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シラン系含浸材噴霧前、噴霧の手法を工夫

大阪モノレール 軌道桁の長寿命化進む コンクリート桁45000m2にシラン系含浸材を噴霧

公開日:2020.12.02

 大阪モノレールは、2015年から跨座型モノレールのレールであるPC軌道桁の長寿命化に着手している。施工方法としては、ひび割れ箇所に対して注入工による補修を施した後、工作車に牽引された専用作業車で軌道桁の上面と側面を清掃し、さらに後日工作車に設置されたノズルフレームでシラン系表面含浸材を噴霧するもの。専用作業車に工夫を凝らして清掃時の塵芥の桁下への落下を防ぎ、噴霧方法を改良することで飛散及び桁下への滴下、含浸材の噴霧回数の低減、含浸深さの向上を達成した。その現場を取材した。

専用清掃車の設定を工夫
 鉄骨によるフレーム構造(スケルトン構造)を採用

 大阪モノレールは、5回にわたる延伸を行い、路線延長は28.6kmに及ぶ。1990年6月1日に開業して以来、今年が30周年に当たる。既に約22km分(桁延長約44km)で施工を完了しており、今年度は公園東口駅~彩都西間4.6km(同9.2km)と淀川左岸~門真市駅間1.2km(同2.4km)、合計約45,000㎡でシラン系表面含浸材を噴霧する長寿命化工事を施工している。

 大阪モノレールのPC軌道桁は、ポストテンション方式の中空桁である。桁の可搬性や下部工への影響を考慮したものであり、桁の1スパンは22mとなっている。損傷は桁端部に0.2mmから最大1.5mm程度のひび割れが出ている。部分的には亀甲状のひび割れが生じている。大阪モノレールはPC軌道桁を自前の製作工場で生産していたが、「その際は、今回原因となった粗骨材からASRが生じることが確認できなかった」(同社)。ひび割れについてはアクリル系の樹脂注入を行い、その上でASR対策のため水の浸透を抑制すべく、シラン系表面含浸材を塗布する。今回はシラン・シロキサン系を主材とするジェル状の表面含浸材『アクアシール1400H』を採用した。

 含浸材噴霧にあたっては、その前処理として、含浸材の浸透を阻害する桁表面のコケなどを除去しなければならない。そのため、工作車に清掃用の専用作業車を連結し、その車内に配置した特殊ブラシで桁上面と側面のコケや汚れなどを除去した(右写真及び図、大阪モノレールなど提供)。除去した塵芥が桁下の大阪府道2号線(中央環状線)や近畿自動車道、中国自動車道などに落ちないようにする必要があった。また、最小半径R=50mを走行可能であること、工作車の牽引制限荷重が3t以下であること――などが求められた結果、専用作業車には鉄骨によるフレーム構造(スケルトン構造)が採用された。専用作業車の側面及び桁と専用作業車の隙間の下面にはパネル及びトレイを設けて塵芥を受け止めながら施工した。トレイの下面はブラシのようなもので構成され、桁の変化に柔軟に応じつつ、隙間を作らないように工夫されていた。また、同様に桁変化に対応するため、側面部の案内面と安定面のブラシは、偏倚量があるのでバネを設置し、確実に塵芥を除去できるようにした。清掃時の速度は時速5kmで、き電停電から送電(0時半~4時半)までの間に移動、準備、撤収および施工を行う。塵芥除去工は、対象区間を2往復(4回ブラッシング)、1日に約2kmずつ施工していった。また、回送時は時速20kmで走行した。
 清掃における人員体制は6人。具体的には、作業員3人が専用作業車に乗り、工作車には発注者の操縦者と前方監視員、元請の施工管理者1名が乗り込んで施工した。

車庫内での状況、駅舎内での清掃状況、駅舎間での清掃状況(井手迫瑞樹撮影)

含浸材はアクアシール1400Hを採用
 工作車に噴霧用設備(ノズルフレーム)を組み込む

 次いで、清掃工を完了した11月上旬からは、含浸材噴霧工を施工している。清掃工同様に深夜のき電停電が可能な4時間と施工時間は限られている。
 シラン系表面含浸材は、基本的に刷毛やローラーで手塗りすることが多く、メーカーもそれを推奨している。しかし、モノレールの軌道桁への噴霧に際しては、時間的制約から足場などを組む余裕もない。高所作業車での施工も桁下条件から難しい。
 そのため、①塗布回数を少なくできるシラン系表面含浸材の採用、②飛散量の削減及び塗着効率の向上が求められた。表面含浸材に関しては前述通り、アクアシール1400Hが新たに採用された。
 さらに噴霧作業については、工作車に噴霧用設備(ノズルフレーム)を組み込み、工作車に材料および噴霧用の動力を積んだ運搬車を連結することで効率的に噴霧していく方式とした。同工法は大阪モノレールが考案し、鹿島建設が桁側面のノズル位置を段違いにするなど改良していった。
 工作車(機構は右図)を見ると、スプリンクラーで使うようなパイプフレームにノズルを全部で10本(軌道桁上面に2本、軌道桁側面に片側4本×2)配置している。ここから、0.8~1.7MPa、噴霧量50~100g/m2(3回合計250g/m2)、発射角90°で含浸材を繰り返し噴霧していく。
 含浸材の材料選定にあたっては、事前に彩都西駅の過走防護区間にて試験施工を行い、含浸材の滴下、塗着効率、適正吐出量やコンクリートコア採取による含浸深さを確認した。これらの結果を踏まえ「アクアシール1400H」を採用した結果、1箇所当たりの噴霧回数は4回から3回に減らすことができ、施工日数を25~30%短縮できる見込みだ。桁下への含浸材の滴下も、ほとんどないことが確認できた。

ダクトの横に作業員が載るイメージ/引き込み線からの発進(大柴功治撮影)
 施工に際しては、ノズルで決まった量を噴霧しなければならないので、液溜まりが生じないように気を付けた。フェールセーフとして吸い込みダクトを装着しているが、材料自体と噴霧量、ノズル間隔を空けることで液溜まりを防ぎ、滴下しないようにした。また、運搬車が先頭で工作車を後方に連結。「吹き逃げ」で施工している。吸い込みダクトは一番後方に設置されている。ダクト途中にはフィルターを配置して、吸い込んだ含浸材を吸着することで空気のみを排出するようにした。

彩都西駅での施工状況(大柴功治撮影)

駅間での施工状況写真/施工後のモノレール桁(大柴功治撮影)

 その結果、施工品質も向上した。含浸深さは3mm以上と定められているが、実際には6~8mmにまで達していることがコンクリートコアの採取で確認された。含浸材は含浸深さに比例してその効果が長持ちする傾向にあり、より長期の耐久性向上が実現されたといえる。他のモノレール事業者の長寿命化対策にも援用することができそうだ。
 元請は鹿島建設。(2020年12月2日掲載)

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