道路構造物ジャーナルNET

道示波に基づいて耐震性能を把握、対策を立案

大阪府 田尻スカイブリッジの大規模耐震補強が最盛期

公開日:2020.12.16

P6橋脚部は補強前に鋼矢板による仮締切
 硬質地盤クリア工法を併用して鋼矢板を圧入

施工
 まずはP6橋脚部の施工である。橋脚は先述した通り、田尻漁港の水域内部にあるため、RC巻立て補強を行うためには、まず鋼矢板による仮締切を行わねばならない。そのためには最大120tから、50t、4.9tのクレーン付台船を使用して鋼矢板を水上から打ち込んでいく必要があった。しかし、仮締切施工が始まったのは2019年10月、P6橋脚は西側が海に面した田尻漁港の出入口にあるため、冬季には西からの強風と、それに相俟って押し寄せる高波の影響で「台船の稼働率が非常に厳しかった」(鹿島建設)。また、P6橋脚付近には導流堤が存在するが、その被覆石の一部が、鋼矢板の打設予定地の想定外の深さに存在していた。こうした地中障害物により、当初予定していたサイレントパイラー工法のみでは鋼矢板の圧入ができないことから、硬質地盤クリア工法を併用して鋼矢板を圧入していった。仮締切内部の掘削深さは、水面(H.W.L)から約8.7mに達する。仮締切内部の水位を低下させた際、鋼矢板打設時に、地盤が一部乱れたのか、海底の湧水があり、薬液注入を施した上で、掘削を行った。仮締切着工から掘削完了まで実に約1年を要した。


硬質地盤クリア工法を併用した鋼矢板圧入及び仮締切状況

スルーサーAを活用することで巻き立て途中の切梁の盛り替え作業を不要とした(井手迫瑞樹撮影)

 施工に際しては、塩害防止のため、RC巻立てにはエポキシ樹脂塗装鉄筋を採用している。巻立てコンクリートの打設は、台船上や桁から搬入は難しいため、P7側から約240mの長さを配管して圧送し、施工している。そのためスランプは18cmと軟らかめにした。

P6橋脚の鉄筋配置状況/P7側から約240mの長さを配管して圧送

主桁補強の足場に『ラック足場』を採用
 トラスで1段補剛することで足場の吊り間隔を拡大

 主桁下面繊維シート補強のための足場は、米山工業の移動式吊足場『ラック足場』を採用した。桁下に常置の吊足場を設置すると、出入りするヨットのマストが干渉して航行が不可能になるためだ。ラック足場は桁横にレールを敷設してその敷設範囲を自由に移動できることが特徴で、今回の足場延長(橋軸方向)は3.6m、最大積載人員は8人。レールを敷設するには支点が必要で、当初は桁の斜ウエブにあと施工アンカーを設置してレールを敷設する計画だった。

ラック足場を現場に合わせて改良した
 しかし「主桁にアンカーを打ち込むのは、長寿命化の観点からも極力避けたい」(鹿島建設)ため、今回は高欄を挟み込み地覆を噛むようなアングル材を設け、それを支点にしてレールを敷設することで、主桁を傷めずラック足場を設置することができた。また、レールを斜ウエブ支点から地覆高欄部にしたことで、足場の吊り間隔は当初の20.5mから26.4mに拡大した。そのためラック足場の中央部にトラス部材を一段多く組むことで剛性を高め、実物大の載荷実験を行って安全性を確認した上で本工事に適用した。この実験を経てラック足場は吊り間隔29mまでの広幅員対応が可能となった。同足場を用いることで、主桁下面の繊維シート補強を安全かつ、桁下航行を阻害せず施工することが可能となった。

主桁レール設置状況/足場吊上げ状況

主桁下面の繊維シート補強施工状況

主桁下面の繊維シート補強を安全かつ、桁下航行を阻害せず施工できた(井手迫瑞樹撮影)

繊維補強シート設置完了状況

交通を止められない……片側通行規制などをしながら防護工を設置
 主塔部足場にはYTロック+IQシステムを採用

 次に、主塔補強の施工である。田尻スカイブリッジの交通量は1日32,400台に達する。また大型車混入率も約2割と多い。供用を一時的にせよ止めることは難しいため、主桁上にトンネル状の防護工を作り、さらにその上に主塔を囲むような足場を設置した上で補強工を進めることにした。
 防護工は主塔を中心に延長約59m、高さ約7mの構造とした。部材は基本的にH鋼と覆工板を用いている。斜張橋の中央分離帯を部分的に撤去して、上下線を車両が行き来できるようにし、3車線を作業ヤードとして占用し、1車線を片側相互通行にして25tラフタークレーンを用いて防護工の設置を進めて行った。通行する車両への影響を最小限にするため、3車線規制による作業は、23時30分~翌朝5時に限定して行った。

桁上に設置されたトンネル状の防護工

防護工を上から見る(井手迫瑞樹撮影)
 主塔を囲む足場はタカミヤ製の2種類の足場を上下組み合わせた。下部23mはYTロック、上部46mはIQシステムを用いた。YTロックは「人力で組立解体ができ、工具も不要な構造であり、支柱間隔を短くして、ブレース材を多く入れることで、足場というより上のIQシステムや補強材の搬入や人の移動を補助する工事用エレベーターの荷重を支えるためのベント的な意味合いで採用した」(鹿島建設)。

足場の組立状況①

足場の組立状況②
 IQシステムはくさび結合足場で組みやすく、「構築した足場の階層ごとの高さは1.9m、支柱間隔は約1.1mで、隙間もない仕様になっており、足場の中を快適に移動、施工できることから採用した」(同)。足場の構築は昼夜兼行で行い、約1月半で組み上げることができた。

足場の組立状況③(YTロックが下段側約23m、IQシステムが上段側約46mに配置されている)
 主塔部は点検用のタラップが設置されていたが、シート補強の際の阻害要因になるため、一度撤去し、補強が完了した時点で再設置する。

 現在(10月中旬)、主径間部については、P5の補強が完了し、P7もRC巻立が完了、P6についてはRC巻立てが始まっている。主桁は大阪側(右岸側)の補強が完了しており、和歌山側(左岸側)の補強を進めている。主塔部は横梁も含めシート補強が最盛期を迎えている。

P5橋脚のRC巻立て補強完了状況/P7橋脚の繊維シート補強
 今後は、せん断ストッパー及びブラケットの製作を行い、順次設置していく。

ブラケットの設置準備工(井手迫瑞樹撮影)
 最盛期には元請側技術者9人、技能者約80人が耐震補強に従事している。
 補強後、足場を撤去する前には、ロープアクセス(特殊高所技術)を利用した橋梁点検を行う。

 設計はパシフィックコンサルタンツ中央復建コンサルタンツ。耐震補強工事元請は主径間(P5~P7)が鹿島建設。右岸側側径間(A1~P5)がショーボンド建設。左岸側側径間(P7~A2)が松蔵金属工業。主径間部の下請は繊維シート補強および支承補強がカジマリノベイト、RC巻立てが関口建設、主塔防護工、主塔足場、主塔付属物撤去・復旧などが共栄、P6橋脚の仮締切工が寄神建設。(2020年12月16日掲載)

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