道路構造物ジャーナルNET

熊野川河口部に長大PC橋を架設中 すさみ串本道路では22橋施工

紀南河川国道 すさみ串本道路や新宮紀宝道路が最盛期

国土交通省 近畿地方整備局
紀南河川国道事務所
所長

川尻 竜也 

公開日:2021.08.24

 国土交通省近畿地方整備局紀南河川国道事務所は、和歌山県内のうち、御坊市以南の国道42号213㎞の管理を行っている。現道は海岸沿いにあり、塩害などの影響を受けて劣化が進行しやすい他、越波などにより通行規制が敷かれることもあり、また南海トラフ巨大地震時には国道42号線が浸水すると予想されること、その対策として、近畿自動車道紀勢線(紀伊半島一周道路)の建設を進めている。すさみ串本道路や新宮紀宝道路が最盛期を迎えているほか、新宮道路や串本太地道路が事業化されたことから、紀伊半島一周道路で予定されていた事業がすべて着手され、全通に向け前進している。一方で急峻な山岳地で、奈良、三重に挟まれた和歌山県の飛び地である奥瀞では、奥瀞道路Ⅲ期の施工にも着手しており、現道の拡幅工や橋梁下部工の一部、トンネル工事の準備などが進められている。耐震補強や塩害対策など維持管理の話題も含めて、同事務所の川尻竜也所長に詳細を聞いた。(井手迫瑞樹)

紀伊半島一周道路全体の事業着手が完了
 防災・減災など国土強靭化に資する道路

 ――管内の特徴について
 川尻所長 和歌山県内の直轄国道事務所は和歌山河川国道事務所と紀南河川国道事務所の2か所があります。御坊市以南が当事務所です。道路延長は国道42号1路線の213㎞を管理しています。近畿自動車道紀勢線(紀伊半島一周道路)の整備をしていて、すさみ南ICまで整備が完了しています。その先線であるすさみ串本道路の整備を進めています。その先の串本太地道路は平成30年度に事業化したということもあって、まだ幅杭の打設や用地交渉を行っている段階であり、今年度の工事着手を予定しております。
 その先線である那智勝浦道路は平成27年度までに完成しており、熊野川河口大橋などが施工中の新宮紀宝道路(右図、国土交通省公開資料)が最盛期を迎えています。熊野川河口部が県境になっていますので、道路の管理としては、熊野川左岸部の紀宝ICまでが当事務所管内となります。事業化が一番遅かったのが新宮紀宝道路の一つ西側にある新宮道路で、平成31年度に事業化されました。同時期には中部地方整備局が所管する紀宝熊野道路も事業化されました。これをもって紀伊半島一周道路全体の事業着手が完了した状況です。
 もともと現道42号が海岸線沿いを走っており、台風が来れば越波もあり、2年前には波に道路がえぐられて長期間影響を被ったことも生じました。災害に弱く、近い将来に起きることが予想される東南海地震時においては、津波による浸水エリアにかなりの延長がかかっています。地震による落橋が懸念される橋梁もあり、耐震補強も進めていっていますが、将来的に紀勢自動車道ができれば、津波に対するクリアランスも確保し、地震が来ても通行可能な災害に強い道路として建設を進めています。まさに国を挙げて取り組んでいる防災・減災など国土強靭化に資する道路ということができます。

紀南河川国道事務所管内の建設中橋梁一覧(国土交通省提供、以下注釈なきは同)

紀南河川国道事務所管内で建設中のトンネル一覧

新宮紀宝道路 熊野川河口大橋でPC桁の張出が進む
 塩害対策としてエポキシ樹脂塗装鉄筋および被覆PC鋼材を採用

 ――個別の路線について
 川尻 新宮紀宝道路から申し上げます。同道路は、三重県南牟婁郡紀宝町神内から一級河川熊野川を渡河し、和歌山県新宮市あけぼのに至る延長2.4㎞の道路事業です。構造物比率は橋梁が46%、土工部が54%と橋梁の比率が高くなっています。
 現在は主構造物である熊野川河口大橋(仮称、橋長821m、最大支間長123.2m、PC7径間連続箱桁橋、左写真)に関しては、A2以外の7基の下部工を完了し、現在残るA2の施工とPC上部工の張出架設を進めています。上部工は橋梁中間部で分けてA1~ P3・P4中間部を大成建設、P3・P4中間部~A2を前田建設工業が施工しています。河川を渡ると三重県域に入りますが、ここではJR紀勢本線を跨ぐ高架橋や紀宝ICのランプ橋が計画されており、その建設が進んでいます。JR高架橋部はP1、P2、A2の下部工が完了しており、残る下部工及び上部工の施工を行っています。紀宝IC(仮称)OFFランプ橋は下部工が3基中2基、ONランプ橋は2基中1基を完了しています。

JR高架橋部の下部工施工状況(井手迫瑞樹撮影)
 一部盛土区間およびON、OFFランプの上部工が未発注です。
 ――熊野川河口大橋は海に非常に近い位置に架けられている橋梁といえますが塩害などの点で考慮していることはありますか
 川尻 飛来塩分を考慮して、まずPC橋を選定することで防食の負荷を減らしています。また、支承部分の防食に金属溶射を採用することで防食性能を向上させています。コンクリート防食面ではコンクリートかぶり厚を70mm確保するとともに、エポキシ樹脂塗装鉄筋およびエポキシ樹脂被覆PC鋼材を採用しています。

エポ鉄筋などを採用している

橋台部は鋼管ソイルセメント杭、河川内はニューマチックケーソンを採用

 ――基礎及び下部工形式はどのようなものを採用していますか
 川尻 基礎は橋台部が鋼管ソイルセメント杭(HYSCパイル)を用いています。右岸側A1橋台部はもともと貯木場だった土地を埋め立てたため地盤が悪く、摩擦支持による基礎を採用しました。P1~P6は河川部のためニューマチックケーソンを採用、A2はA1と同じく鋼管ソイルセメント杭(HYSCパイル)を採用しています。

P1~P6は河川部のためニューマチックケーソンを採用した

すさみ串本道路 橋梁は22橋約4㎞、トンネルが16個所5.4㎞
沿岸部の市民が津波から避難できるイメージで建設

 ――次にすさみ串本道路の詳細と進捗状況を教えてください
 川尻 和歌山県東牟婁郡串本町サンゴ台~西牟婁郡すさみ町江住間の19.2㎞を事業延長とする自動車専用道路です(右図、国土交通省公開資料)。現在事業は全面展開中です。現道42号から少しだけ山側に入った箇所に計画がされていますので、トンネルを長距離に抜くというよりは小規模なトンネルと橋梁、土工部が入り混じった構造になっています。これより前に建設された紀勢自動車道(南紀田辺IC~すさみ南IC)の区間は、路線そのものを比較的もっと山側にシフトする形で造っていますが、すさみ串本道路は、震災時に生じる可能性のある津波に対して十分な高さを確保した計画で建設しており、大規模災害時において緊急輸送路や一次避難場所としての活用が期待されています。そのため海岸線に割と近く、トンネル延長をわざと少なくした構造にしています。
 構造物は19.2㎞の間に橋梁が22橋(4.0㎞強、22%)、トンネルが16か所(5.4㎞弱、28%)あり、その間に切盛土が点在しています。
 建設は現道42号を使って行うため、現道との間に工事用道路を20本以上作り繋げています。
 橋梁は7橋の下部工が進捗しており、さらに2橋の下部工にこのほど着手しました。トンネルは16個所中、施工中が7個所で、そのうち貫通しているのが4個所となっています。また、アバット付近やトンネルの坑口付近を中心に土工工事も進めています。全体の工程的にトンネルがクリティカルになりますので、その前後の改良を優先しています。

高富川橋下部工の施工状況

里野トンネルの掘進状況

ピア高は熊谷川第二橋が一番高く約33mに達する
 二色トンネルで最新技術を駆使

 ――こうした山がちな地形ですと橋梁はハイピアになることが多いのですが、本事業はどうですか
 川尻 橋梁によってまちまちですが、熊谷川第二橋が一番高く、ピア高はP1橋脚で32.7mに達しています。ハイピアですが、基本的にオールステージングの場所打ちで施工しています。昇降式移動足場や移動型枠は特に使っていません。ただし、工事用桟橋など大規模な仮設構造物を設置しているケースがあります。工事用桟橋は、ハイピアの場合、バケット打ちを行うため上から施工する必要があるため、橋梁と同じ高さに作る必要があります。さらに上部工事にも横取り架設などで使うことを想定して設置しているものもあります。
 ――トンネルの地山は安定していますか
 川尻 そんなに良くはないですが、特別悪いわけでもないです。ただし、貫通している4トンネルについては設計時に想定していた地盤より悪く、補助工法を追加したりしました。
 ――トンネル施工については覆工の自動化や遠隔立合など品質確保と省力化・省人化を両立した新技術が採用される傾向にありますが、すさみ串本道路ではそうした技術を活用している事例はありますか
 川尻 串本町鬮野川地区に建設している二色トンネル工事で清水建設がトンネル覆工の自動化や遠隔立合を活用しています。

二色トンネル工事で清水建設がトンネル覆工の自動化や遠隔立合を活用している

 ――トンネルの工法別個所数と最も長いトンネルを教えてください
 川尻 トンネルは全てNATM工法であり、最長のトンネルは東地トンネルです。延長は833mです。未着手となっています。
 ――橋梁の工種別橋梁数と最も長い橋梁を教えてください
 川尻 鋼、PC橋とも11橋ずつあります。最長は有田川橋で、橋長381mの鋼5径間連続細幅箱桁橋を採用しています。
 ――トンネルの掘進により排出された土はどのように有効利用しますか
 川尻 土工部の盛土や、沿線自治体が主体となって実施している津波避難のための高台整備に活用しています。
 ――山岳地に建設しているわけですが、凍結防止剤の散布は考えていますか
 川尻 冬季には散布することになろうかと考えています。
 ――それによる塩害対策は何か考えていますか
 川尻 端部塗装の厚塗りや支承の防食方法の検討など、対策を施しています。
 ――エポキシ樹脂塗装鉄筋や同被覆鋼材の採用、含浸材の採用は考えていますか
 川尻 エポキシ樹脂塗装鉄筋を採用しています。

ご広告掲載についてはこちら

お問い合わせ
当サイト・弊社に関するお問い合わせ、
また更新メール登録会員のお申し込みも下記フォームよりお願い致します
お問い合わせフォーム