道路構造物ジャーナルNET

三井住友建設グループ入りのシナジー……大規模更新、複合橋梁などで発揮目指す

三井住友建設鉄構エンジニアリング 松田篤社長インタビュー

三井住友建設鉄構エンジニアリング株式会社
代表取締役社長

松田 篤

公開日:2021.02.10

 三井住友建設鉄構エンジニアリング(旧三井E&S鉄構エンジニアリング)は、昨年10月、三井E&Sホールディングスが保有していた株式のうち70%を三井住友建設に譲渡し、同社のグループ会社となった。三井E&Sグループ内では、ほぼ唯一の公共インフラを諸事業とする会社として奮闘していたが、三井住友建設グループ内に入ったことで、その鋼構造物ファブとしての総合力を、大手ゼネコンでありPCファブのリーディングカンパニーでもある三井住友建設とのシナジーにより、複合橋梁や大規模更新などの分野でも活かしていくことが期待できる。松田篤社長に今後の方針を聞いた。(井手迫瑞樹)

首都高速大黒大橋やレインボーブリッジの工事に従事
 橋梁屋冥利に尽きる

 ――入社後の印象に残っている業務は
 松田 昭和56年に三井造船(株)に入社しまして、橋梁設計部に3年半ほど籍を置いた後、工事部に異動となりました。当時は首都高速道路公団の発注量が多く私も補修工事から大型の新設工事まで多く経験させてもらいました。大型FCで一括架設した高速大黒大橋(4径間連続ダブルデッキトラス橋)や既設桁との取り合い・接合に苦労させられた清新町出入口工事や直下を走る国道246号線の交通規制・安全対策に神経をすり減らした首都高速道路3号線の補修工事(床版端部補強、沓座補修等)等々思い出深い工事は多くあります。
 そんな中で最も印象に残っている工事と言われると、架設計画から現地まで足かけ5年に及んだレインボーブリッジ補剛桁工事です。平成元年都内に事務所を借りJV構成会社6社による詳細設計業務及び架設計画業務が並行して開始されました。各社から派遣されたメンバーは何れも吊橋の経験が無い若い世代(20代~30代)が中心で、不安の中でスタートした当時が思い出されます。
 その後、芝浦側、お台場側にそれぞれJV現場事務所を構え、いよいよ架設がスタートしましたが、当初は架設機材の度重なるトラブルや天候不順に悩まされる日々が続きました。架設開始から中央径間閉合まで8か月半という厳しい工程でしたが、途中からサイクル架設(2パネル面材による張出し架設)もやっと軌道に乗り、何とか当初の予定通り中央径間閉合パネルの架設を終えた時の喜びは格別であり未だに忘れられません。苦労を共にしたJVメンバーや発注者の皆さん、協力会社の皆さんと何度も肩を抱き合い喜びを分かち合いました。
 私はその後も橋梁の仕事に携わり40年近くになりますが、この仕事で得られた財産(経験、技術、人)は計り知れなかったとつくづく感じております。当時のメンバーで現在もお付き合いさせていただいている方がおりますが、お会いするといつも当時の思い出話しに花が咲きます。
 東京港のランドマークとして今も人々から愛され続けているレインボーブリッジの工事に携われたことは橋屋冥利に尽きます。

三井住友建設G入り 類似性が高くシナジーを期待
 新設減少のリスク回避や長大橋技術継承という意味でも大きい

 ――三井住友建設グループの鋼橋ファブとなったわけですが、見込んでいるシナジーについてお答えください
 松田社長 以前に所属していた三井E&Sグループは、船舶、ディーゼル、プラントなど多岐にわたっていました。当社は公共工事を扱っていましたが、そうした部門は三井E&Sグループの中にはほとんどなく、事業を十分に理解することは難しかったと思います。三井住友建設はPCファブとしてトップの業績を誇り、公共事業が柱の一つであります。そうした事業の類似性の高い会社の傘下に入ったことで、シナジーが期待できると考えています。鋼橋ファブとPCファブが合わさることにより、鋼・コンクリート複合橋梁はもちろんですが、今後市場の拡大が予想される大規模特定更新事業や大規模な橋梁保全工事、首都高速道路の日本橋付近地下化に伴う橋梁撤去を含めた改築工事などについて、お互いの強みを最大限活かすことにより、新しい価値を生み出すことが可能になると考えています。
 今回の三井住友建設グループ入りは、減少傾向にある国内新設橋梁市場に対するリスク回避と、長大橋技術の継承という点でも意味があります。
 足元の鋼橋発注量は、2019年度が約13万tと非常に少なく、20年度もどうやら20万tには届かない見込みです。新設橋梁は今後も大きな伸びは見込めず、一方で保全分野が拡大していくことが予想されています。そうしたリスク回避を見据えて、国内だけでなく、海外橋梁についても積極的に取り組んでいくつもりです。

施工例:名二環 春田野高架橋

施工例:名二環 梅之郷北第三高架橋
 海外橋梁は三井E&S鉄構エンジニアリング時代から、ベトナムやスリランカなどで計画・製作・施工に携わっています。一方で三井住友建設は海外で卓越した実績を有しています。事業協力や人材交流も含めて実施していきたいと考えています。
 長大橋は、今後大阪湾岸道路西伸部や下関北九州道路などで斜張橋や吊橋など特殊な形式を用いた鋼橋が発注されるようですが、昔の本四架橋や高速道路網の整備などのレベルの発注量は見込めません。長大橋の技術を継承させるためにも、海外橋梁にチャレンジするということは重要であり、それを考えても三井住友建設グループ入りは良かったと考えています。
 ICT関連技術や研究開発分野におきましても、今後シナジーが見込めると期待しています。
 ――三井住友建設グループ入りという話は、水面下で長く折衝されていたのですか
 松田 いいえ。少なくとも岩城橋(下写真)を受注した(三井住友建設・昭和コンクリートとJVを組んで半分の径間を建設している)3年前はありませんでした。ただし、三井E&Sグループの工場建屋等を三井住友建設に建設してもらうなどの関係はありました。
やはり、旧所属グループの経営状況が後押ししたという側面は否めません。当社自体は近年、それなりの黒字を出していましたから。

三井E&Sグループとは今後も関係を保つ
 昭島研究所の実験設備やレーダー探査技術

 ――三井E&Sグループとの関係は
 松田 当社の株主比率は7割が三井住友建設ですが、3割は依然、三井E&Sグループが保有しています。関係は続いています。三井E&Sさんは株式会社三井造船昭島研究所という子会社を有していますが、その風洞実験や水槽実験設備を上手く使っていきたいと考えています。風洞実験設備は長大橋梁を計画する際の重要な装置でありますし、水槽実験設備は、当社の事業の柱の一つである浮体構造(ポンツーン)など沿岸構造物事業の技術開発のツールとして重要です。
 また、三井E&Sマシナリーが有するレーダー探査技術(床版の損傷や路盤地下空洞などの有無を計測)や原発廃炉に関して当社が施工面での技術支援を行うと共にその検査計測技術を活用していく関係を継続していきます。
 ――御社子会社のドーピー建設工業はどのような扱いになるのでしょうか
 松田 三井住友建設と業態がラップしますので得意エリアなどで棲み分けを図るなど、調整している状況です。

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