道路構造物ジャーナルNET

第59回 職員教育

民間と行政、双方の間から見えるもの

富山市
政策参与

植野 芳彦

公開日:2020.11.16

1.はじめに

 涼しくなりました。今年度も、この時期、沖縄に行ってきました。JICA沖縄研修所にて、南方系赤道付近の国々の官僚たちに、道路維持研修の中で「橋梁マネジメント」に関して話すのが私の役割。ここ7年くらいやってます。例年は研修室で半日ほど行うのですが、本年はコロナ禍でビデオ配信です。例年、皆熱心に聞いてくれるので毎年、こちらが感動してます。今年は本当に残念です。まあ、これに行くと毎年、沖縄との温度差で風邪をひくのが通例です。


JICA 沖縄研修所の食堂入口

研修風景

 ここのところ、最近よく相談されるのが、職員(社員)教育に関してです。この問題は本当に難しいと思う。なかなかできないというのが現実なのではないか? 難しいからやらないのか? やれてないのか?

2.富山での取り組みと効果

 当初、私の席は、道路河川管理課というところにあった。これは橋梁係がその課にあったためで、しばらく組織や職員の様子を見て、今後の富山市の橋りょう保全は、まずマネジメント体制を構築する必要があると判断した。当時の昵懇の副市長にお願いし、席を「建設政策課」に移す許可をもらった。そして富山市の建設政策の一貫として、橋梁マネジメントの構築に取り組む体制にした。これにより、それまで行き当たりばったりの橋りょう保全が計画的に動くようにしたかったわけである。
 これは大きな成果で、少しの間、「橋梁係」はそのままとはしたが、早急に課体制へとすべく動いた。橋梁の保全予算も、急遽アップしてもらうように市長に直訴した。「いくら必要なんだ」というので、とりあえず点検に必要な毎年2億円のアップを年度途中に切り出したので、皆大騒ぎとなった。しかし、市長が財務部長を呼び、「植野さんに、とりあえず毎年2億円つけてやれ」となった。財務部長も私の味方だったので、話は決まったが、建設部に戻ると、「そんな予算だけ急にもらっても」「人が足りない」と言うことで逆に、喜ばれなかった。
 そして、「橋りょう保全対策室」として新たな室を発足し、これまでの橋梁係4人体制から、9人体制となった(平成30年度からは「課」となり、12人。さらに、令和2年度からは「道路構造保全対策課」となり15人体制になった)。

 富山市のインフラに関しては一任されていたが、職員のとらえ方は、相変わらず昔のままの課体制で考えている(現在でもそうである)。この思考が、マネジメントを遅らせる結果となるが、それは無理強いしないのが植野流である(私の方針である)。残念な結果ではある。これは教育がうまく行っておらず、旧態依然とした思考に固まっている組織が故である。
 そもそも、私という存在が急に市長の一声で入ってきたときに、世の中が見られる方々であれば、考えを変えなければならないのだが、そうはならないのは仕方がないところである。組織に横断的に入り込むはずであった。強硬にもできたが、軋轢を生んでも組織は変われない。
 職員の教育は市長からの特命事項であった。資質向上策として「植野塾」というものを始めた。とりあえず「職員技術研修」として毎月1回実施した。インハウスエンジニアとしての留意点、心得を中心に「考える職員」の育成を目的とした。
 毎月1回、これまでに6年間続けた。当初の「職員技術研修」はいつの間にか「植野塾」と呼ばれるようになり、現在は「植野塾」となっている。しかし、今年度は要望もないので開催していない。


植野塾(弊サイト掲載済み)

 なぜ、技術に関することをやらなかったのか? と聞かれるが、もちろんそれは考えた。私は、まがりなりにも39年間橋梁に携わり、一応それなりに体験してきている。最初に道路橋の示方書改定にかかわったのが35歳の時であり、20代から橋梁のシステム開発や、新技術開発にかかわり、橋梁の現場も工場も経験してきた。さらに、非破壊検査なども経験している。AIの開発もモニタリングシステムも20年以上前にやっていた。
 これを相手がどう思おうと勝手なのだが、私よりもコンサルの言っていることを信じる傾向が強い。まあ、当事者の勝手なのであるが、おそらくそのつけが、これから襲ってくる。とくによくわからないであろう、伸縮継ぎ手や防水の問題、補修法に関し、コンサルの意見を重視している。情けないことであるが(これは私自身に対して)、まあ、仕方がない。富山市の判断であると思っている。ということで、成果に関してはなかなか感じ取れないのが実情である。
 いまだに、だめだといいながら毎年、同じ地元のコンサルに発注し、結果、「出来が悪い」と言っている職員を見ると、「お前の出来が悪いんだろう」と思う。確かに、自治体では「地元育成」という大義名分のため、地元企業を優先する傾向が強いが、明らかな手抜きをする企業に関しては、発注する義務はないと考える。納税者に対し失礼である。地元育成とは地元業者を甘やかすことではない。

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