技術開発の拠点を
首都高速道路技術センター内に
――以上を鑑みると首都高速道路は今まで以上に維持管理に力を注がねばならないと考えます。そうした中、インハウスエンジニアリングの能力強化をどのように図っていきますか。また、人材の効率的な配置や育成能力の強化を両立すべく、旧国鉄の構造物設計事務所のようなヘッドオフィスは作らないのですか。東京都市大学の三木教授は旧首都高速道路公団時代に機能したスペシャリスト組織集団の例として鋼構造物疲労対策チームを挙げておられますが。
安藤 限られた資金・人材をグループ全体として効果的に活用すべく、必要な予算と技術者をグループ内で集約した専門組織の確立は急務であり、具体的な検討を始めています。基本的には鋼構造物疲労対策チームと同様、(一財)首都高速道路技術センター内に技術的中枢を担う人材を集めて、技術開発や調査・研究などを専属的に行ってもらおうと考えています。
技術者育成の基本的なイメージは、一言で言えば「T型エンジニア」の育成です。縦軸である専門技術力をベースに横軸である仕事力を兼ね備えた技術者の育成を目指します。
T型エンジニア
T型エンジニアを育成
あくまで専門技術力がベース
――もう少し詳しく展開してください。
安藤 人材育成は「首都高エンジニア育成プラン」に基づき進めていきます。基本はスペシャリストの育成です。イメージでは純粋な技術力を縦軸、マネジメント力を横軸にしていますが、イメージ通り、技術者はIからTへ進化してほしいと考えています。よく若い人はどうしたら横幅(マネジメント能力)を身に着けられますか、と聞いてくることが多いのですが、それは間違いです。
まず、基礎形成期として大学卒業後10年間は首都高エンジニアとして必須の基礎技術力を身につけさせます。その上で次の10年間で各人が得意分野について技術を深掘りしてもらい、自信を持つ専門分野を確立してもらいます。そうした人材がポストを経験していけば、自分の得意分野で培った説明能力を生かし、内外との折衝能力などを身に着けた真にマネジメント能力――我々は「仕事力」と呼びますが――を有するリーダーが育ってくると考えています。
もちろん真のリーダーは一握りでしょう。しかしリーダーにはなれなくても(入社後10~20年に培った)技術の研鑽は「この分野ではやれる」という自信を各技術者に与えます。そのために橋梁、トンネル、舗装の計画、設計、現場管理、点検――など、入社後10~20年目の期間はある一定の工種に絞る形で、経験を積ませています。そして得意分野については、仕事を確実にこなしつつ後輩を育てることのできる人材にする。これが首都高の技術者育成の目標です。
――そうした技術力向上のための具体的な施策は
安藤 若手エンジニアを対象にした基礎技術力の向上としては、職場内教育(OJT)を軸に職場外教育(Off-JT)と自己研鑽を加えた三つの方策を総合的に推進しています(主な取り組みは下表)。
また、専門技術力、仕事力(業務遂行力)を向上させるため、土木学会や日本コンクリート工学協会、鋼構造協会など各学協会への委員派遣(平成25年度は173委員会に220人が参加)や論文発表(同70件)、グループ共同研究を始めとする研究活動の実施、社内のVE実践活動(その成果として平成23年度に「マイルズ賞特別賞」(日本バリュー・エンジニアリング協会)を受賞)などを行っています。
――目に見える成果は。
安藤 補修能力の向上です。平成24年度までの補修件数は年間4万件台強で推移しており、損傷発見件数を下回っていた結果、累積損傷件数が増加する事態を招いていました。そのため体制を強化し、現在は年6万4千件の補修ができるまでに能力が向上しました。もちろん人員、補修技術の増強がなされたことが一番大きいとは思いますが、一人一人の能力向上の成果も見逃せないと考えています。