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価格競争から脱却、鋼橋が持つメリットをアピール

橋建協 髙田和彦新会長インタビュー「DXを積極的に推進」

一般社団法人日本橋梁建設協会
会長

髙田 和彦

公開日:2021.07.26

 日本橋梁建設協会(橋建協)の新会長に横河ブリッジ取締役社長の髙田和彦氏が就任した。新設事業が伸び悩むなかで、2020年度の受注金額では保全事業の割合が47%に達した。そのような状況下での協会の方向性、重要なテーマとする「DXの推進」での具体的な取り組み、大規模更新事業での課題などについて聞いた。

持続的発展に尽力 新設と保全の2本柱に
 今年度以降も受注金額4,000億円超を目指す

 ――新会長としての抱負からお願いします
 髙田会長 鋼橋の持続的な発展に会長として尽力します。持続的な発展には数多くの事業を進めていくことが必要ですが、新設事業がなかなか増えていかないという状況のなかで、保全事業の重要性が増しています。満岡次郎前会長は新設と保全の2本柱にしたいと継続して仰っていて、まさにその通りだと思いますので、私もその方向性を踏襲していきます。
 2020年度の会員31社の国内鋼道路橋受注金額は4,363億円で、4,000億円を超えたのは2004年度以来となりますので、今年度以降も継続できるようにしていきます。新設では、大阪湾岸道路西伸部で今後数年間にわたって相当量の発注が見込まれます。新設の増加とともに、保全の事業量を考えると、工事が集中して個社の能力を一時的に超えてしまわないように、協会としてできる限りサポートをしていきたいと考えています。


国内鋼道路橋 発注先別受注量と受注金額の推移(橋建協提供。以下、注釈なき場合は同)

 DXの推進も重要なテーマです。省力化という意味で働き方改革や人材育成においてもキーワードになりますし、発注機関からのDXに対する期待感を非常に感じていますので、重点的に取り組みます。幸いにして、鋼橋分野はDXが割と進んでいると言われていますので、期待に応えられるようにしていきたいと思います。
 さらに、今年も静岡県東部をはじめ全国各地で起きてしまったように災害が非常に多くなっています。防災・減災、国土強靭化は、国としても中心を担う事業となっていますので、協会でもしっかりと対応していきます。
 ――どのようなところが鋼橋分野でDXが進んでいると言われていますか
 髙田 工場製作でのBIM/CIMの活用は以前から取り組んでいました。構造物の3次元化は進んでいると思います。現在のDXはより広範囲なものとなっていますので、その部分を拡げて、世の中のニーズに応えられるようにしていきます。

2019年度発注量13万tの衝撃 影響は現在も続く
 西伸部や4車線化事業などでの発注増を期待

 ――現在の事業環境について、どのような認識をお持ちでしょうか
 髙田 2019年度は国内鋼道路橋の発注量が13万tという衝撃的な数字でした。我々は工場を保有しており、事業継続という観点からは工場運営をどのように行っていくかが大きな割合を占めています。新設橋梁の発注が少なくなれば事業面で非常に厳しくなります。13万tという数字は、工場を維持する点で難しいものがありました。それも単年度で終わることではなく何年か続くことで、現在でも影響が出ています。
 しかし、2020年度は新設と保全を合わせて4,363億円の事業を受注し、西伸部の発注も出てくることを考えると、事業量的には上向きで数年間はそれなりのレベルを維持できると期待しています。その意味では、現在の事業環境は悪くないと考えています。
 ――今年度の見通しについてはいかがでしょうか
 髙田 2020年度の国内鋼道路橋受注量は18万3,257tで、2019年度を除けばここ数年間は20万t前後で推移していました。協会各社もまずは20万tを確保できれば、新設で生き残っていくことができます。西伸部に加えて、4車線化事業や名古屋高速道路のJCT関連もあるので、新設の発注増を期待しています。

合理化橋梁や低価格橋梁の研究は終了
 技術継承、若手技術者育成のために特殊橋の発注を依頼

 ――新設の発注量を確保、増大させるための取り組みは。少数鈑桁橋や細幅箱桁橋の採用に向けての取り組みなども行っていましたが
 髙田 公共事業ですので、我々がマーケットをつくることはできません。発注を増やすためには、発注機関に行ってお願いをすることしか基本的にはありません。
 橋梁の需要としてはPC橋との競争があると思いますが、数年前までは2主鈑桁橋などの提案をして低価格競争を行っていました。しかし、発注量が13万tまで落ち込み、価格だけの世界ではないと考えるようになりました。合理的な構造の橋梁を建設していくのは当然ですが、合理化橋梁や低価格橋梁の研究は、現在協会では積極的に行っていません。
 それよりももっと前向きな形で鋼橋のメリットを発注機関にアピールしています。長支間化が可能であることや、架替えが短期間で行えることなどです。老朽化による架替えは増えてきますし、都市部での特殊な建設環境の事例も出てきます。それらについては鋼橋にメリットがあります。
 また、発注機関にお願いをしているのは、アーチ橋やトラス橋などの特殊橋の発注です。特殊橋を維持管理していくためには技術力がなければなりませんが、それは建設をすることで継承されていきます。若手技術者の育成を含めて、特殊橋の発注を切にお願いしています。発注機関には、長期的に国土を守っていくための施策として必要であると理解していただいております。


気仙沼湾横断橋(東北地方整備局)(弊サイト掲載済み)

新町川橋(四国地方整備局)/妙高大橋架替事業(北陸地方整備局)(弊サイト掲載済み)

DXの推進 「B-MAP」で災害時の橋梁点検の効率化
 リモート検査の要領化やミルシートの電子化も図る

 ――総会での就任挨拶では、2021年度の協会重点活動テーマとして、①鋼橋事業の成長力強化、②鋼橋技術力の進化と継承、③鋼橋メンテナンス事業の推進、④各種リスク管理の下での海外展開の推進――を挙げ、とくに2点目の「鋼橋技術力の進化と継承」ではDXの推進が非常に重要な事項であると述べました。DXの推進について具体的にどのようなことに取り組んでいきますか
 髙田 建設に関するDXは個社が切磋琢磨して行っていくことだと考えています。協会では、業界全体として共有できることについて取り組んでいきます。
 ひとつは、「B-MAP」という橋梁台帳システムです。橋梁情報や位置をオンライン上で表示でき、点検情報もタブレットを用いて現場で入力できます。現在、道路管理者のデータベースとのリンクを目指しています。システム連携により道路管理者もデータ参照が可能となりますので、災害時の橋梁点検の効率化が図れます。


B-MAPの概要

 安全性向上の取り組みも業界で共有できますので、作業員高度モニタリングシステム「SafeTracker」の活用も進めていきます。同システムは、作業員が発信機を装着することで無線を介して高所作業者を検知し、アプリで事務所などにいる監督者が作業状態を一元管理できるものです。安全帯を着用しなければならない高さに達すると、作業員や監督員にアラート通知が送られるといった機能も実装しています。


SafeTrackerの概要

 また、リモート検査が増えてきていますので、鋼橋におけるリモート検査の要領化やミルシートの電子化にも取り組んでいきます。
 協会という立場からは、旗振り役も非常に重要になってきます。私も含めて協会が、「DX、DX」と繰り返し言っていくことが、その推進に欠かせないことだと考えています。
 ――「B-MAP」の進捗状況は
 髙田 プロトタイプは完成しましたので、これからデータを入れていきます。
 ――どのようなデータを投入していくのですか
 髙田 各自治体がお持ちの橋梁台帳にある最新データを反映していきます。協会では建設時のデータしか持っていませんので、点検履歴や補修履歴を入れていかないとデータベースとして完全なものにはなりません。
 ――データベース連携はそれぞれ仕様の問題があるので大変そうですね
 髙田 発注機関のデータベースが統一されていないところがあるので、まだ調整が必要です。国土交通省のシステムがまずあり、鋼橋は当協会、PC橋はPC建協が行うというイメージです。
 ――災害時だけでなく、通常の点検にも役立ちますね
 髙田 橋名や住所が分かっても、実際に橋梁の位置を見つけるのは結構大変です。それが画面上に表示できるだけでも楽になると思います。
 ――協会が開発した「SafeTracker」は稼働中ですが、個社にどのように提供しているのですか
 髙田 各社に案内をしています。
 ――採用事例は増えているのですか
 髙田 現在、実工事の現場での試行を予定しています。
 ――リモート検査の要領化はどのような点から必要だと思いますか
 髙田 検査方法がバラバラですと他の検査では通用しないことも起こり得ますので、整備が必要です。現在、どのオンラインツールで検査を行うのかを調整して始めているのが現実ですし、現場で見せたい画像や映像と検査で見たいものが一致していないことも起きています。また、立会検査では検査官が3人いれば3箇所を同時に検査できますが、リモート検査では1箇所ずつになってしまうので時間が3倍になってしまうという課題もあります。
 ――ミルシートの電子化については
 髙田 書類では膨大な量となり大変です。鋼材メーカーからデジタルデータでもらえれば、形状、材質、成分がすべてデジタル化されますので、それを発注機関提出用の加工情報にするのは簡単にできます。
 ――関連する他団体との連携や検討していることがありましたら
 髙田 日本鉄鋼連盟とはミルシートの電子化について検討を行い対応可能となりました。今後は実用化に向けて引き続き検討を行って参ります。建設コンサルタンツ協会とは定期的な意見交換会を行い、BIM/CIMを中心に課題を検討しています。
 ――今年度から「i-Bridge適用工事制度」を施行するとのことですが、どのような効果を期待していますか
 髙田 制度は協会独自のものですが、業界全体で力を入れているという発注機関へのアピールになります。また最近、発注時の技術提案要件に“DX”のことがよく書かれていますので、業界としてのひとつの対応となると思います。
 適用工事に登録されるためには、協会が決めた要件の一定数を満たさないとなりませんので、レベルの統一化も図ることができます。
 ――現在の登録件数は
 髙田 6月から実施して、7件の申請があり、登録が5件、登録手続中が2件です。
 ――登録の手続きは協会のどこで
 髙田 DX推進特別小委員会のなかのWGで行っています。

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