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シリーズ「コンクリート構造物の品質確保物語」①寺小屋から全国へ 

それはコンクリートよろず研究会から始まった「コンクリート構造物の品質確保とコンクリートよろず研究会」

徳山工業高等専門学校 
副校長 
土木建築工学科 教授 
田村 隆弘 氏

 人々が安心して安全に暮らせる社会を支えるコンクリート構造物は、現在でも日々建設され、我が国のストックとして蓄積されています。コンクリート構造物の建設には非常に多くのプレーヤーが参画します。現場打ちのコンクリート構造物の品質は、施工に大きく影響され,適切に施工されなかった構造物は厳しい環境作用、荷重のもとで簡単に劣化してしまいます。均衡ある国土の発展のためには、これからもコンクリート構造物のインフラ整備が必要不可欠であり、将来の維持管理の負担を減らすためにも高耐久の構造物を建設する仕組みの構築が必要です。そして、そのような仕組み作りの過程で設計・施工・材料・マネジメントの観点で鍛えられたプレーヤーたちが、我が国が存続する限り永久に続けなくてはならない構造物の維持管理の仕組みを創っていくことになります。

 この連載では、産官学の真の協働で、コンクリート構造物のひび割れ抑制システムを構築した山口県の産官学の取組みについて、その発端から説明し、品質確保を通じて人財が育成され、人々がつながり、よいくにを創るという志と愛が広がっていく物語を、連載で紡いでいきます。平成17年にひび割れ抑制の模索が始まった山口県の取組みは、平成19年からシステムの運用が始まり、東日本大震災以降の東北地方の復興道路のコンクリート構造物の品質確保・耐久性確保へとつながり、さらに日本各地の地域での展開へと広がりを見せています。

 山口県の「コンクリートよろず研究会」から始まった物語が、少しずつ大きく紡がれていく様子をお楽しみください。(コーディネーター=細田 暁 横浜国立大学准教授)





 近頃、「良いものをつくろうよ」という建設技術者の心を動かす魔法の言葉で建設業界に一つのムーブメントを巻き起こしている“コンクリート構造物の品質確保”、その火付け役となっている土木学会350委員会の活動。その活動の起源は、山口県のささやかな寺子屋的研究会にあった。


 「コンクリートよろず研究会」、平成14年から平成16年の約3年間に渡って著者の所属する徳山工業高等専門学校で活動した研究会である。コンクリートの硬いイメージを取り除きたいと、少々くだけた名前をつけたこの研究会には、著者の近辺にいる施工者、生コン製造者、コンサルタント、材料業者が集まった。「ひび割れ」をメインテーマとして研究し、約2年間で成果をまとめ「コンクリートのひび割れ予防対策“あなたにしかできないことがある”」タイトルをつけた講習会を開催したところ、会場は定員を大幅に超える聴講者であふれた。


 そして、この会の発足から約12年経った今、東北復興道路の建設現場を始めとして、日本全国のコンクリート構造物の建設現場で明らかに「コンクリートの品質確保」の動きが起きている。


コンクリートよろず研究会
1.「コンクリートよろず研究会」の立ち上げ
 そもそも、コンクリートよろず研究会はどうして設立したのか。
 きっかけは、平成12年夏に地元大手の建設会社である洋林建設株式会社から「施工したコンクリート構造物にひび割れが出た。県発注の工事で、原因を推定して対策しなくてはいけないが、どうしたらいいか悩んでいる。」と相談を受けたことだ(写真1)。さっそく著者は、施工現場に行って理解している範囲の知識で洋林建設が作成する報告書の手助けをした。

 写真1 発生したひび割れの補修風景

 思えば、国土交通省の「コンクリート構造物の品質確保に関する通達」が出されたのは、そのすぐ後の平成13年である。すでに国土交通省としては、コンクリート構造物の品質確保の必要性について声が上がっていたものと思われる。

 さて、平成13年に山口県が民間との共同研究を促進する助成事業「アカデミックポテンシャル活用推進事業」の公募があったので、これに洋林建設と共同で「コンクリート養生システムの開発」をテーマとして応募したところ採択された。建設しようとする構造物を丸ごと囲んで、エアコンと加湿器で温度や湿度を管理しながらコンクリートの打設から養生まで行おうという仕掛けである。
実構造物での試験施工では、養生システムの効果はてきめんだった。養生システムを使った構造物では、コンクリート表面でのひずみの変化量も小さく(図1)、脱枠時には(通常の木製型枠を使用しているにもかかわらず)まさに鏡面のようにコンクリート表面が輝き、ひび割れも全く出なかった(写真2〜6)。これに対して、通常のジェットヒーターと練炭で管理を行った構造物ではひび割れも発生し、コンクリートの肌も悪かった(写真7〜9)。

写真2 養生システムによって管理した貯水槽

写真3 養生装置に使用するエアコン(左)/写真4 養生装置に使用する加湿器(右)

写真5 表面でのひずみ計測(左)/図1 表面でのひずみ状況(右)

写真6 懐中電灯が壁に映るほどに仕上がった養生システムのコンクリート表面
 
写真7 練炭養生(左)/写真8 ジェットヒーター養生(右)
 
写真9 練炭とジェットヒーターで養生した構造物のひび割れ(建設2年後の状況)


冷汗をかく経験がその後の自信になる

 せっかくの研究成果だ、開発に関わった洋林建設の若手技術者に第56回「セメント技術大会」で発表してもらった。学会では、東京大学の教授から質問を受け、顔色を青くし汗を拭きながらも懸命に応える若者の姿があった。帰路の新幹線の中で洋林建設の部長と「若者にはこうした冷や汗をかくような経験をさせることがその後の自信になる。」という話になり、地元に研究会を作ろうではないかと盛り上がった。

 徳山高専は地元企業との連携でテクノアカデミアという教育研究支援組織を持っている。そこに人材養成講座があり、これを活用することにした。まずは土木学会のコンクリート示方書を読んで基本的なところから勉強しようと14年4月から3回「コンクリート示方書を読む会」を開講した。思いの他人気があって毎回約20人の参加者があった。

 手応えを感じた我々は、勉強のテーマを「コンクリート示方書」に限らず、いろいろ皆で話し合える場にしようと同年12月3日に「コンクリートよろず研究会」を立ち上げた(写真10)。


写真10 研究会風景