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-分かっていますか?何が問題なのか-㉓予想しなかったプレストレストコンクリート橋の欠陥と業界の体質(その2)

これでよいのか専門技術者

(一般財団法人)首都高速道路技術センター
上席研究員
髙木 千太郎 氏

はじめに

 前回、PCT桁に起こった予想もしていなかった間詰床版抜け落ち事故(写真‐1参照主要幹線道路を規制)の詳細を説明するとともに、分かっていた事実(事故に直結する構造上の弱点など)を隠そうとする業界の体質について、当時を振り返って公表した。供用している道路施設に報告の無い事故が起これば、管理者としては当然同様な事象が起こる可能性を危惧し、事故を未然に防ぐために緊急調査を行うのは当たり前である。抜け落ち現場を確認した翌日から関係職員を総動員して管理橋の調査にあたり、その結果が前回の話題提供最後のフレーズである。


 第一段階の調査は、職員の協力によって何とか終わりはしたが、私個人としての不安は一層増す状態となった。その理由は、第一段階の調査では、以前から分かっているPC桁に発生する変状をおさらいするばかりで、何ら新たな知見を得ることはできなかったからである。これでは、なぜ抜け落ちたのか、他に波及する可能性はあるのか等を論理的に説明ができず、安全を確保したと外部に説明もできない。頼りにしていた国内でトップと言われているPC橋梁メーカーA建設の専門技術者の口からは、原因不明との回答しか返ってこないのである。万が一、同様な事象が管理区域内で発生し死傷事故となった場合、安全性を軽視しているとの社会的評価が予想され、管理瑕疵を問われるのは確実である。外部に助けを求めるにしても、四面楚歌に近い現状を考えるとお先真っ暗であった。それよりも、抜け落ち事故について相談したA建設(K橋製作・架設会社)から情報が漏洩し報道機関に伝われば、最悪の事態を招く。ここで、記事や番組公開について、管理者と報道担当者とのやり取りが分からない方々に説明する。一般的に、報道は真実を伝えることを基本とはしているが、視聴者の報道内容への食いつき方などから、行政側が悪者と捉えられるような表題となる場合が多い。これは、視聴率や読者数を競う報道社会の呪縛である。本来、正しい報道するべきであるが、公正な記事を出そうとして表題創ると、それのみで判断し内容を見る人が減ることから、チーフ記者は視聴者が飛びつく表題創りを記者に指示するのが現状である。報道取材を受けた方はお分かりと思うが、自分の話したことがすべて記事になることは少なく、視聴者や読者受けするように切り貼りされる場合が多い。であるから、PCT桁間詰床版の事故に関しても、「危険な橋を放置していた〇〇管理者、安全性軽視の体質が問題だ!」との見出しが躍り、「予想もしなかった、できなかった構造上の弱点・・・」の補足説明は、よく読まないと分からないような記事となる。取材時に、住民や関係者等が誤解しないように、細々と原因、対策方針を述べたとしても、紙面の都合とかニュース放映時間の制限等を理由に伝えたい部分をカットする。PCT桁道路橋の抜け落ち事故発生時も同様で、私が最も恐れていたのは、先に示した報道の負のシナリオに嵌ることであった。抜け落ち事故情報は、A建設技術陣からも漏洩の可能性はあった。


 しかし良く考えると、「偶然の出来事、過去に経験の無い事故」などと説明している状況を考えると、その可能性は皆無と考えた。自らの首や会社、業界の不名誉となる評価をかけてそのようなことを行うことは無いと推測した。それよりももっと恐れていたのは、自らの組織内からの内部告発であった。行政が組織的な問題点を、外部から指摘を受け訴訟に繋がる事象のほとんどは、内部告発が起因となっているからである。そこで私が取った策は、著名な学識経験者を入れた委員会の立ち上げと報道への委員会開催の公表である。私は今でも報道を敵ではなく味方につけ、互いにWin-Winの関係を創りだすことこそ、行政技術者に必要不可欠であると確信している。住民や報道を敵に回すことを避けるのが第一で、それができないようでは行政技術者として半人前と言える。私が直ぐに、組織総動員体制で緊急調査を開始したこと、専門家に原因究明に協力を依頼し、委員会を立ち上げたこと、事故内容を一部公表したことは、行政技術者のとるべき行動鉄則だからである。ここで最悪の事態は、調査や公表が後手後手に回り、隠ぺい状態で同様な事故が起こることである。

 

 さて昨今、多種多様なインフラに関係する事故報道が溢れている。私がここで述べた、行政技術者の業務におけるリスクマネジメントがお分かりの方はどれほどいるのか? このところ連続する報道の「管理者叩き」に不安を抱き、住民の信用失墜がますます増加するであろうと感じているのは私だけであろうか。それでは、第二弾の実橋のプレストレス量測定に取り組んだ話に移すことにしよう。