道路構造物ジャーナルNET

⑭新年の抱負

民間と行政、双方の間から見えるもの

富山市
建設技術管理監

植野 芳彦

公開日:2017.01.16

トリアージという本音が必要
 長寿命化一辺倒では財政が破綻

3.八田橋本音
 最近になり、熊本地震等の影響で、本市議会でも耐震性の話題が出ているので、やっと、耐震性の話が表ざたにできるようになったが、さらに、設計荷重や耐荷力に関しては、未だに議論すらできない。少し計算すればわかることなのだが……。
 「耐震化」と言う言葉は皆さん良く使うが、中身を理解しようとしているだろうか。
 そもそも、富山の方々は地震に対して、危機感がない。県の物件などを見ても耐震補強が不十分ではないか? と思われるものが多々見受けられ、市の物件はほとんどが耐震補強をやっていない。地域性がある。
 この話をしようとしても、真剣に聞こうとすらしない。地元コンサルタントなどもわかってはいない。わかっていないだけでなく、そのわかっていないということを、わかっていない。「立山に守られている」という神話的な理由をいう者すらいる。
 しかし、問題は、耐震設計、荷重制限の問題も危機感として感じようとしない職員やコンサルタントにある。老朽化問題では荷重を制限することにより長寿命化が期待できるが、野放しで重荷重を通していたのでは、傷みが進展するだけである。それよりも重要なのは、今後の架け替えのためのストーリー作りだ。現在の風潮は「長寿命化をしているのだから、永久に供用できる」と思っている、議員、市民、職員が居る。いずれは架け替えの時期が来ると言うことがわかっていない。その架け替えの必要性が何十橋と重なってくることが問題なのだ。このままでは(時が来たら)明らかに財政は破綻し手が打てないのだ。
 管理橋梁全体をマネジメントして、うまく順番付けして対応して行かないと、通行止めだらけになってしまう。そのため現在、架け替える橋、架け替えの順番を待つ橋、ごまかして供用させる橋、あるいはあきらめる橋。何もしなくてもまだまだいける橋を見極める作業を行っている。しかし、これも理解されない。「橋梁トリアージ」と呼ぶこの手法は、おそらく橋梁だけでなく他のインフラ全部に使える手法である。最近できた総務省の総合計画(公共施設等総合管理計画)なるものも、先の「橋梁長寿命化計画」が現在まったく使えないのと同様になると思う。その理由は、素人が時間だけ区切ってやっているからだ。本音と建前がキチント考えられていれば、まあ良しとしてもそうはならないだろう。
 耐荷重に関しては、過去の設計状況として、自治体の橋梁は、二等橋(TL-14)が主流である状況である。これに、下手をすると、25㌧荷重の重交通を平気で走らせているわけである。管理者としては明確に示さなければならないが、安易に考えている場合が多い。橋は持ったにしても、疲労問題や老朽化の進展が早くなるといった問題が起きる。



八田橋ゲルバー梁の確認状況

ハード尊重主義を期待
 感覚に優れた人財を一人でも多く育てたい

4.地方自治体の実態
 遅ればせながら、これまで様子を見てきて、わかったことがある。地方自治体は「まちづくり」が主体であり花形である。このため、維持管理や橋梁と言った構造物、ハード系への関心が薄いということである。これは、民間でもいえるが、どうしてもソフトとハードの垣根はあるものだと思う。計画(企画)やデザインに主流が行き、実際にものを作っていくということが、社会全体として疎まれているのではないだろうか? 成熟化社会の宿命か?とも思われるが、今後のインフラは誰が守るのか?
 ソフト系の事業は、FICTIONでいける。しかし、ハードはREALITYになる。この違いが理解されていない。コンサルタントも得意なのはソフト系であり、実際に物を作っていないのでなかなかなじめ無いものと思われる。シンクタンクも同様である。
 先日、「あなたがたは、実際に物を作り管理したことがあるのか?」と会議中に発言したが、これは決して民間のコンサルやシンクタンクに対し述べただけではない。発注者側もそうなのである。
 したがって、日頃わかったつもりでいても、問題が起きた場合にはどうしょうもなくなってしまう。自分で体験しろと言うのも難しいので、「感性」の問題になってくる。同じ物を見ても、感じ方はそれぞれ違う。
 「ハード重視」とは言わないが「ハード尊重主義」へ舵を切ってもらいたい。当富山市では「レジリエント計画」なるものも策定中である。同様の状況が見えるので、注意していきたい。これは官側が、民側の考えに押されてしまっている証拠であり、実態に沿った物にしなければ何の意味もなさないと言うことを付け加えておく。
 たとえば、八田橋に話題を戻して考えると、八田橋だけをみると、「更新事業」である。しかし、富山市の管理している橋梁、2,200あまりの全体を見なければ成らない。それが管理者である。民間の皆さんがよく、「あの橋をこうして・・・・」と提案してくるが、それはその橋1橋の話なのだ。
 コンサルタントの点検業務も、1橋もしくは数橋単位で施工する。補修設計も補修工事も同様だ。モニタリングも。管理者としては全体を考えなければならない。押並べて全体を見て、さらに1橋1橋に対応していく。ここで、「ソフト的感覚」が生きるかもしれない。まちづくりの面的感覚が。
 さらに、橋梁の技術的、構造的、「ハード感覚」が加われば、鬼に金棒であろう。そういう職員を1人でも多く育てたい。人材(財)を育てるのは、難しい。しかし不可能ではない。私のこれまでの中で、自分の下に居た人間で、優秀だと思って育てた者が何人か居るが、それぞれ個性を持って、現在活躍している。頼もしい限りであり。私などより遥かに優秀である。もしかしたら、世界を変えるかもしれない(大げさだが)。
 「橋梁マネジメント」と皆さんよく言う。小難しいことを言われるが、簡単な話である、自分の創るべき橋梁、管理すべき橋梁を将来へ向けて、限られた資源で事故の無いように管理運用していくことである。これが、わかっているようでわからない。官庁の人間は日々の仕事なのでわかっているはずであるが、問題は民間企業である。民間企業の中でもゼネコンは業務内容がマネジメントに関わる部分もあるのでよいだろう。ましてや、実際に、造ったこともないものには無理なのではないか……もうこれ以上書くのは止めよう。次回にまわす。
 そろそろ、「維持管理」の本音、本質を語ろう。

  最後に、本年の目標を記しておく
   ・「富山市 橋梁マネジメント基本計画」の見直しに取り掛かる
   ・補修材料、補修工法等補修技術の評価手法の検討
   ・過去の補修効果の確認と評価
   ・建設コンサルタント業務の業務評価の徹底を職員にさせる
   ・自身の引退(?)時期及び手法のマネジメント計画策定

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