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河積阻害率を抑制し、景観性を確保

兵庫県 城崎大橋架替事業は下部工・上部工が今後最盛期へ

公開日:2020.07.06

 兵庫県が計画する城崎大橋架替事業は、下部工の施工が進み、上部工も建設が緒に就いている。同橋は神戸大学名誉教授の川谷充郎氏を座長にした設計検討委員会を組織し経済性、施工性、環境性、景観性及びボート競技への配慮など8つの要求性能を鑑みた上で、PC6径間連続箱桁形式を採用した。橋長は561.5m(幅員は11.25m)に達するが、河川のみを跨ぐ県管理橋梁としては最長となる。上流にある現城崎大橋は、橋長237.5m、幅員4.5mの23径間単純鋼桁橋で、昭和31年に架設された。供用から60年以上が経過し補修対応が難しく、重量荷重が10tで大型観光バスなどの離合が困難である。また、径間長が10m程度であり基準径間長を満足しておらず、河積阻害率が著しい(11%程度)ことから、架け替えを選択した。同橋は、桁高の高さを橋脚間でリズミカルに変化させ、城崎温泉への新たなゲートウェイに相応しいシンボリックなデザインとしている。中央支間長を96m、側径間部を88.7m、88.8mとしている。上下部工ともコンクリートの圧送が難しく、施工に工夫が必要な同橋の現場を取材した。(井手迫瑞樹)


左図:新橋と旧橋、橋長も支間長も圧倒的に違う(兵庫県提供、以下注釈なきは同)
右写真:車両同士のすれ違いも厳しい(井手迫瑞樹撮影)


旧橋。支間長が短く河積阻害率が高い(井手迫瑞樹撮影)

城崎大橋架替え橋の平面図および側面図、断面図

桁高支間比を1/15程度に設定 斜めウェブも採用
 遠景ではスレンダーさを醸し出す視覚効果

形式の選定
 橋梁選択に際し、斜張橋など様々な橋梁形式案があった。斜張橋は、スパンを飛ばすには合理的だったが、近辺がコウノトリの繁殖地で、主塔やケーブルに衝突することを避けるため見送った。また、上部工荷重を軽くするため鋼橋にする案もあったが、橋脚を1基多く配置しなければならず、河積阻害率や工期の面に加え、同橋が架かる円山川で行われるボート競技の支障となることからデメリットが多い。さらに、複雑な鋼構造よりもシンプルなPC桁の方がよいという意見もあったことから、最終的にPC箱桁を採用した。同形式はシンプルな反面、桁高が高くなり、圧迫感を与える。中央支間長は96mであり、一般的な桁高支間比程度の1/18より高めの1/15程度に設定している。側径間が中央径間に対し、張出しバランス的に長く構造的に厳しい状況である。そのため、側径間の施工では非出水期に支保工で施工することと、高強度材料(σck=50N/mm2、通常の1.2倍の強度を有する高強度PC鋼材)を使用することで対応している。また、斜めウエブを採用し、景観だけではなく死荷重軽減効果も考慮している。さらに桁に影が出るため、遠景ではスレンダーさを醸し出す視覚効果が期待できる。


橋梁イメージ

流況解析をもとに、橋梁と橋脚の斜角を86°に設定
 P2~P5の4基は、鋼管矢板井筒基礎を採用

 下部工は逆T式橋台、柱式橋脚を採用している。地盤は河川堆積物が多く、軟弱な粘土層と砂層が重なっており、基礎地盤となる砂礫層や基盤岩までは最長で54mの杭を入れる必要がある。付近の標高は海抜1~2mであり、河川にはほとんど勾配がなく、潮汐の関係から現場は海水が常時入ってくる状況である。橋脚は規模が大きいため、1渇水期での施工は難しく台風シーズンの出水期に締切りを残したまま迎えざるを得ない。そうしたことから河川部に位置するP2~P5の4基は、基礎に河積阻害率を一番小さくできる鋼管矢板井筒基礎を採用している。また、P1基礎は鋼管杭、橋台部は回転杭を採用し、φはいずれの杭も800mmで、杭本数最大はP2とP5の92本、杭長最長はP4の54mとなっている。
 また、同橋の橋脚は、流況解析をもとに、橋梁と橋脚の斜角を設定している。過去に伊勢湾台風や第二室戸台風、昭和51年台風17号、平成2年台風19号、近年では平成16年の台風23号などで同橋近傍を含む円山川沿いは大きな被害を受けている。平成16年の台風23号洪水では現在P1を建設する中州部分が水没した。同橋の建設予定地は河口から約2.6kmの感潮区間であり、右岸側には楽々浦湾(ささうらわん)があるなど平面的に複雑な地形となっている。河口からー0.2km~4.8kmまでの区間で平成16年の台風23号洪水を再現した上で、橋脚設置の影響を流況解析によって把握している。その結果、河積阻害率を4.94%(<5.0%)に抑えられ、流速も大きく変化しない橋梁と橋脚の斜角を86°に設定している。

下流に港大橋があり大型の起重機船や台船は運用できない
 河川内の鋼管矢板井筒基礎は台船施工を選択

基礎工/下部工
 河川内の鋼管矢板井筒基礎は、取り外しに時間がかかる作業構台ではなく、台船施工を選択している。台船は150t~1,500t(合番機を載せるための台船が800tと1,500t、材料運搬船が150tと300t)のものを使用し、台船上には合番機のクレーンを載荷している。メインの200tクローラークレーンは、陸上でユニフロート55隻を四角状に並べてその上に載せ、鋼管矢板やその後の橋脚施工を行っている。ユニフロートは1隻2.5×5m程度であり、それを連結している。大きな台船を持ってくることができなかった理由は、下流にもう一つ橋があり(港大橋)、それを潜ることができなかったためである。同様の理由から起重機船を使うことも不可能であった。

 河川内橋脚の鋼管矢板の施工は、約40mまではバイブロハンマーで、その後は支持層が岩盤であればエアリフトで鋼管内の土砂を上げて、ダウンザホールハンマーで岩掘削し、最後は油圧ハンマーで打ち止めの長さまで打設する。陸上部は鋼管杭を採用しているが、付近の住宅や施設への影響を抑制するため、騒音や振動が少ない全旋回のオールケーシング圧入工法を採用している。


約40mまではバイブロハンマーで施工

ダウンザホールハンマーで岩掘削

施工が完了した鋼管矢板井筒基礎

橋脚施工にREED工法を採用
 埋設型枠にはSEEDフォームを使用し耐久性を高める

 次に橋脚の施工は、工期短縮を企図して、REED工法を採用している。同工法は埋設型枠を使用しているため脱型の手間が無く、さらに埋設型枠にはSEEDフォーム(約70N/mm2の高強度モルタルにビニロンファイバーを混入した埋設型枠)を使用しており、緻密であり防食性に優れている。



REED工法の施工(SEEDフォームを使って工期短縮、鉄筋も裸鉄筋で良くなる)

長大なポンプ圧送距離

 次にコンクリート打設は、BBでスランプは圧送しやすさを考慮して18cmとし、水セメント比は54%を採用している。当初はスランプ8cm、骨材40mmの設計だったが、「配管打ちはとてもできないと判断した」(前田・寄神・宮本・西山JV)。その品質を確保するために高性能AE減水材や膨張剤を使用し、単位水量を連続測定している。一番苦労した点は、打設現場との距離である。設計では台船にアジテーター車を積んで現場まで運び打設する計画であったが、同橋の基礎及び橋脚工は規模が大きく打設量が多い(例えばP5は頂版コンクリートだけでも1,500m3)。設計の打設計画では、1日あたりの打設量が少なくなり、打継ぎ目が多くなってしまうため、連絡ポンプを台船上に配置し、陸上からポンプ圧送した。一番陸上からの距離が遠いP3は、実に135mをポンプ圧送し、1日当たり250m3を打設した。当初スランプ18cmでも、圧送距離が長いP3では実に到達時には10cmまでロスしており、「閉塞の危険と絶えず隣り合わせの厳しい現場だった。圧送時は4人で監視しながら慎重に施工した」(同JV)。打設の際は8tのポンプ車を台船上に設置し、台船を4隻並べてその上に配管し打設するなど、まさに困難な施工であった。


P5橋脚へのコンクリートの圧送と打設状況


P3橋脚のコンクリート打設状況(実に135mもの距離をポンプで圧送した)

当初スランプは18cmに設定しても……/スランプは10cmに

打設後の養生状況

 現在は、P1、P3、P5、A2が完成し、P2、P4、A1を施工中だ。


下部工最盛期の全景写真、画面上側が港大橋。これがあるため起重機船が使えなかった

施工中のP2橋脚とP4橋脚、完成している橋脚はいずれもP3橋脚(井手迫瑞樹撮影)

完成済みのP1橋脚とP5橋脚(井手迫瑞樹撮影)

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