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-分かっていますか?何が問題なのか-㉓予想しなかったプレストレストコンクリート橋の欠陥と業界の体質(その2)

これでよいのか専門技術者

(一般財団法人)首都高速道路技術センター
上席研究員
髙木 千太郎 氏

1. 葛藤した床版が抜け落ち事故の公表

 PCT桁橋の間詰床版に着目した現地調査を進めていて、これでは安全確保はできない、ダメだと思うようになった。なぜか? それは、確かに間詰床版の起こっている変状(ひび割れ発生、遊離石灰析出、漏水など)を把握することはできる。しかし、それが間詰床版抜け落ち予測には繋がらない。前号でも述べたが、どうしても、PCT桁間詰床版に関する構造変更について、PC技術者から納得のいく説明が無いことが頭から離れない。どう考えても、桁側面にテーパーを付けたり、補強鉄筋を入れることは工事費(製作費)アップとなるはずだ。安全と言える構造に関して請負業者側が構造変更を提案したら、工事費用アップ(PC桁製作費や補強鉄筋配筋費など)を発注者が認めるのであろうか?当初設計に無い構造に変更する、過大設計と捉えられる変更案を認めるかである。私が発注者側であれば、それは『NO』である。


 連載第7回で紹介した胡座型モノレールPC軌道桁・支承部周辺のコンクリート欠け落ち事故、事故発生前から行われていた炭素繊維補強がこの事例にあたる。これは、写真‐2で確認すればお分かりのように胡座型モノレールPC軌道桁の大型支承箱抜き構造はかぶり厚が薄く、写真‐3に示すように、ひび割れ損傷が発生する弱点となっているのを分かっていたにも関わらず、対策を行っていなかった。しかし、大量施工すると弱点部がより顕著になり、以前紹介したように当該部分が欠け落ちるため、請負会社として炭素繊維シート(写真‐4参照)による補強を行わざるを得ない状況となった。私の知っている施工業者は、設計変更を発注者に提案したが設計変更は認められず、施工会社の自己負担となったのが真実だ。最も悪いのは、この事実を発注者ぐるみで隠ぺいしていたことだ。

 これについても、機会があれば詳細に説明をするが、確かに、供用中のPC軌道桁を数多く調査したところ、炭素繊維補強されていない箇所には亀甲状のひび割れが発生していた。間詰床版の抜け落ちも不思議だ、A建設技術者の説明が何か可笑しい、組織ぐるみで私に何か隠している・・・。以前PC構造について学んだ時、内部ひずみによって発生する応力度が荷重作用によって、発生する応力度を打ち消すアーチ作用も広く捉えればプレストレスとの考え方を聞いている。間詰床版とPCT桁を一体化させるために、PC鋼材を使って橋軸直角方向にプレストレッシングしているのである。ここで、当時他の文献を調査して分かったことがある。それは、上フランジ側面に新たに設けたテーパーは、場所打ちコンクリートの乾燥収縮によってひび割れる変状に対し、講じる安全処置との記述である(ひょっとしたら記憶間違いかも:コンクリート橋の設計・理工図書出版?)。分からないことはやはり確かめるべき、との考えがついに頭をもたげ、実橋のプレストレス測定が必要との考え方が生まれた。PC構造に関する知識が少ない頭で、何故抜け落ちるのかについて、種々な資料を基に考え、どのように進めるかも同時に考えた。まずは抜け落ち原因である。間詰床版は、場所打ちコンクリートであり、時間経過に伴って乾燥収縮する。しかし、橋軸直角方向に1.5~2.0N/mm2程度の緊張力が作用しているので、乾燥収縮したとしても間詰床版とPCT桁境界部に隙間が空くとは考えられない。となると、何らかの原因で想定しているプレストレッシングが作用しないか、PC鋼材のリラクセーションなどによって緊張力が弱まるかが考えられる。しかし、いずれも抜け落ちの考え方としては理解できるが、推定の域を脱してはいない。いずれにしても、抜け落ちた間詰床版を細かく調べてみようと考えるようになった。


 ここでも変な勘が功を奏したのか、抜け落ちたコンクリート片を廃棄せずにそのままの形で持ち帰っていたのである。第一に始めたのは、コンクリート片の形状測定と性状調査(打設時のコンクリート強度、配合推定、ヤング係数、中性化深さ、付着物質試験など)、第二には、抜け落ちた構造と同様な間詰コンクリート床版を製作し、試験体を使って静的、動的に荷重を載荷、ひび割れ発生や破壊に至る挙動及び破壊耐力などを調査することである。第三には、同様な構造の既設PCT橋(K橋を含む)について、経年によるプレストレス量の変化と抜け落ちの関係調べる目的で、プレストレス量の測定を行う、以上の3つを行うことを考えた。しかし、不思議なものである。あれほど原因究明に消極的であったA建設の技術者が、私の粘り勝ちか、何時からか協力的な態度に変わっていった。たぶん、社内で種々な議論をした結果、私の強引な態度に閉口すると同時に、他社に原因究明されては自社のメンツがない、会社としてマイナスと考えたようである。ここまでくれば、一日も早く調査及び原因究明ルートに乗せ、如何に短期間で効率よく全ての調査を行うかである。

2.抜け落ちたコンクリート片から分かったこと
 抜け落ちた間詰床版コンクリートの形状を確認するために、写真‐5に示す箇所の長さ、厚み、上下の幅を測定した。1/100mm精度のノギスで上下縁の幅を測り橋軸直角方向の幅を上縁側と下縁側で比較すると、表‐1で明らかなように上縁側が約2mm大きいことが明らかとなった。これは、橋軸直角方向の断面が下縁側に広い台形形状となっているということである。要するに、間詰部に直接荷重を受けた場合、抜け落ちしやすい逆テーパー形状になっていたと言うことだ。なぜ、PCT桁の側面にテーパーを付けたのか一つの謎が解けた。

 抜け落ちコンクリート片を詳細に見ると、確かにひび割れはある。確認できるひび割れは、中央部付近に下縁及び側面が0.15㎜~0.2㎜、上縁で0.3㎜であった。しかし、ひび割れが落下時に発生したのか、それ以前からのひび割れであるのかは判断できなかった。また、現場打設されたコンクリート片を見る限り、色調的に可笑しいなと感ずる状態ではない。その後行ったコンクリートの物性確認試験によって、これは裏付けられた。抜け落ちたコンクリート片から供試体として内径約100mm、長さ約250mm 4本コア抜きし、必要な試験を行った。供試体を使った強度試験等の結果、3体の平均値は、圧縮強度が35.9N/mm2、ヤング係数が27.6kN/mm2、比重が2.39であることから建設時の設計基準強度が30N/mm2を下回る値でなく、いずれも問題とはならない。配合推定については、普通セメントを使用したと考えると水セメント比は、57.1%、セメントが343kg/m3、骨材が1,846kg/m3、水が196kg/m3といずれの値を見ても妥当な範囲である。

 これで、打設時のW/Cが異常で乾燥収縮が大きくなる等の問題は少なくとも無いものと確認できた。最も興味深いのは、写真‐6で分かるように側面の上縁側にアスファルトが一部付着していることであった。側面にアスファルトが確認されたということは、間詰床版とPCT桁の境界面に一部空きがあったということになる。付着物質が本当に舗装材料に使っているアスファルトであるならば、硬化した間詰床版とPCT桁が完全に一体化していたのではなく、隙間があったことになる。

 付着物質がアスファルト舗装材であることを特定するために、両者を材料分析することとした。分析方法は、一般的な化合物を対象に定性・定量分析に用いられる基本的な測定法であるフーリエ変換赤外分光分析法(Fourier Transform Infrared Spectroscopy :FT-IR)を採用した。側面に付着した黒色物質とアスファルト舗装材の赤外線吸収スペクトル分析結果を図‐2及び図‐3に示す。図‐4に示す結果を見れば明らかなように、両者の差異はほとんどなく、ほぼ同質であると推測される。ここまで説明した間詰床版の形状および性状試験の結果から、抜け落ちる前からPCT桁側面と間詰床版に空隙があり、形状も幾分台形状となっていたこともあって、直上に車輪が乗った時に抜け落ちたものと推測ができる。
 しかし、それではなぜPC鋼材による横締めプレストレスが機能しなかったかである。要するに、間詰床版が乾燥収縮したとしてもそれを吸収するプレストレス量が十分でなかったことになる。

 プレストレス量不足に着目して考えると、第一には建設当初の施工に十分なプレストレシングが行われなかったと考えられる。しかしそうなると、プレストレスが不足した状態で、供用開始後30数年間も抜け落ちずに持ちこたえていたことになる。そんなラッキーなことが続くのか? 第二には、供用開始後に何らかの理由で、初期導入したプレストレスが減少したかである。これにはプレストレスの経時変化が考えられる。経時変化としては、PC鋼材自体のリラクセーションとコンクリート特有のクリープと乾燥収縮がある。ここで何となく分かってきた。構造変更だけでなく、横締めのプレストレス量を1.5~2.0N/mm2から3.0N/mm2に増やさざるを得なかった理由が。しかし、抜け落ちの推測がかなりの確率で出来たところで、決め手とは言えない。いずれにしても、現在供用している道路橋のプレストレス量を、何箇所か測定することが必要であるとの結論に至った。対象は、供用しているPC桁である。どのようにすれば完成系のPC構造物を対象に、安全に測定するかが課題となった。