎌屋 海底設置型タイプとして初受注した岩手県の大船渡漁港向けのフラップゲート式水害対策設備は、昨年12月に完工した。さらに、兵庫県から受注した兵庫県南あわじ市福良港に設置される2号機の現地工事が今冬に始まる予定だ。
 また、陸上設置型のフラップゲート式水害対策設備「neoRiSe(ネオライズ)」は、度重なる豪雨災害などにより、引き合いが多く、機種としてすでに200件近い納入実績があり、現在、改良型の研究開発を進めている。
 ――DXについては
 鎌屋 全社的には18年に遠隔監視、運転支援サービス、IoT、ビッグデータ、AIなどの活用拠点として、Hitz先端情報技術センター(A.I/TEC)を設立している。これを利用し、橋梁、水門、煙突、海洋構造物部門では診断、遠隔監視、運転支援システムなどに適用し、製品サービスの価値を最大化するとともに、革新的な技術開発、サービスの提供、さらに高度な運用サポートを展開していく。


「A.I/TEC」の遠隔監視・運転支援エリア

 ――その他には
 鎌屋 世界全体のインフラ投資額が40年までに90兆ドル見込まれ、そのうちアジアが50%を占めており、最も有力な市場だ。中でも東南アジア、南アジアでは経済急成長に伴う膨大なインフラ需要が見込まれる。特に水門事業関連では東南アジア、アフリカで治水事業や水力発電事業が活発になるとみている。
 また、SDGsについても各機種を伸長させることによって、社会の持続的発展に貢献していきたい。
(聞き手=佐藤岳彦、文中敬称略)

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