道路構造物ジャーナルNET

シリーズ「コンクリート構造物の品質確保物語」⑧

復興道路の耐久性確保の土壌づくり -施工状況把握チェックシートと目視評価を活用した試行工事-

横浜国立大学
大学院 都市イノベーション研究院
准教授 

細田 暁

公開日:2016.05.01

1. 復興道路における品質確保の取組みのスタート

 

 2012年8月10日に、日本大学の岩城一郎教授のコーディネートのもと、筆者と徳山高専の田村隆弘教授、山口県の二宮純氏が東北地方整備局(以下、東北地整)を訪問した。以前から、復興道路の品質確保が達成できるのか気にしていたが、2011年度から2年間に渡って活動したJCI(日本コンクリート工学会)のTC114Aである「データベースを核とした構造物の品質確保に関する研究委員会」(田村隆弘委員長、幹事長:筆者)での議論を経て、東北地整に山口県の取組みを紹介する機会を得たのである。
 当時の東北地整の佐藤和徳道路工事課長(その後、南三陸国道事務所長)以下、道路建設・維持管理を担う実務の主要メンバーが我々のプレゼンを聴いてくれたが、「丁重に」お断りされた。大量の工事の発注が予定されており、とても品質確保ための新たな取組みが受け入れられるような局内の雰囲気ではなかった、とのことである。
 我々は元からそう簡単に受け入れられるとは思っていなかったため、10月29日に、有志の勉強会である熱血ドボ研2030の岩城教授、筆者、東京大学の石田哲也教授、マスコミの仲間も含めて再訪し、当時の徳山日出男局長に短時間でご説明をして、良さそうな取組みであるとの理解をいただいたが、その後の佐藤課長らへの説明では、やはり無言の抵抗を強く感じた。
 12月18日に筆者は再度、東北地整を訪問し、品質確保に向けた提案をすることとなった。この日に受け入れられなければ、復興道路で筆者らの提案する取組みが実践される可能性は限りなく小さくなると考え、まさに全力での提案を行った。筆者は、山口県の開発した施工状況把握チェックシートと、坂田昇氏(鹿島建設)らと筆者で発案・開発した表層品質の評価法である目視評価法 に的を絞って、その効用を説明した。コンクリート構造物の品質向上に即効性が期待できることと、実は両方法ともに監督職員と施工者や作業員の間の協働的な関係を構築する効果が期待できること、を重点的に説明した。
 2012年12月18日の日中と夜が明らかなターニング・ポイントとなり、復興道路での品質確保の具体的なチャレンジが動き始めることとなった。復興道路においての官学の「協働」の雰囲気が生まれていく状況を直接体験できたことは筆者にとっても幸運であった。この日の夜の懇親会において、道路工事課係長であった手間本康一氏(現在は、南三陸国道事務所の監督官)が山口県での12月25・26日の構造物の目視評価 に参加して山口県の取組みの視察を行うことにもなり、その後の展開につながっていったのである。
 我々の提案が受け入れられた理由の一つは、東北地整の中で、道路の新設にかかわる人たちと、既設の道路を管理する人たちの関係が密接であったことであると考える。深刻な劣化がすでに生じてきている現状を知る佐藤氏らは、全国の標準仕様や、従来のそのままのやり方で復興道路のコンクリート構造物の耐久性が確保できるとは思っておらず、強い問題意識を根底に持っておられたのである。もう一つの大きな理由は、我々が山口システムを提案する場を設けた岩城教授と佐藤氏らとの間の信頼関係であった。世の常であろうが、物事を動かしていく場合に、すべての根幹が人間の信頼関係にあることを、筆者も学び続けている。
 その後、関係者の間で多くの意思決定や調整がなされ、2013年度の初頭から、復興道路における既設構造物の品質調査や、品質確保の試行工事の発注がなされていくこととなる。

2. 仙台塩釜道路での橋脚の品質調査

 

 2013年度に入り、仙台塩釜道路の4車線への拡幅工事の現場において、橋脚の品質調査を行うことになった。品質確保の取組みに着手するに当たり、今現在造られている構造物の品質の状態を把握することが最初に行うべきことである。課題を認識せずに、人は目的意識を持つことはできない。
 品質調査は下準備を経て、2013年5月31日(金)と6月1日(土)に行われた。いくつかの品質評価手法はコンクリートの含水率の影響を受けるため天候が気にされたが、この両日は非常な晴天であった。
 写真1に示すような拡幅部の複数の橋脚について、筆者が調査隊長となり、コンクリート構造物の表層品質の評価に興味のある研究者、技術者と東北地整の関係職員たちが参加しての調査を行った。写真2に示すP47橋脚には、手間本氏が指差す箇所等に微細なひび割れが多く認められた。調査では、以下の試験をそれぞれの試験の開発者や熟達した技術者が実施した。
・目視評価法,評価方法の改善,評価の教育方法の確立へ向けた検討
・SWAT(表面吸水試験)
・表層透気試験
・テストハンマー(シュミットハンマー)
・引っかき試験
・電気抵抗値の計測
・散水測色試験
・流水試験

 調査中には写真3に示すように何度もミーティングを行い、適宜、調査結果の速報をシェアしながら、役割分担を確認して調査を行った。業務での調査ではなく、技術者、研究者たちの自発的な調査である。調査の参加者が各自の興味を満たしつつも、調査チームとしては目的を達成しなくてはならない。この調査の目的は、佐藤和徳氏以下の東北地整の職員たちに現状のコンクリート構造物の品質は東北地方で十分な耐久性を発揮するためには十分でないことを知ってもらうことと、学会と連携することで先進的な高耐久化の取組みにチャレンジできそうな期待・希望を抱いてもらうこと、であった。
 初日の調査が終了した後、結果の速報会を行い(写真4)、翌日の調査戦略を確認し、懇親会を行った。この頃にはすでに協働の雰囲気が十分に出来上がっており、懇親会は大いに盛り上がり、今後のビジョンについて語り合った。二日間の調査を終え、コンクリート構造物の高耐久化へ向けての壮大なチャレンジが始まるであろうことを、参画したメンバーは強く実感した(写真5)。


写真1 仙台塩釜道路の調査対象橋脚(P11)/写真2 P47の微細ひび割れ部を指差す手間本係長(当時)
 
写真3 調査チームの度重なるミーティングの様子/写真4 調査初日を終えての速報会

写真5 二日の調査を終えての記念写真

 図1は,4点満点の目視評価法で,山口県のひび割れ抑制システムの運用前後の4基ずつの橋台と,仙台塩釜道路の橋脚4基の比較を行ったものである。仙台塩釜道路の橋脚は,沈みひび割れ,表面気泡,型枠継ぎ目のノロ漏れの点数が低く,山口県のひび割れ抑制システム運用後の橋台と比較しても,点数が相対的に低い傾向が認められた。

 図2には,表面吸水試験の計測結果を示す。良,一般の品質を示した山口県の構造物に比較して,仙台塩釜道路のP11,P47は品質のばらつきが大きく,吸水抵抗性に劣る結果となった。


図-1 山口県の構造物と仙台塩釜道路の目視評価による比較

図-2 表面吸水試験の計測結果

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