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シリーズ「コンクリート構造物の品質確保物語」⑭

南三陸国道で行われる受発注者の協働思考 「品種改良」と現場力、リーダーシップ

横浜国立大学
大学院 都市イノベーション研究院
准教授 
細田 暁 氏

 インタビューシリーズの第2回目は、復興道路で実際の現場を担っているIHIインフラ建設の田中実氏に話を聞いた。求められる技術の変遷から始まり、同事務所管内事業の現場での「品種改良」の実例、現場を率いるリーダーシップの発揮の仕方、など多岐に渡る面白いものとなった。その詳細をお伝えする。(聴き手:細田暁・横浜国立大学准教授)(編集:井手迫瑞樹)


「時代」に求められる技術は変わる

 「仕様書を守る」=良い仕事?

 ――まず、今やられているお仕事と、移られる前にやられていた現場のことを、ごく簡単にお願いします。

 田中 現在は、仙台河川国道事務所管内の気仙沼付近の三陸沿岸自動車道の工事で、コンポ桁2本、斜材付きπ型ラーメン1橋の製作・架設を行っています。

 ――以前は、南三陸管内の大沢第三橋などの施工を担われていましたね。

 田中 はい、プレテンション方式のT桁橋。これは床版に間詰め部を有するコンクリート橋ですね。それとあとはコンポ桁の「大沢第三橋」(下図面)ですね。RC床版を有するコンクリート橋です。両橋ともフライアッシュを混合させたコンクリートを使用しました。

 ――南三陸の現場の前はどこの現場を担っておられたのですか。

 田中 主に新東名関係に多く従事していました。国交省さんの仕事も何本かやりました。

 ――どのような経験をされたのでしょうか。

 田中 この業界に入った時、新東名の建設が最盛期を迎えていました。新東名は日本を代表する道路事業でしたからアーチ、エクストラドーズド、吊橋などの様々な形式や栗東橋(近江大鳥橋)のように日本を代表する橋を作ろうじゃないかという熱意に溢れていました。しかし、同事業が中盤に差し掛かると、JHの民営化などの議論も重なり、建設費を抑えるための新技術が要求され、波型鋼板ウエブや大容量外ケーブル構造が開発されました。加えて品質確保のための新技術として、(グラウト品質確保のための)透明シースや、非破壊試験のような技術が導入されました。そのほか、JH/NEXCO以外の一般道の橋梁でも施工合理化のため、プレキャスト技術を用いた、セグメント桁が台頭してきました。こうした「時代」に求められる技術は、変わるものだ、というのを身をもって体験してきたように思えます。


突きつけられる実構造物の劣化という現実

 コンクリートに求められる「品種改良」

 ――南三陸では、どのような「時代」を感じますか。

 田中 「時代」は、建設から維持保全の流れに来ていると感じています。南三陸のこうした取り組みはまさに自分たちの今までのやり方に駄目出しされたようなものです。維持管理のコストを削減するには、まさに初めにどれだけ良いものを作るか、ということにかかっているわけですが、今までの仕様書を墨守するやり方では、駄目だということを官民ともに「実構造物の劣化」という現実を突き付けられています。

 今回の取り組みに当たって、今まで、我々は官民ともに「仕様書を守る」というのが仕事になってきたのではないかということを感じています。本当は「よい構造物を造る」=仕様書通りに施工するということではないのですが、技術者がサラリーマン化し、仕様書を守ることが仕事になってしまっていたのではないでしょうか。その中で私たちの仕事はコスト削減と定められた検査で点数を取る、ことを求められていたように感じます。

 ――田中さんはそれだけではないですよね。

 田中 「今」は違います。南三陸に来る以前は、(検査で)高得点を取って、高利益をあげる、これが要求され、自分たちの目標でもあったことも確かで、そうしたことを達成するための様々な「技術」もありました。

 翻って現在、南三陸国道事務所の復興事業で要求されている技術は、見栄えの良さや単純なイニシャルコストの縮減ではありませんね。


大沢3号橋で、施工前の予行演習


 土木はある意味後進的な分野ではないかと考えています。未だに大部分の構造物ではコンクリート――セメントと、石灰岩と、粘土質のものを混ぜて、それを粉にして、石と一緒に混ぜて、生コン車が来て打つ――ことを昔からやっています。それだけ改良しなくても確立された分野であるわけです。ただ、通常の工場製品と違うところは半製品という点です。出てきたものはそのまま製品にはならず、我々が現場で打設して、初めて製品になるものであり、施工時のさじ加減で製品が良くなったり、悪くなったりすることを痛感しています。

 ――遅れている、というよりはローテクですよね。じっくりと進んでいく分野ですから。ハイテクはカッコイイですが、スマートフォンなど100年後にはあるかどうかわかりません。しかし我々が造るインフラは50年前も基本的には同じ造り方をしているかも知れませんが、100年後も200年後も人々の生活を支えます。だから堅牢なものを造る必要がある。だから、ローテクって素敵だと思うのです。

 田中 2年間、南三陸国道事務所で仕事して、色々と勉強をしましたが、コンクリートには品種改良が無いように感じますね。

 ――品種改良、面白いですね、その心は

 田中 同じように比較的ローテクな技術として農業があるじゃないですか。例えば米づくりは新潟でも出来るし、沖縄でも北海道でも出来る。でも代表するコメブランドはササニシキとコシヒカリなわけですよね。なぜかと言えば品種改良したからです。地域にあったものを作ろうという人がいたわけですね。コンクリートはそれが無い。標準示方書を見ても九州と東北のコンクリートの記載に違いが無いわけです。今、ここではその「品種改良」のはしりを務めているのではないか、と感じます。