道路構造物ジャーナルNET

疲労による損傷、環境要因による損傷

床版の劣化と最適な対策をなすためには

大阪大学名誉教授
大阪工業大学教授

松井 繁之

公開日:2015.01.01

 NEXCO3社や首都高速道路、阪神高速道路などで筆頭の対策部位の一つとして挙げられるなど、橋梁の中でも床版に注がれる視線が今まで以上に熱くなっている。桁の上に位置し、舗装を支え、その性能が走行安全性などにダイレクトに影響する床版――その構造を長年研究し、コンクリート床版に与える水の影響にいち早く気づき、松井式をはじめとしてその損傷メカニズムを解明し、床版の耐久性向上に大きく寄与してきた大阪大学名誉教授の松井繁之氏(大阪工業大学教授)に新しい知見を交えながら「床版」の詳細について聞いた。(井手迫瑞樹)

水がRC床版の疲労損傷に大きく影響
100倍程度速く破壊に至る

 ――床版損傷メカニズムから
 松井 昭和39年道路橋示方書で設計したRC床版が建設後4、5年で局所陥没事故を発生したことに端を発して、昭和45年頃から床版の疲労損傷の議論が始まりました。当時の議論では、原因として材料・施工の問題と疲労の2説に分かれましたが、私は疲労の側に立ち議論を進めていました。議論を通じて、実橋では自動車が走り抜けることに起因するということに思い至り。板構造解析の第一人者であった岡村宏一教授(大工大)に相談した結果、移動によって配力鉄筋断面に交番断面力が作用するのではないかと合意に至り、今では広く知られている輪荷重走行試験機(ゴンゴロ)を造り、床版実験にこぎつけることができました。
初めての実験では、床版上面にすぐにひび割れが入り、失敗したのではないと心配したが、数枚実験しても同様の結果となり、これが走行する輪荷重による交番断面力が発生し、床版上面でも主鉄筋方向にひび割れ、下からの曲げひび割れとドッキングして貫通ひび割れとなるとともにひび割れ面の摩耗が早い速度で発生するためと納得できました。
しかし、これでも実橋に比べて20倍ぐらい長い寿命があると計算されてしまいます。この違いに悩んだ末、思い立った原因が雨水による損傷の加速でした。これまでの陥没破壊した床版ではほとんどが遊離石灰の沈着を生じており、また、劣化したと思われる床版では漏水が局所的に伴っていることを着眼し、床版上に薄く水を張って輪荷重走行試験を行いました。その結果、乾燥状態の80万回持ったものが僅か2万回程度で床版上面が砂利化して押し抜きせん断破壊してしまうことがわかりました。実験結果を平均すると実に100倍程度早く破壊しました。つまり床版の損傷は大きな輪荷重になっている大型トラックが多数走り抜ける特有の疲労現象であり、それに雨水が舗装を通じて床版上面のひび割れに浸入し、押し抜きせん断破壊が加速されるためであると破壊プロセスをまとめることができました。非常に口幅ったいもの言いかもしれませんが、床版の疲労劣化が水によって加速されるということを僕が初めて実証したわけです。この成果やその後の研究を経て、平成14年の道路橋示方書から床版全面に防水工をしなさいということになりました。そしてより一層の具体化が日本道路協会の道路橋床版防水便覧(平成19年)であり、NEXCOの構造物施工管理要領におけるグレードⅡ(高性能床版防水、平成24年)なわけです。


         アスファルト系防水工法               ウレタン樹脂系高性能防水

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